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第78回 不法滞在中の就労者に対する労働報酬について

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第42回第69回のコラムで簡単にご説明しましたが、米国労働法上、雇用者が従業員を雇う際は、連邦法のみならず、州法においても細かい規定に従うことが求められます。

たとえば、ワシントン州の最低賃金は2014年度は$9.32ですが、2015年1月から$9.47になります。さらに、残業手当、休憩時間、昼食時間等の規制もあります。また、子供の就労については一般的に14歳が最低年齢とされていますが、業種等によっては規制があります。

雇用者にとっては、それらの規定を守るとともに、経営の負担にならないよう諸経費を最低限に抑え、経営利益をもたらすことが重要です。しかし、そのために不法滞在中または適法な就労資格を得ていない人物を雇い、それを理由に、州法・連邦法で規定された最低賃金に満たない報酬を与える雇用者・企業は少なくありません。

雇用者の中には、「不法滞在者の労働であることから、米国の法律に準じた対応をする必要がない」と解釈している人ももいますし、「最低賃金に満たない報酬または無償で働いていることについて州や連邦の雇用管轄政府機関に訴えたら、不法滞在していることを移民局に通報する」と、不法滞在者の弱みにつけこんで雇用する雇用者もあります。

このような動機で従業員を雇う雇用者については過去にさまざまな事件で裁判所による判断が下されていますが、公正労働基準法(FLSA)では、移民法上の不法行為とは区別し、このような行為そのものを不法行為とみなしています。したがって、仮に従業員が不法滞在者として就労していたとしても、雇用者は最低賃金法などの労働法規定に従わなくてはなりません。さもなければ、罰金を含めた制裁措置がなされ、さらに、不法滞在であるため最低賃金を得なかった従業員は就業開始日にさかのぼって合法かつ正当の賃金を請求することができます。Patel v. Quality Inn South, 846 F. 2d 700 (11th Cir. 1988), Lucas v. Jerusalem Café, LLC, 721 F.3d 927 (8th Cir. 2013)

なお、不法滞在者ということを知らずに採用したり、合法に就業していても途中で就労ビザが期限切れになったりすることもあります。移民法上(Immigration Reform and Control Act of 1986)、雇用主はその事実を知った時点で、速やかにその従業員を解雇する義務があります。Hoffmann Plastic Compounds, inc. v. N.L.R.B., 535 U.S. 137 (2002)

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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