アメリカで暮らすご家族やパートナー、あるいはご自身について、「最近、物忘れが増えたかもしれない」と不安を感じることはありませんか?海外という異なる言語・文化の環境下では、その不安はさらに大きくなりがちです。
この Q&A では、ワシントン大学准教授・家庭医の西連寺智子先生が、アメリカにおける認知症患者とその家族が利用できる支援サービスと、本人の意思決定を基本とするアメリカの仕組みをわかりやすく解説します。正しい知識を持ち、早期に適切なサポートへ繋げるためのガイドとしてお役立てください。
施設やサービス、公的医療保険について
- Home Care、Adult Day、Memory Care などの施設・サービスはどのように選べばよいですか?
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Adult Day Care(成人デイサービス)は、日中だけ施設で食事やレクリエーション、リハビリなどを受けるサービスです。本人の社会的交流を促し、家族が仕事や休息の時間を取れるという利点があります。
Memory Care(認知症ケア専門施設)は、認知症のある方のために設計された施設で、24時間体制で認知症ケアの専門スタッフが配置されています。徘徊や夜間の見守りが必要になった場合や、自宅での介護が難しくなった時の選択肢の一つです。
施設やサービスを選ぶ時に、費用、スタッフの配置や認知症ケアの経験、提供される活動内容、安全対策、家族との連携体制などを検討するといいでしょう。できれば実際に見学して本人に合った環境かどうかを確かめることも大事です。
- Medicare / Medicaid は認知症の診療や介護にどこまで適用されますか?
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65歳以上の公的医療保険のMedicareと、低所得者向け公的医療保険のMedicaidで、認知症に対する補償内容が大きく異なります。
Medicareは、認知症の診察や検査、入院、処方薬、一部の在宅医療やリハビリなどの医療サービスをカバーします。しかし、食事や入浴の介助など、長期間にわたる日常生活の支援(長期介護)は一般的に対象外です。
一方、Medicaidは、所得などの条件を満たせば、在宅介護やNursing Home (介護施設)での長期介護費用を幅広く補償します。そのため、認知症が進行して長期的な介護が必要になった場合は、Medicaidが重要な役割を果たします。
ただし、利用できるサービスや自己負担額には地域差があります。
- 州ごとの高齢者サービス(Area Agency on Aging など)はどこで調べられますか?
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地域の高齢者支援サービスは政府機関の Eldercare Locator で郵便番号や州名を入力すると、お住まいの地域のArea Agency on Aging(AAA)や利用可能な介護・福祉サービスを検索できます。
- 日本語対応の施設や、英語が苦手な方のための支援にはどのようなものがありますか?
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シアトルには、日本語で相談できる高齢者支援や、食事を含む日本文化を取り入れた介護サービスがあります。
例えば、Keiro Northwest(https://keironw.org/keiro-northwest/)は、日系コミュニティを中心に高齢者サービスを提供する非営利団体で、Nikkei Manor(アシステッドリビング)とKokoro Kai(Adult Day Program)を運営しています。日本食の提供や日本文化を取り入れた活動が行われており、日本人や日系アメリカ人にも親しまれています。
また、Kawabe Memorial House(https://kawabehouse.org/)では、Asian Counseling and Referral Service(ACRS)(https://acrs.org/)が高齢者向け相談を行っており、日本語で相談できるスタッフもいます。介護サービスの紹介や福祉制度の案内などを受けることができます。
言葉や文化への不安がある場合は、こうした日系団体や地域の高齢者支援機関に早めに相談するとよいでしょう。
自分の意思を伝えるために、健康なうちに準備しておく書類
- Advance Directive や Power of Attorney(代理権)とは何ですか?いつ準備すべきですか?
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Advance Directive(事前医療指示書)とDurable Power of Attorney(DPOA:持続的代理権)は、認知症の方だけのためのものではなく、みんなが将来に備えて準備しておくことが勧められている大切な制度です。
Advance Directiveは、自分で意思表示ができなくなった場合に備えて、心配蘇生などの延命治療、人工呼吸器、栄養・水分補給などの医療に関する希望をあらかじめ記録しておくものです。
Durable Power of Attorney(DPOA、持続的代理権)は、自分が判断能力を失っり、意思表示ができない場合に、指定した代理人が本人に代わって意思決定を行えるようにする法的な仕組みです。本人の価値観や希望を反映した医療行為を行うために重要です。財産管理については、Financial DPOAを準備することもあります。
これらの書類は、認知症になってから作成するものではなく、本人に十分な判断能力がある健康なうちに準備することが重要です。アメリカでは、認知症の有無にかかわらず、成人であれば(特に65歳以上)不測の事態に備えて、家族と希望を話し合い、必要な書類を整えておくことが勧められています。これは、自分の意思を守り、家族が難しい判断をで背負わないためのとても大切な準備です。
- 認知症が進んだ後の財産管理はどのように行われますか?アメリカの後見制度(Guardianship / Conservatorship)とはどのような制度ですか?
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認知症が進行し、本人が財産管理に関する判断能力を失った場合、アメリカでは事前に準備していた書類があるかどうかによって対応が大きく変わります。
判断能力がある時点で Durable Power of Attorney(DPOA:持続的代理権)を準備していれば、本人が指定した代理人(Agent)が、本人に代わって銀行手続き、税務、財産管理などを行うことができます。
一方で、DPOA がないまま本人の判断能力が低下した場合、家族であっても自動的に財産管理を行えるわけではありません。その場合は、裁判所に申し立てを行い、Guardianship(後見制度)やConservatorship(財産管理の後見)を設定してもらう必要が生じることがあります。これは時間や費用がかかり、家族間で意見の違いがある場合には複雑になることもあります。
そのため認知症への備えとして、医療に関する Advance Directive や Health Care DPOA だけでなく、Financial DPOA(財産管理の代理権)を早めに準備しておくことが強く勧められています。本人の希望を確認し、信頼できる代理人を決めておくことは、本人の財産を守り、家族の負担を減らす重要な準備になります。
- 配偶者や兄弟姉妹が「認めたくない」「現実を受け入れられない」という場合、どう向き合えばよいですか?また、医療者や介護者と接する際、アメリカと日本の文化の違いを踏まえ、どのような点に気をつけるとよいですか?
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前にも少し触れた患者本人の自己決定(autonomy)がどれほど重視されるかは、文化による違いかもしれません。
アメリカでは本人が自分の希望や価値観を伝え、医療者と相談しながら治療や介護方針を決める shared decision-making(共同意思決定)が一般的で、「本人は何を大切にしているか」「どのような生活を望んでいるか」を積極的に伝えることが大切です。そして、認知症であっても本人に説明し、可能な範囲で意思決定に参加してもらうことが基本的な考え方です。
一方、日本では家族が本人に代わって相談したり、医療者が家族に配慮しながら説明を進めたりすることも多く、家族の意向が重視される場面もあります。
文化の違いから戸惑うことがあっても、最も大切なのは「本人がどのような人生を送りたいか」を中心に考えることです。医療者や介護者とは、上下関係ではなく、本人を支えるチームの一員として協力していくことが重要です。
西連寺智子先生(さいれんじ・ともこ)
University of Washington Department of Family Medicine, Professor
Family doctor at UW Primary Care at Northgate Clinic and Northwest Hospital
米国マサチューセッツ州で幼少時代を過ごし、12歳で日本に帰国。国際基督大学卒業後、岡山大学に学士編入。卒業後、福岡県にある飯塚病院での2年間にわたる初期研修を経て、ピッツバーグ大学メディカルセンターで家庭医のレジデンシーとチーフレジデントを行う。同大学で医学教育修士課程とファカルティデベロップメントフェローシップを終え、現在はワシントン大学医学部(University of Washingon School of Medicine)で家庭医療の教授として医学生の指導を行いながら、UW Medicine のノースゲート・クリニックと Northwest Hospital で家庭医として勤務している。
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