MENU

第57回 有限会社(LLC)経営者の法的責任

  • URLをコピーしました!

第49回のコラムで有限会社(LLC)の紛争と解散についてご説明しましたが、今回は有限会社経営者の経営上の責任についてご説明します。

有限会社に関する法律は、Uniform Limited Liability Company Act of 1996(連邦法)とRCW 25.15(ワシントン州法)で統括されています。法律としては、会社法(Corporation Law)と合名会社(Partnership Law)を組み合わせた、ごく新しい法律です。従って、この有限会社法に従って会社を経営するというよりは、経営者間の契約書によって経営が統括されるため、経営者間の契約書等を記録に残していなければ、万が一、経営者間で問題が発生すると、解決に手惑います。

まず、有限会社設立の利点をご説明します。1人の経営者が有限会社を経営する場合は、経営者間の契約書が必要とならず、さらに、個人事業主のように経営の損益が直接個人への賠償責任に影響せず、有限会社がその経済保護として機能します。仮に借金をしても、通常は個人の財産に対する差し押さえには至りません。

さらに、税金対策上、”Pass Through Entity” と言って、C-Corporation のように二重課税(Double Taxation)がなく、連邦レベルで企業税が課された上に個人で配当(Dividend)等でも税金が課されるということはありません。ワシントン州では B&O tax(企業州税)は課されても、連邦レベルで企業税が課されないので、経営者としては税金が少なくて済むということです。しかも、市民権や永住権を所有しない個人でもこの有限会社を経営することが可能なので、永住権や市民権を所有する必要のある S-Corporation が経営できない場合のスタートアップとしては、最適な企業体制と言えます。ただし、C-Corporation や S-Corporation に比べ、社員への福利厚生や投資家への魅力等における利点はあまりありません。しかしながら、第29回のコラムでもご説明しましたように、後に会社の規模が拡大した場合は、投資家・株主・社員に対する利益を拡大することを可能するために C-Corporation に変更することも可能です。

では、有限会社が複数の経営者で構成されたとしましょう。この場合は、通常、経営者間の契約書としては共同経営契約書(Operating Agreement)を作成します。ワシントン州では、経営者の種類として、Member と Managing Membe がありますが、後者の Managing Member を選んだ有限会社では、Managing Member には会社に対する信認忠実義務(Fiduciary duties to the company)があり、同様の義務は Member には課されません(Dragt v. Draft, 139 Wash. App. 560.)。 この Managing Member の義務とは、会社の経営と営利に専心することを求めるものです。仮に、Managing Member が別の会社を経営して、この有限会社の経営に悪影響をもたらした場合は、Managing Member が賠償責任を負うよう、他の Member から要求されることは十分あります。ですから Managing Member に特別な責任を課されないようにするためには、Managing Member と Members が同様の経営義務と責任を負うという経営者間の契約書を作成し、その役割を明確にする必要があります。それに対し、Member のみで構成される有限会社では、それぞれの Member に同様の経営責任と義務が課され、1人の Member が会社経営に悪影響をもたらした場合は、その経営者(Member)が経営責任を負うことになります。

従って、複数の経営者で構成される有限会社を経営する場合は、お互いの経営上の役割・投資額・業務への関わり等について明確に契約書に記しておく必要があります。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

  • URLをコピーしました!

この記事が気に入ったら
フォローをお願いします!

もくじ