アメリカでは11月の第4木曜日が「感謝祭(Thanksgiving Day)」の祝日。自然の恵みや日々の暮らしに感謝を捧げる日で、家族や友人で集まって、七面鳥料理を囲むのが一般的なイメージです。挨拶は “Happy Thanksgiving”。この日は単なる休日ではなく、アメリカの歴史と社会の多面性を映す日でもあります。ここでは、感謝祭のお祝いの仕方から歴史、定番料理などをご紹介します。
ホワイトハウスの伝統行事「七面鳥の恩赦」

2021年にバイデン大統領に恩赦を与えられた七面鳥は、インディアナ州ラファイエットにあるパデュー大学農学部に送られました。
大統領が2羽の七面鳥に“恩赦(Turkey Pardon)”を与えるという儀式で、1947年のトルーマン政権時に始まったといわれます。現在では、恩赦を受けた七面鳥はディズニーワールドや大学農場などで余生を過ごすのが恒例です。
また、ホワイトハウスでは2003年から公式サイトで恩赦を受ける七面鳥の名前を公募し、2014年から「2羽の七面鳥のどちらに恩赦を与えるべきか」と、SNS などで呼びかけるようになりました。
感謝祭の定番料理

感謝祭の食卓を象徴するのは、七面鳥(ターキー:turkey)の丸焼きです。詰め物(スタッフィング)、マッシュポテト、クランベリーソース、パンプキンパイなど、秋の収穫を祝う料理が並びます。詳細は下記の記事でご一読ください。

感謝祭を彩るパレードとスポーツ
毎年ニューヨークで開催される『Macy’s Thanksgiving Day Parade』(1924年開始)は、華やかな巨大バルーンと音楽隊で知られる全米屈指のイベントです。
また、NFLの感謝祭ゲームも恒例行事で、3試合が全国中継されます。アメフト観戦は多くのアメフトファンにとって「感謝祭の日の午後の風物詩」となっています。
感謝祭は祝日で、たいていの企業は休業となります。たいていは感謝祭の翌日も休日にして連休にするところが多いです。感謝祭翌日の金曜日はブラックフライデー(Black Friday)。ホリデー商戦の幕開けであり、各地の小売店が大規模なセールを行います。
『Thanksgiving』と『Thanks Giving』の違い
正しいスペルは「Thanksgiving」
アメリカの祝日としての「感謝祭」は、正式には Thanksgiving と一単語で書きます。
語源は「thank(感謝する)」+「giving(与えること)」ですが、17世紀の英語表現 “the giving of thanks(感謝を捧げること)” が短縮されて、一つの名詞「Thanksgiving」として定着しました。
そのため、「Thanksgiving Day」は「感謝祭の日」という固有名詞であり、年に一度の祝日を指します。
「Thanks Giving」と分けて書くのは間違い?
日常の英語では、“Thanks Giving” と二語に分ける表記は誤りです。
たとえば「Happy Thanks Giving!」というスペルはネイティブには不自然に見えます。祝日を指す場合は必ず “Happy Thanksgiving!” と書きます。
では「Thanks Giving」はまったく使えない?
「Thanks Giving」は文法的には間違いではありませんが、造語的または強調的な表現として使われます。
たとえば、下記のような形で使うことがあります。
This season is all about thanks giving and kindness.
(この季節は“感謝を与えること”と優しさの季節です)
このように「Thanks」を「Giving」する、つまり「感謝を行動で表す」という動詞的・概念的な意味を強調したい場合に、意図的に分けて使うケースがあります。広告コピーやスピーチ、グリーティングカードなどで見られる用法です。
つまり、”Thanksgiving” は日を祝う言葉、”thanks giving” は感謝の行動を表す表現なのです。
感謝祭の起源と歴史
感謝祭がアメリカの祝日となったのは1863年(南北戦争中)。リンカーン大統領が「11月の最終木曜日を感謝祭とする」と宣言したのが始まりです。その後、1941年にルーズベルト大統領が署名し、現在の「11月の第4木曜日」として正式な連邦祝日になりました。
感謝祭の物語は、1621年にマサチューセッツ州プリマスで行われた収穫の祝宴が由来とされます。イギリスから渡ったピルグリム(入植者)と、先住民族ワンパノアグ族(Wampanoag)が共に食卓を囲んだという伝承です。今でも、多くの学校ではそのように教えられ、そのまま信じている人も少なくありません。しかし近年、この物語は一面的であり、当時の先住民の苦難を省略しているとの指摘があります。
先住民族から見た感謝祭
アメリカの感謝祭(Thanksgiving)は「感謝の日」として知られていますが、先住民族にとっては悲しみを思い起こす日でもあります。
『National Geographic』によると、ニューイングランド沿岸に暮らしていた多くの先住民は、1610年代後半の伝染病で人口の最大90%を失いました。原因はヨーロッパから持ち込まれた外来種のネズミが媒介したレプトスピラ症(leptospirosis)とされています。
弱体化したワンパノアグ族は入植者と同盟を結びましたが、1675年のキング・フィリップ戦争で壊滅的な被害を受けました。その後も入植者による土地の収奪と強制移住が続き、先住民の文化や生活は深刻な打撃を受けました。
1970年、メイフラワー号到着350周年の祝賀式典で、ワンパノアグ族のワムスッタ・フランク・ジェームズ氏は迫害の歴史を訴えるスピーチを用意しましたが、朗読を拒否されたため、代わりに自身のスピーチを読み上げました。これが『National Day of Mourning(嘆きの日)』の始まりであり、今も先住民の尊厳と歴史を伝える日として続いています。
マサチューセッツ州プリマス市が設置した記念碑『National Day of Mourning』には「1970年以来、ネイティブ・アメリカンは、感謝祭の祝日にNational Day of Mourningを記念して、正午にプリマスのコールズ・ヒルに集まってきた。多くの先住民は、ピルグリムや他のヨーロッパからの入植者の到着を祝わない。彼らにとって感謝祭は、何百万人もが虐殺され、土地が盗まれ、文化が容赦なく攻撃されていることを思い起こさせる日である。National Day of Mourningの参加者は、先住民の祖先と、今日を生き延びるための先住民の奮闘を称える。この日は、記憶と精神的なつながりの日であると同時に、先住民が今も経験している人種差別と抑圧に対する抗議の日でもある」といった内容が書かれています。
こうした歴史は広く知られていないことが多く、2012年の感謝祭に 『This American Life』 が現在のミネソタ州に住んでいたダコタ・インディアンが入植者に迫害された歴史を紐解く 『Little War on the Prairie』が放送され、注目を集めました。
10月第2月曜日は「コロンブス・デー」と「先住民の日」に
2021年10月8日、バイデン大統領はアメリカ合衆国大統領として初めて10月第2月曜日を Indigenous Peoples’ Day(先住民の日)とすると宣言しました。アメリカ大陸の最初の住民は先住民であることを認める日です。
しかし、2025年1月に始動した第二次トランプ政権で、トランプ大統領は10月9日付の大統領宣言で「10月13日を Columbus Day として祝う」と明記し、Indigenous Peoples’ Day への言及は含んでいません。Columbus Dayを従来の名称・意味で維持し、先住民の日の併記・切り替えは行わない」という立場を示しています。

- Indian Country Today: A Wampanoag retelling of Thanksgiving
- Washington Post: This tribe helped the Pilgrims survive for their first Thanksgiving. They still regret it 400 years later.
- Time: 400 Years After the ‘First Thanksgiving,’ the Tribe That Fed the Pilgrims Continues to Fight for Its Land Amid Another Epidemic

