ワシントン州と聞いて、あなたはどんなイメージを持ちますか?アメリカの首都ワシントンD.C.とは違い、太平洋側にあるワシントン州は、南樺太から北海道の北端とほぼ同じ緯度の範囲に位置し、日本の半分近い、アメリカで18番目に大きい面積に日本の人口の約16分の1にあたる約780万人が住んでいます。
数万年前から先住民が住んでいたところに、ヨーロッパから移民した人やその子孫が入植し、アメリカ合衆国の独立宣言が出された1776年から113年後の1889年に42番目の州となりました。その頃から農業や林業、漁業などの第一次産業が盛んですが、経済的にも文化的にも多様化した現在では、マイクロソフトやアマゾンなどのIT企業や、スターバックスやコストコなどの小売業など、世界的に有名な企業が多数本社を置いています。
また、ワシントン州は、自然の美しさにも恵まれています。南北に連なるカスケード山脈には、火山活動によって形成されたマウント・レーニアやマウント・セント・ヘレンズなどの雄大な山々がそびえています。カスケード山脈の西側は太平洋に面し、森林や湖が広がり、州最大の都市シアトルや州都オリンピアのあるシアトル大都市圏があります。カスケード山脈の東側は、西側より乾燥した気候で、草原や砂漠が見られます。こうした自然のおかげで、アウトドア好きにはぴったりな場所となっています。
この記事では、ワシントン州の歴史や文化、自然や産業について、詳しく紹介していきます。
温帯雨林から火山まで!変化に富む自然に恵まれた州
日本の国土の半分近い面積のあるワシントン州は、南北に走るカスケード山脈で、西側と東側に分かれ、地形も気候もとても変化に富んでいます。州最大の都市シアトル市を中心に、オリンピック山脈や世界遺産の温帯雨林のあるオリンピック半島、太平洋に面した手付かずの海岸線、300以上の大小さまざまな島があるピュージェット湾、5つの成層火山やスキー場のあるカスケード山脈、砂漠、灌漑農地、なだらかな丘陵地帯、北のカナダから流れる大河コロンビア・リバーを含むたくさんの川など、実に変化に富んでいます。
カスケード山脈の東側は、Eastern Washington(ワシントン州東部)と呼ばれます。夏は気温が摂氏40度前後まで上昇し、冬は雪が積もり、氷点下の日が続きます。全米第2のワインの産地で、どこまでも続くワイン畑が見られるところもあります。
ネイティブ・アメリカンや、さまざまな移民との歴史のある州
ワシントン州は1889年11月11日に42番目の州として承認され、アメリカ初代大統領ワシントンにちなんでワシントン州(State of Washington)と名づけられました。大統領の名前が州名になっている米国唯一の州です。
1万1500年以上前にアジア方面からやってきた人たちが先住民(ネイティブ・アメリカン)のルーツと言われていますが、州内各地にさまざまな部族が形成され、ヨーロッパなどから入植者が来る17世紀ごろまで、独自の文化を育んでいました。
1790年代以降はイギリス海軍のジョージ・バンクーバー提督やトーマス・ジェファーソン大統領の命を受けたメリウェザー・ルイスとウィリアム・クラークのルイス&クラーク探検隊が調査探検したことで知られるようになり、19世紀前半にはキリスト教の布教を行う白人が入植を開始。1853年にワシントン・テリトリーが設立され、不公平なエリオット条約を結ばされた先住民は迫害を受け、居住地に強制居住させられてしまいます。
日本からの最初の移民が米国北西部に移住したのは1880年代。その後、日本人・日系アメリカ人の人口は増え、1941年12月に日本がハワイの真珠湾を攻撃してから約2か月後にルーズベルト大統領が日本人と日系アメリカ人の強制収容を命じるまで、シアトルには「日本町」が栄えていました。
第2次世界大戦後は第2次大戦後は、豊富な水資源による安い電力、ダム建設の恩恵を受けた灌漑システムなどにより、農業が飛躍的に成長。1962年にシアトルが万国博覧会 『センチュリー21』 の開催地となり、その存在を世界に知られるようになりました。この時に会場となったシアトル・センターやスペースニードルは現在のシアトルのランドマークとなっています。
1970年代の不景気、1980年代後半以降の産業の多様化、2000年後半から2002年1月に起きたITバブル崩壊、2001年9月11日に起きたニューヨークの同時テロ事件、2008年の金融危機など、さまざまなチャレンジに直面してきましたが、2000年代から続くIT 産業の成長にけん引され、大成長を遂げてきました。
多用な産業に支えられる州
ワシントン州は、貿易、IT 産業、航空・宇宙関連産業、バイオテクノロジー産業、医療関連産業、環境関連産業、木材関連産業、農業、漁業といった、さまざまな産業に支えられています。
アマゾン・ドットコムやマイクロソフトに代表される IT 産業、スターバックス社に代表されコーヒー産業、航空・宇宙関連産業は有名。また、州の半分以上は農地で占められているほど農業が盛んで、特に州東部では小麦・麦・果物・ナッツ類・じゃがいも・とうもろこし・ホップなどが栽培されています。りんごやチェリー、ホップなどの生産は全米1位。ワインの製造では全米2位を誇ります。
このような産業の多様化に成功したのは1980年代からで、1970年代初期にボーイング社の業績不振が州全体にもたらした不景気が教訓となっています。2000年代後半に入って始まった不景気の影響を乗り越え、2013年から好景気が続いていましたが、2020年の新型コロナウイルス感染拡大により大きな打撃を受け、失業者が急増しました。
基本データ
ワシントン州の基本データ | ||
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州の愛称 | Evergreen State(エバーグリーン・ステート) | |
州の略称 | WA | |
州都 | Olympia(オリンピア) 人口53,620人 ※2020年国勢調査 | |
州の位置 | 米国本土の北西部に位置し、カナダのブリティッシュ・コロンビア州との国境に隣接している。 | |
州の面積 | 71,298平方マイル(184,660平方キロ) ※全米18位; 日本の総面積の約半分 | |
州の人口 | 7,705,281人 ※全米13位 2020年国勢調査 | |
人口の多い10都市 | シアトル市 737,015人 スポケーン市 228,989人 タコマ市 219,346人 バンクーバー市 190,915人 ベルビュー市 151,854人 ケント市 136,588人 エベレット市 110,629人 レントン市 106,785人 フェデラルウェイ市 101,030人 カークランド市 92,175人 ※2020年国勢調査 | |
人種 | 白人 63.8% ヒスパニック系/ラティーノ 13.7% ハワイ/太平洋諸島 0.8% アジア系 9.4% 黒人/アフリカ系 3.8% 先住民 1.2% 複数人種 6.6% その他の人種 0.6% ※2020年国勢調査 | |
政治 | 州 | 知事 ジェイ・インズリー (Jay Inslee) (民、第1期:2013~2016年、第2期:2017年~、第3期:2021年~)(任期4年) 副知事 デニー・ヘック (Denny Heck) (民、第1期:2021年~)(任期4年) 州議会(Washington State Legislature) 上院49議席(民27、共21、共コーカス所属の民1) 下院98議席(民57、共41) アメリカの各州は州憲法を持ち、司法・立法・行政機関が独自に存在し、税率も独自に決定する。 |
連邦 | 大統領選挙 大統領選挙人 12人(全米538人の2%) 2020年大統領選挙結果 <ワシントン州> 有権者投票 バイデン(民)58.4% (2,369,612票) トランプ(共)39%(1,584,651票) <米国> 有権者投票 バイデン(民)51.4%(81,283,485票) トランプ(共)46.9%(74,223,744票) 選挙人投票 バイデン(民) 306 トランプ(共) 232 連邦上院議員 2議席(民2) パティ・マレー Patty Murray (民) マリア・キャントウェル Maria Cantwell(民) 連邦下院議員 10議席(民6、共4) | |
軍事 | 陸軍 | 第1軍団(フォート・ルイス) |
海軍 | ピュージェット湾海軍基地群は、ノーフォーク、サンディエゴに次ぐ米国第3の規模 | |
経済 | 財政 | 約592億ドル(2021年~2023年の2年間予算) |
州内総生産 | 6187億ドル(2020年)(全米第10位)(FRED調べ) | |
経済成長率 | -0.7%(2020年)(全米平均-3.5%) | |
基幹産業 | 貿易、ハイテク(IT・医療機器・計測機器)、航空産業、農業、クリーンテクノロジー、林業、ライフサイエンス、海運業、観光など | |
主な企業 | Costco、Microsoft、Amazon、Paccar、Starbucks、Costco、Weyerhaeuser、Expeditors International of Washington、Nordstrom、Expedia、Alaska Air Group 他 | |
貿易額 | 902億ドル(輸出413億ドル/輸入489億ドル)(2020年) | |
世帯所得平均 | 67126ドル(2020年)(全米第7位) | |
最低賃金 | 12ドル(2019年1月1日から) | |
失業率 | 3.8%(2021年12月) | |
教育 | 機関 | 大学: 61校(うち州立4年制大学6校及び11分校) 主要大学:ワシントン大学、ワシントン州立大学、ウエスタン・ワシントン大学、セントラル・ワシントン大学、イースタン・ワシントン大学、エバーグリーン州立大学、シアトル大学、シアトル・パシフィック大学など |
水準 | 25歳以上の高校卒業以上の割合 91.3% 25歳以上の学士号以上保持者の割合 36.0% (2015年~2019年) | |
報道 | 主要新聞 | シアトル・タイムズ紙 |
放送局 | テレビ局 36局、ラジオ局 338局 | |
日本との関係 | 総領事館 | 在シアトル日本国総領事館 |
在留邦人数 | 約16618人(2021年) (在シアトル日本国総領事館発表) | |
日本関係機関 | ワシントン州日米協会 兵庫ビジネス文化センター 神戸市貿易事務所 国際農業者交流協会 日本語補習校 | |
進出日本企業 | 213事業所(2021年) (在シアトル日本国総領事館発表) | |
対日輸出入額 | 107.7億ドル(輸出48.1億ドル 輸入59.6億ドル)(2020年) 1位 中国、2位 カナダ、3位 日本 | |
日系人口 | 85,632人(2019年 American Community Survey 国勢調査局) ※全米4位 ※アメリカ全体 755,672人 1位カリフォルニア州、2位ハワイ州、3位ニューヨーク州 2019年国勢調査 | |
日系人団体 | シアトル日系人会、タコマ日系人会、全米日系市民協会(JACL)、日系コンサーンズ(敬老ホームなど)、シアトル日本語学校、日系米国人商工会議所など | |
姉妹県・都市 | 姉妹県:兵庫県、姉妹都市:シアトル市と神戸市など35の自治体が姉妹都市関係を提携 | |
当地出身の著名人 | トム・フォーリー(前駐日大使)、ビル・ゲイツ(マイクロソフト社会長)、故ポール・アレン(マイクロソフト社共同設立者)、ジミ・ヘンドリックス(ロック歌手)、ベンチャーズ(ミュージシャン)、フレッド・カップルズ(ゴルファー)、故アレックス・ヘイリー(作家)、故カート・コヴァーン(ニルヴァーナ) | |
州の象徴 | 花: Coast Rhododendron (カリフォルニアシャクナゲ) 鳥: American Goldfinch (アメリカン・ゴールドフィンチ) 樹: Western Hemlock(アメリカツガ) 魚: Steelhead Trout (マスの一種) 海洋哺乳類: Orca (シャチ) 虫: Green Darner Dragonfly(トンボの一種) 果物: Apple(リンゴ) 野菜: Walla Walla sweet onion(タマネギの一種) 石:Petrified Wood(化石木) | |
州の歌 | Washington, My Home |