パンデミックや「Great Resignation(大離職時代)」を経て、働き方の価値観は大きく変化しました。リモートワークの普及や人手不足を背景に、企業は従業員の定着と生産性向上の観点から、ワークライフバランスを重視し、経営上の重要な指標の一つと位置付けています。
しかし、多くの場合、「ワークライフバランス」を「適切なスケジュール管理や明確な境界線を設定することによって完成する、安定していて達成可能な状態」と捉えがちです。こうした理解は一般的ではありますが、必ずしも完全に正確とは言えません。
なぜなら、ワークライフバランスとは、「固定された状態のことではなく、時間とともに変化し続ける、絶え間ないプロセス」だからです。
仕事上の要求、ビジネスニーズ、そして個人的な責任 ー これらすべてが常に変化しています。その結果、ある時点では「バランスが取れた」と感じられても、別の時点では「その状態を持続するのが難しい」と感じられるようになることもあるのです。
本記事では、なぜ「調整し続けること」が重要なのか、その本質的な理由と、変化に柔軟に対応するための具体的な思考法を解説します。
ワークライフバランスと職場のトレンド
ギャラップ社による近年の調査では、ワークライフバランスが「勤務スケジュール」」「エンゲージメント」「業務量に関する認識や期待」といった、職場環境に関わるさまざまな要因と密接に関連していることが明らかになっています。具体的には以下の点が挙げられます。
- 米国の従業員の過半数以上(62%)が「質の高い勤務スケジュールが確保できていない」と回答しており、これがワークライフバランス、生産性、人材定着率に悪影響を及ぼす可能性がある。
- 従業員の76%が少なくとも時折「燃え尽き症候群(burnout)を経験している」と回答しており、ワークライフバランスに関する課題がいかに広範に及んでいるかを示している。
- 従業員の約40%が、日常的に著しいストレスを感じている。
同時に関連した調査によれば、単に労働時間数だけでなく、エンゲージメントや期待される役割の明確さ、そして全体的な就業経験などの要素が、従業員の仕事の負荷(workload)に対する認識に影響を与えることが明らかになっています。
こうした知見は、ワークライフバランスというものが単一の要因によって定義されるのではなく、複数の要素が実務の中でどのように組み合わされるかによって決まることを示唆しています。
時間の経過に伴うバランスの変化を理解する
実際には、ワークライフバランスは、下記のような要因に左右されます。
- 仕事の負荷やビジネスサイクルの変化
- 個人的な事情や家族に対する責任
- 個人の能力、体力、および集中力
例えば、締め切り間際や業務の繁忙期など、仕事により多くの時間と集中力が求められる時期がある一方、一息ついて休憩したり、普段通りの日常的なペースに戻る場合もあるはずです。
これらはいずれも、全体的なバランスを維持していく上で、ごく自然な流れの一部と考えられます。
組織および従業員の視点
組織の観点から見ると、ワークライフバランスを支えるには、できる限り合理的な柔軟性を持たせることが必要です。これには、明確な期待値の設定、一貫した勤務スケジュールの策定、業務量に関するコミュニケーションなどが含まれます。
従業員の視点で見ると、バランスを維持するには時間を効果的に管理し、必要なことを伝達し、調整の必要な時期を認識することが重要です。バランスの取れたアプローチには、組織と従業員双方の配慮が不可欠です。
完全な硬直性も完全な柔軟性も、単独では持続可能にはなりません。
実例
次のようなシナリオを考えてみましょう。
- 従業員が、短期間で、追加の勤務時間が必要とされる、納期の厳しいプロジェクトに取り組んでいる
- 業務上の必要性から、一定期間に高い集中力と業務への専念が求められる
このような状況では、一時的にバランスが仕事側へ傾きます。 プロジェクト完了後、バランスは以下の要因を通じて再び変化する可能性があります。
- 有給休暇の取得
- 可能な範囲での勤務スケジュール調整
- 通常業務量への変化
これは、ワークライフバランスが常に一定の状態ではなく、一連の調整によって機能していることを示しています。
重要な考慮事項
ワークライフバランスへの取り組みは、変動性を認識することで最も効果を発揮します。考慮すべき事項は以下の通りです:
- 運用上のニーズを維持しながら、いかに柔軟性を持たせられるか
- 業務量が多い時期に、どのように業務負荷を管理するか
- 期待が明確に伝えられ、理解されているか
バランスの維持は、一方だけの責任ではなく、組織の慣行と個人の行動両方によって左右されます。
ワークライフバランスは、変化に応じて最適化を
ワークライフバランスは、一度の施策で完結する「達成目標」ではなく、経営環境の変化に応じて継続的に最適化すべき「運用プロセス」です。固定的な平穏を求めるのではなく、状況の変化に伴うバランスの変動を前提に置くことこそが、現実的な経営視点といえます。
組織としての役割(期待値)を明確に定義した上で、柔軟な再調整を許容するアプローチは、組織の生産性向上と、人的資本の持続可能性を両立させる鍵となります。経営陣にとって最も実践的な責務は、今まさに「調整が必要かどうか」を組織全体から的確に読み取ることにあるのです。
出展: Work Schedules Fail Millions of U.S. Employees, GALLUP Employee Burnout: The Biggest Myth, GALLUP Global Data Summary-State of the Global Workplace 2025, GALLUP
総合人事商社クレオコンサルティング
経営・人事コンサルタント 永岡卓さん
2004年、オハイオ州シンシナティで創業。北米での人事に関わる情報をお伝えします。企業の人事コンサルティング、人材派遣、人材教育、通訳・翻訳、北米進出企業のサポートに関しては、直接ご相談ください。
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