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「スキル重視採用」の実務ガイド |新たな視点で選考するリクルーティング

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ハロウィンが過ぎ、弊社のあるシンシナティでは初雪を観測しました。あと数週間でサンクスギビングとなり、ホリデーシーズンに入ると採用活動が一段落し、人材市場も落ち着いてきます。この時期は採用戦略を見直す絶好のタイミング。

今回は、大量退職や大量採用の時期にはなかなか手が回らなかった、自社の要望に沿った適切な人材を確保するための実践的手順をご紹介します。

目次

スキルベース採用(skills-based hiring)

新しい手法ではないものの、近年あらためて注目を集めているのがスキルベース採用(skills-based hiring)です。候補者の持つスキルや能力を基準に選考し、学位や経験年数だけでは測れない候補者の価値に焦点を当てる手法です。

米国労働統計局(BLS)によると、2024年時点で米国内の4年制大学卒業者は人口の44.5%に過ぎません。これは、採用にあたって大学卒にこだわり過ぎると、採用企業みずから選択肢を狭めることを意味します。つまり、学歴よりもその職種に本当に必要なスキルを重視した方が、より実践的な採用が可能になります。

このスキルベース採用を新たに導入する場合、企業の採用方針や、選考に携わる社員の意識改革、そして実践するための適切なトレーニングが欠かせません。そこで、採用前の準備から書類選考、面接、採否判断に至る一連のプロセスにおいて、押さえておくべき重要なポイントを整理します。

1. 採用前の準備

人材採用を始める前に「この職種にとって本当に必要なスキルは何か」「学歴・経験年数・特定の資格は本当に必須か」を再検討します。スキル重視であれば、高すぎる応募へのハードルを下げることで候補者プールは一気に広がります。

以前よりも日本語の必要性が低下した企業なら、思い切ってバイリンガルという要件を外すことも、候補者プール増加に非常に効果的です。

また、雇用主として従業員に何が提供できるのかも、候補者へのアピールポイントとして準備した方がよいでしょう。例えば、スキルアップ研修やメンターペアリング制度、グローバル/異文化チームでのプロジェクト参画機会、資格取得補助制度など、より具体的な制度や特典は、Z世代を中心とした求職者を中心に、スキルを伸ばしたい候補者には魅力的に映ります。

2. 書類選考

レジュメでまず注目すべきは、経験年数や過去の雇用主ではなく、経験内容の一貫性、職務経歴の汎用性や転用性です。経験年数は参考の一つに過ぎず、必ずしも実力や適応力を反映していません。

「どの企業で勤務した」「何の役職だった」といった情報だけで判断すると、本質的な能力や適応力を見逃し、根本的にスキルベース採用として機能しなくなります。

勤続年数が長い、同業界での経験がある、日本語が話せるといった表面的な指標にとらわれず、応募者の経験が自社の業務や役割にどのように応用できるかを見極めることが肝要です。汎用的な採用基準に合わせる必要はなく、自社ならではの評価軸を見出し、それに基づいて候補者の強みと可能性を判断することがポイントです。

3. 面接で確認すべきポイント

面接では、思考プロセス、判断基準、スキルの応用力を確認します。スキルは結果ではなく行動に表れるため、状況に応じてどのように対応したかを尋ねられる質問が重要です。

  1. 思考プロセスと再現性
    STAR法(Situation–Task–Action–Result)を活用し、候補者が「どのように考え、いかに動き、何を得たか」を語れる質問を設計する。たとえば下記のような質問例があります。これらの質問への回答を聞きながら再現性、思考プロセス、学びの深さについて確認していきます。営業であれば単に〇〇%売上を伸ばしXX社を新規開拓したといった確認のしようがない回答を聞くよりよほど現実的です。
    • これまでに〇〇の課題に直面したことがありますか?そのときどのように対応しましたか?
    • 直近のプロジェクトで、あなたが最も貢献できたと感じた点を教えてください。
    • 難しい上司・顧客・同僚と一緒に働いた経験を教えてください。そのときどのように行動しましたか?
  2. スキル
    現在できることだけでなく、成長可能性も評価対象となります。新しいことを学び、応用する力を確認する質問がよいでしょう。若いから将来性がある、と考えるのではなく、下記のような質問から具体的な学習行動、フィードバックを取り入れる姿勢、自ら改善策を考える姿勢があるかを観察します。
    • 最近、新しく学んだスキルやツールはありますか?
    • どのように習得しましたか?
    • 過去の仕事で、自分の専門外の課題に取り組んだ経験がありますか?
    • 失敗から学んだことを次に活かせた事例を詳しく教えてください。
  3. ソフトスキル
    リーダーシップ、コミュニケーション、柔軟性などのソフトスキルは、直接聞いても抽象的な答えになりがちです。そこで、過去の具体的行動や他者との関わりから読み取ることになります。
    • チームで意見が分かれたとき、どのように合意形成しましたか?
    • 期限が厳しい中で優先順位をどのように決定しましたか?
    • 上司や部下に改善をフィードバックした経験があれば教えてください。
    • 初めての環境で成果を出すために意識したことは何ですか?

      これらの回答から、候補者と自社の組織文化への適用性や、どのように馴染むことができるか、チームにどのような影響を与えるかを推測します。

4. 選考と評価の整理

面接終了後、「良い人だった」「好印象」と言った抽象的な判断をしがちですが、評価は必ず根拠に基づいてまとめることが重要です。煩雑なスコアリングシートは特に必要なく、採用の基準となるポイントを押さえていれば十分。例えば、以下のようなメモ形式でも有効です。

候補者1
問題解決力:「顧客クレーム削減プロジェクト」で原因分析から手順マニュアル化まで主導
学習力:新CRMツール導入時、自主的に社内勉強会を開催した経験あり
チーム協働:他部署との連携経験がなくやや課題

候補者2
問題解決力:既存プロセスの標準化・効率化を実施
学習力:指示に従ったツール習得は可能だが応用力は限定的
チーム協働:部署横断プロジェクト経験が豊富、情報共有やスケジュール調整に貢献

こうした整理により、根拠に基づいた比較・判断が可能になります。

まとめ

スキルベース採用は、単に学歴や職務年数を評価する従来の方法にとどまらず、候補者の本質的な能力や学習力、適応力を見極める手法です。導入には面接官の意識改革やプロセス設計が不可欠ですが、準備を整え、書類選考から面接、採用判断まで一貫して根拠に基づく評価を行えば、有能な人材を確実に確保できます。

ここでご紹介した手順やポイントは、特別な評価表や過剰なプロセスに頼らずとも、現場で実践可能な方法です。今後の採用活動において、組織の成長を支える人材を見極める指針として活用していただければと思います。

総合人事商社クレオコンサルティング
経営・人事コンサルタント 永岡卓さん

2004年、オハイオ州シンシナティで創業。北米での人事に関わる情報をお伝えします。企業の人事コンサルティング、人材派遣、人材教育、通訳・翻訳、北米進出企業のサポートに関しては、直接ご相談ください。
【公式サイト】 creo-usa.com
【メール】 info@creo-usa.com

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