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妙心寺退蔵院 副住職 松山大耕さんインタビュー 「自分でちゃんと見る、体験する、ということにつきる」

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松山大耕 妙心寺退蔵院 副住職インタビュー

ワシントン大学での講演『The Influence of Zen on Japanese Culture and Business』

臨済宗の大本山・妙心寺退蔵院の松山大耕副住職の講演会「日本の文化とビジネスにおける禅の影響」が1月23日、ワシントン州日米協会の主催でシアトルのワシントン大学にて開催された。月曜の夜にも関わらず約200人が詰め掛け、講演後には参加者から禅の修行や日本の僧侶の生活、そして日本酒の造り方など、さまざまな質問が飛び出したが、松山副住職はそれぞれに丁寧に回答し、参加者は真剣な表情で聞き入った。

今回、ジャングルシティでは、松山副住職にさらに質問する機会を得、これからの時代を生きる大人たち、未来を生きる子供たちが禅から学び取れることについて伺った。

- シアトルではワシントン大学のみならず、ベルビュー・チルドレンズ・アカデミー(BCA)、そしてマイクロソフトでも講演されました。ワシントン大学では「ビジネスへの禅の影響」をテーマに、徹底した実践と体験の例に稲盛和夫氏(京セラ名誉会長)、寺での雨漏りの例などを挙げられ、とても日本的に感じました。参加者からの質問やコメントで印象に残ったものを一つあげるとすれば。

みなさん、とても真剣に聴いてくださって私も感銘を受けました。印象に残ったのは、日本人の方々が今までうまく説明できなかった禅や日本文化の特徴について、「とても明快に話してくださって、よくわかった」とおっしゃってくださった方がいたことです。海外にいると、より自分のルーツというものに疑問や興味を持ちますが、それを改めて見直す機会になったのではと思います。


- ベルビュー・チルドレンズ・アカデミー(BCA)での講演は「What is ZEN」。印象に残った質問にはどのようなものがありましたか?また、マイクロソフトでは、どのようなお話をされ、印象に残った質問とそれにどのようにお答えになられたのでしょうか。

マイクロソフトでの講演の後、わざわざ会社を早退してBCAの講演を聴きにきてくださった方がおられました。
アメリカではどうしても「結果重視」になりがちですが、「self-discipline を突き詰め、過程そのものを重視する日本の文化に非常に感銘を受けた。大事なものを思い出させてもらった」とおっしゃっていました。

松山大耕 妙心寺退蔵院 副住職インタビュー

左:松山大耕副住職
右:ワシントン州日米協会エグゼクティブ・ディレクター、デール・ワタナベ氏


- 禅の教えは昔からリーダーが取り入れてきたとのことですが、「言葉で言うだけでなく、実際にやって見せる」「答えを教えない」「すぐに行動に移す」「実践」という4つの教えについてお話くださいました。西洋社会では何かを得るために禅をするというような一般的な理解が広まっていますが、禅とは何かを得るためはなく、ただ実行し、無駄をそぎ落としてリセットし、今ここに集中するのだというお話も印象的でした。講義後の参加者からの質問にもありましたが、どのようにすれば、今の生活にそういったことを取り入れていくことができるでしょうか。日本の武道や伝統的ないけばななどを挙げてらっしゃいましたが、そうしたものにアクセスできない人はどのようにすることをすすめられますか?

禅は瞬間を大事にし、そのものになりきることを求めます。例えば、修行中に食事をする際には、正座をし、背筋をのばし、話もせず、ただひたすら食事に集中します。私たちはとかく、話をしながら、テレビを見ながら、スマホをいじりながら食事をしてしまいますが、常にとは言いませんが、たまには食事にだけ集中する時間があってもよいのではないかと思うのです。食事だけに集中すると、食材の本来の味や香り、うまみといったものを感じることができます。食べるときは食べることだけに、料理を作るときには料理を作ることだけに、寝るときは寝ることだけに。そういう時間の使い方をすれば、自然にいろんなものが見え、感じることができるようになります。


- 今回、トランプ大統領が就任した直後のアメリカ訪問となりました。以前と何らかの違い、以前とは異なる雰囲気を感じられたり、以前とは異なる意見や話し合いなどはありましたか。事実を否定し、根拠や証拠がないままに自分に都合のよい既成事実を作る手法により、「何が事実なのかわからない」「自分ではきちんと調べようがないように思われるため、事実が報じられてもなぜか信頼できないと思えてしまう」という状況に国民を追い込み、事実から目をそむけさせようとする潮流を乗り切るには、禅の観点から、日々どういったことを実行していけばよいと思われますか。また、こうした先が見えない状況での次世代の教育において、禅の教えから伝えられることはどんなことがありますか。

やはり自分でちゃんと見る、体験する、ということにつきると思います。今はバーチャルな世の中ですから、なんでも文字や映像でやった気になりますが、リアリティはそうではありません。教育においてはそれが特に重要で、大事なのは知識を得ることではなく、気づくこと、察することであり、他人や周囲への思いやりだと思います。それはいきなり大人になって身につけるのは非常に難しいので、子供のころからそういう体験を豊富にしておくことが将来、AIの時代がやってきても人間にしかできない重要な役割を果たしていける鍵になると思います。


- ありがとうございました。

妙心寺退蔵院の松山大耕副住職 略歴
1978年京都生まれ。2003年東京大学大学院農学生命科学研究科修了。埼玉県の平林寺にて3年半の修行生活を送った後、2006年より退蔵院副住職。2011年に日本の禅宗の代表としてヴァチカンで前ローマ教皇に謁見。2014年には日本の若手宗教家の代表としてダライ・ラマ14世と会談。2016年には日経ビジネス誌の「時代を創る100人」に選出された。2009年から観光庁「Visit Japan大使」、2011年から京都市の「京都観光おもてなし大使」も務めている。著書に『ビジネス ZEN 入門』『大事なことから忘れなさい』などがある。

掲載:2017年2月

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