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第93回 従業員の忠実義務違反とは

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第57回58回、及び90回のコラムで、主に会社経営者間の忠誠義務や利害相反について触れましたが、今回は、会社または会社経営者・雇用者に対する従業員の責任と義務について簡単にご説明します。

もくじ

雇用契約書

多くの従業員は、入社時に雇用契約書を交わし、その契約に従って業務を行います。それらの契約書には、時として Non-Compete Clause(競合禁止条項)や Non-Solicitation(勧誘禁止条項)が含まれ、企業の利益と資産を守ると同時に、従業員の職業の自由を合法的に契約書上制約するため、その制約期間が設定されています。

雇用関係とは

しかし、上記の制約は契約上の制約で、雇用関係は Common Law(習慣法)上では「支配者と作業員の関係と同様」と解釈され、仮に書面での契約が結ばれていなくても、業務に対する対価として報酬を受け取る雇用関係がある限り、従業員が雇用者の利益に不利にならないように業務を行うことが求められます。もし、経営者の不利になるような行為をすれば、Breach of Fiduciary Duty または Breach of Loyalty(忠誠義務違反)とみなされ、雇用者が法的手段に訴える権利が発生します。従って、雇用される前に Conflict があるとわかっていれば、従業員としてそのことを雇用者に前もって知らせておく義務があります。

忠誠義務違反とは

忠誠義務違反として禁止されている行為とは、雇用者の私物を横領したり、雇用者を自分の利益のために利用したり、雇用者が不利になるのがわかっているにもかかわらず、私服を肥やすような行為(Self-Serving Conduct)をすることです。この雇用関係における忠誠義務の概念はこれまでのコラムでも取り上げた経営者同士の忠誠義務に対する要求度よりも低いものですが、従業員が積極的・意識的に経営者・会社に不利な行為をすると法的に問題となります。

典型的な例としては、雇用期間中に会社の顧客リストを盗み、それを利用して自分の会社を設立し、従業員として働いている会社の顧客を自分の会社の顧客として勧誘することや、雇用者の悪口を顧客に伝えることによって雇用者の顧客を自分の会社の顧客として勧誘するような行為、さらに、経営者の所有物を私物化することなどが挙げられます。これらは、Breach of Fiduciary Duty(忠誠義務違反)とみなされるだけではなく、Interference with business (営業妨害)、Theft(窃盗)、Unfair Dealing(不正取引)とみなされることもあります。

これらの行為によって雇用者・経営者が事業に損害を受けた場合、従業員の不法行為に対して雇用者が裁判所を通して損害賠償を求める権利が発生します。その際、一般的には、このような従業員の行為によってこうむった経営上の損額が請求額の対象になります。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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