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フード・バンクから政府援助まで 米国の食料援助プログラム利用ガイド【2025年11月版】

Aaron Doucett on Unsplash
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米国では食料価格の上昇が続き、家庭が「健康な生活を送るのに必要な食糧へのアクセスが十分でない」状態、つまりフード・インセキュリティ(food insecurity)を経験している世帯が増えています。米国農務省(USDA)の経済調査サービスによると、2023年にその状態を経験した世帯は13.5%(約1,800万世帯)で、2022年の12.8%(約1,700万世帯)から増加しました。

この記事では、ワシントン州における現状と、登録不要で利用できる支援(フードバンク・フードパントリー)、登録制の政府援助(SNAP・WICなど)を紹介します。さらに、2025年10月1日から続く連邦政府閉鎖の影響についてもまとめました。

目次

連邦政府閉鎖によるSNAP資金停止と裁判

2025年10月1日から続く連邦政府閉鎖(federal government shutdown)により、低所得世帯向けの食糧支援制度「SNAP(スナップ)」の資金が不足しています。

  1. 米国農務省(USDA)は2025年10月24日付で各州に通知し、「非常時予備基金(contingency fund)は自然災害などに限定され、政府閉鎖による給付には使えない」と主張しました。
  2. これに対し、ニューヨーク州を含む25州以上がUSDAを提訴し、「予備基金を活用して給付を継続すべき」と主張。専門家らは「給付停止が続けば全米で3,000万人以上が月次給付を失うおそれがあり、これは人為的な災害(man-made disaster)だ」と警告していると TIME が報じています。
  3. 2025年10月末、連邦裁判所が「非常用資金(contingency fund)」を活用して給付を継続するよう命じる判断を下しました。これを受け、トランプ政権は給付の約50%分にあたる46億5,000万ドルを拠出すると発表。
  4. 2025年11月6日、ロードアイランド州の連邦地裁判事は農務省(USDA)に対し、関税収入からなる別基金(Section 32)を活用し、11月7日までにSNAPの11月分を全額支給するよう命じました。
  5. 2025年11月7日、トランプ政権は、「SNAP の11月分を全額支給せよ」との命令を一時停止するよう、連邦高等裁判所(第1巡回区控訴裁判所)に緊急申し立てを行いました。
  6. 2025年11月7日、最高裁判所は SNAP の11月分の「全額支払いを義務付ける下級裁判所の命令」に対して、暫定的な差し止め(行政的停止)を出しました。これは、第1巡回控訴裁判所が政府の求める差し止め申請を “迅速に” 判断するまで」、およびその判断後48時間という期限付きです。(AP通信
  7. 6日にロードアイランド州の連邦地裁判事が全額支給命令を出したことを受け、州の中には給付を進めるところ、部分支給のままで様子を見ているところがあり、給付のタイミング・支給額ともに混乱が生じています。

ワシントン州在住者への影響

ワシントン大学(UW)とワシントン州立大学(WSU)が実施した調査「WAFOOD(Washington Food Security Survey)」によると、2024年8月〜10月に行われた調査(回答者5,528人)の55%が「食料品の価格上昇に非常に懸念を感じている」と回答しました。

また、過去1カ月以内に何らかの食料支援を利用した世帯も55%に達しました。需要の高まりを受け、ワシントン州西部の17郡にある500超のフードバンク・食事提供プログラムへの訪問数は、2023年の800万回から2024年には1000万回に増加しました。

2025年10月時点でワシントン州内で SNAP の支給を受けている人は約90万人。今回の資金停止を受け、ワシントン州政府やシアトル市は給付を支援する資金を提供しています。

食糧支援を受けられるフード・バンク&フード・パントリー

登録不要のフードバンク(food bank)

フードバンクは寄付された食品を保管し、地域に配給する非営利団体です。公式サイトで配給日時や場所を確認できます。ドライブスルー式や移動式のものもあります。

  • Norhwest Harvest
    ワシントン州全域に展開している唯一の非営利フードバンク・ディストリビューター。375のフードバンク、食事プログラム、およびハイ・ニードの学校のネットワークを通じて、毎月約200万食を提供しています。
  • Second Harvest
    ワシントン州東部とアイダホ州北部の26郡で毎月200万ポンド以上の食料を無料配布している非営利団体。250以上のフードバンクや給食センターとのパートナーシップにより、毎週55,000人に食事を提供しています。
  • Feeding America
    フードバンク、パントリー、食事プログラムを持つ、米国最大の国内飢餓救済組織。国内のほぼすべての地域、子ども1200万人と高齢者700万人を含む4000万人にサービスを提供しています。

登録不要のフード・パントリー(food pantry)

フード・パントリーは、フードバンクから届いた食料を個別に配給する小規模拠点。大学や教会、コミュニティセンターが運営しており、誰でも利用できます。下記のサイトでも、各地にあるフード・パントリーを探して見つけることができます。

また、主な大学は教職員や学生に無料で食料品を提供するフード・パントリーを運営しています。

登録制の食糧援助プログラム

SNAP(スナップ/旧フード・スタンプ)

低所得世帯向けの補助栄養プログラムで、月ごとにEBTカードで支給されます。ワシントン州では「Basic Food in Washington」と呼ばれ、野菜、肉、乳製品、パンなどが対象です(Help Me Grow WA)。

USDA:Supplemental Nutrition Assistance Program(SNAP)
ワシントン州:Help Me Grow WA

2025年7月に成立した「税制・歳出削減法」とSNAPの新条件

2025年7月、トランプ大統領は共和党主導で議会を通過した大型の税制・歳出削減法案に署名しました。防衛費や移民取り締まりの強化など、共和党の政策的優先項目を盛り込んだこの法律の中に、SNAP受給資格の厳格化も含まれています。新たな規定は2025年11月1日に施行されました。

受給には「一般的な就労要件(General Work Requirements)」と「扶養家族のいない健常な成人に対する就労要件(ABAWD Work Requirements)」という2種類の就労条件が設けられています。今回の変更で、扶養家族のいない健常な成人(ABAWD)への就労要件の対象が18〜49歳から18〜54歳に拡大されました。さらに、地域の失業率が高い場合や、州が特例を申請した場合に、州政府や地方自治体が特例でABAWD要件を免除申請できる範囲が縮小するなどの変更があります。

女性と乳幼児のための特別栄養補助プログラム『ウィック』(WIC Program for Women and Infants)

低所得の妊婦や産後の女性、授乳中の女性、栄養のリスクがある5歳以下の乳幼児を対象としたプログラム。米国農務省(USDA)の食品栄養サービス(FNS)が運営し、全50州、33のインディアン部族組織、アメリカ領サモア、ワシントンD.C.、グアム、北マリアナ諸島連邦、プエルトリコ、及びバージン諸島が含まれます。参加者は毎月の供給金を指定された食品の購入に充てることができます。WIC の申し込み手続きはすべて無料。供給金は所得に含まれません。

USDA: WIC Program for Women and Infants

学齢期の子どもの支援

学校給食・朝食プログラムを通じ、低所得家庭の児童へ無償または低価格の食事を提供。

合法移民のための食料配給(State Food Assistance Program:FAP)

『State Food Assistance Program(FAP)』は、SNAP対象外の合法移民を支援する、ワシントン州独自の制度。2020年3月からオンライン、または電話で申し込むようになっています。詳細は公式サイト参照。

利用にあたってのポイント

  • フードバンクやフードパントリーは登録不要で利用可能。 緊急時や収入減少時にすぐ活用できます。
  • SNAPやWICなどの登録制プログラムは、安定した食料支援を得るための長期的手段ですが、2025年11月からの継続は未定。
  • 連邦政府閉鎖による支給遅延が発生しても、各州や非営利団体が代替支援を提供しています。
  • 登録不要のフード・パントリー(food pantry)

アメリカにはさまざまな食料援助プログラムがあり、外国人や留学生も利用できます。これから仕事や勉強で渡米する人、そのご家族の方々も、「米国では物価が高く、何でも日本の3倍はする」と考えて予算を組むことをおすすめします。

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