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ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法(OBBBA)がもたらす、雇用主への実務的影響

Photo by Israel Andrade on Unsplash
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2025年7月4日、トランプ大統領が提案した「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法(One Big Beautiful Bill Act:OBBBA)」が、党派間の僅差による採決を経て上下両院を通過し、署名をもって正式に成立しました。

OBBBA法は、税制改革、エネルギー開発促進、移民法執行の強化、規制緩和など、共和党の主要政策を包括的に盛り込んだ法律です。中でも中心となるのは、富裕層への減税を含む税制改正と、その財源確保のための歳出削減です。

特に注目すべき柱は以下の3点です。

  • 医療や食料支援など基礎生活支援プログラムの削減
  • 国内エネルギー政策の大幅な転換
  • 社会保障制度の見直し

さらに、この法律の一部として成立したチップ(Tip)および残業代に対する減税規定は、一部の雇用主の報告義務や給与計算システムの改修を必要とする可能性があります。これらの規定は2025年初頭に遡って適用され、2028年末に失効する見通しです。

いずれの規定も、賃金の受給資格、報告手続き、給与管理といった雇用実務に直接影響を与える内容であり、企業経営や人事部門にとって重要な対応課題となります。

このコラムでは、OBBBA法の主要ポイントと雇用主・企業への影響を詳しく解説します。

目次

非課税の概要

この残業代非課税は誤解されやすいのですが、従業員が受け取る残業代(時間外労働の賃金)に対して、所得税が課されないというもので、社会保障税やメディケア税などはこれまで通り課されます。つまり、すべての税が免除されるわけではありません。非課税となる要件を可解の通りまとめました。

  • 対象期間:2025年初頭から2028年末まで(4年間の時限措置)
  • 対象支払:FLSA(公正労働基準法)第7条に準拠した適格残業手当
  • 控除限度額:単独申告者:最大12,500ドル/年、共同申告者:最大25,000ドル/年
  • 所得制限:調整後総所得(AGI)150,000ドル超(共同申告は300,000ドル超)で段階的に廃止

適格残業手当とは

今回の税制改正では、すべての残業手当が非課税となるわけではありません。非課税となるのは、通常の時給(ST/Straight Time)を上回る「残業(OT/Overtime)分」のみです。

たとえば、時給20ドルの従業員に残業1時間に対し30ドル支払われる場合、控除対象になるのは差額である10ドルのみです。この差額部分が「適格残業手当」と呼ばれます。

この適格残業手当が控除の対象となるには、連邦労働法(FLSA)で定められた条件を満たしていることが前提となります。具体的には、「週40時間を超えた勤務に対して、1.5倍以上の賃金を支払っていること」が必要です。

たとえば、カリフォルニア州など一部の州では、「1日8時間を超えた勤務」が残業とみなされますが、今回の制度ではそのような州独自の基準ではなく、あくまでも週40時間を超えた勤務分のみが非課税の対象となる点に注意が必要です。

時給24ドルの従業員が年間150時間残業した場合、残業の割増賃金(通常時給の1.5倍のうち追加分)は約12ドル(24ドル × 0.5)となります。したがって、課税所得から控除される割増賃金部分は12ドル × 150時間 = 1,800ドルです。有効税率を約13%とすると、1,800ドル × 13% = 約234ドルの減税効果が見込まれます。

雇用主の対応義務

雇用主は、今後、源泉徴収表(W2 Form)上で通常賃金と適格残業手当を区別して報告する義務を負うことになります。

現行のフォームにはその区分が存在しないため、OBBBAでは財務長官が定める「合理的な方法」による暫定対応が認められています。2025年度以降、アメリカ合衆国内国歳入庁(IRS)または社会保障局(SSA)へ提出する報告書にも適格残業手当額の明記が必要となる見込みで、今後数カ月以内に発行されるIRSガイダンスの内容に注目してください。

この制度改正は、給与計算・勤怠管理の正確性に直結します。ADP や Paychex などの給与計算会社を利用している雇用主は、これらの企業が対応するため特に問題はありません。しかし、社内で給与計算している場合は、通常の賃金と超過報酬の切り分けを可能にするシステム対応、W2の新たな記載要件への準備、残業時間の記録精度向上など、広範な見直しが必要となります。また、控除対象外となる残業との区別も管理上のポイントとなります。

今後のIRSによる詳細なガイダンスに迅速に対応できるよう、実務担当者のトレーニングや運用体制の再構築が求められます。

総合人事商社クレオコンサルティング
経営・人事コンサルタント 永岡卓さん

2004年、オハイオ州シンシナティで創業。北米での人事に関わる情報をお伝えします。企業の人事コンサルティング、人材派遣、人材教育、通訳・翻訳、北米進出企業のサポートに関しては、直接ご相談ください。
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