日本では夫婦が離婚届に署名すれば離婚が成立しますが、ワシントン州(アメリカ)の離婚手続きは大きく異なります。
たとえ日本で結婚していても、ワシントン州で生活し、子育てや住宅・財産を共有している場合には、ワシントン州での離婚手続きを行う必要があります。特に子供がいる場合は、法律上の手続きや規定が複雑になります。この記事では、ワシントン州における日本人の離婚手続きの流れと必要書類を整理します。
離婚開始時に必要な主な書類
ワシントン州で離婚する場合、子供がいるいないにかかわらず、離婚手続きを始める際に必要な書類は次のとおりです。
- Petition
- Confidential Information
- Summons(不要な場合もあり)
- Acceptance of Service(不要な場合もあり)
- Stipulated Agreement(不要な場合もあり)
- Findings of Fact
- Decree of Dissolution
このうち、Findings of Fact と Decree of Dissolutionは、最終的に裁判所の承認を得る際に必要です。
18歳未満の子どもがいる場合に追加で必要な書類
18歳未満の子どもがいる場合、離婚成立前に以下を決定する必要があります:
- 共同財産の分割
- 共同負債(住宅ローンなど)の分割
- 配偶者扶養手当(spousal maintenance)
- 養育費(child support)
- 子どもの親権(custody)と面会権(visitation)
その際、以下の書類が追加で必要となります。
- Certificate of Completion for Parent Seminar
- Order of Child Support
- Child Support Schedule
- Financial Declaration(扶養手当を求める場合は子供がいなくても必要)
- Sealed Financial Source Documents(同上)
- Parenting Plan
Uncontested(合意離婚)と Contested(争いのある離婚)
- Uncontested divorce(合意離婚)
夫婦間で離婚の理由・条件・情報に完全に合意し、配偶者がワシントン州在住であれば、必要書類を裁判所に提出し、90日経過後に裁判官の承認を得れば離婚が成立します。 - Contested divorce(争いのある離婚)
多くのケースは合意に至っていない部分がある(contested)として裁判所に提出され、夫婦それぞれが弁護士を立てて手続きを進めます(片方のみが弁護士を立てて手続きをすることは弁護士の倫理規定上難しいので、一般的には両者に弁護士が必要となります)。養育費や扶養手当は、収入・将来の就労能力・結婚期間などをもとに算定され、判例法(case law)や弁護士の経験を踏まえて裁判官に判断が委ねられます。
養育費や扶養手当は、働く配偶者の収入や将来の収入見込みによって額も計算方法も異なります。現在働いていないからといって、無職であることを前提に扶養手当が決定されるのではなく、将来働く能力と結婚期間(無職期間)に照らし合わせて決定され、弁護士の経験と過去の事例(判例法)に基づいて裁判官に提出されます。
親権・面会権の決定と制限
親権や面会権は RCW 26.09.191 に基づき判断されます。以下のような場合は制限が課される可能性があります:
- アルコール依存・薬物依存
- 子どもへの虐待(性的・身体的・精神的)
- 子どもの放置(neglect)
必要に応じて、parenting evaluator(親権評価者) が親を調査し、その結果をもとに決定されることもあります。
多くの離婚訴訟では、この親権・面会権が最大の争点となっています。
国際離婚とハーグ条約
特に国際結婚(日本人とアメリカ人)における離婚では、親権・面会権をめぐり訴訟が長期化することがありました。しかし、日本が2024年4月にハーグ条約に加盟したことで、離婚後の国際的な親権・面会権の紛争は、今後は減少していくと考えられます。
情報提供:井上奈緒子弁護士
Shatz Law Group, PLLC
【公式サイト】 www.shatzlaw.com
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