シアトルとその近郊には、伝統的な日本庭園や美しいバラ園、シャクナゲ園、そして研究機関として世界的に評価される植物園が数多く点在しています。これらの庭園では、春の桜や夏のバラ、秋の紅葉、冬の静寂といった四季折々の自然を楽しめるだけでなく、ライブミュージックや文化イベント、植物のセールなど多彩な催しも行われています。この記事では、この地域を代表する庭園や植物園の歴史と特徴を詳しく紹介します。訪れる際の参考にして、ぜひ日常の散策や観光プランに加えてみてください。
Seattle Japanese Garden シアトル日本庭園(モントレイク)

モントレイクに位置するシアトル日本庭園は、伝統的な日本の造園技法を取り入れた代表的な庭園です。池や石橋、茶室を備え、春の桜や秋の紅葉など四季折々の景観を楽しめます。1960年の開園時には、当時皇太子であられた明仁親王殿下(現 上皇陛下)が白妙の桜を、美智子妃殿下(現 上皇后さま)がカバノキ(European White Birch)を植樹され、日米友好の象徴ともなっています。詳細は「日本とシアトルの桜の深いつながり」をご一読ください。
デザインを手掛けたのは、多数の日本庭園を手がけた著名な日本庭園設計士の飯田十基氏(いいだ・じゅうき)。Roth tei-en Japanese Garden Journal によって、日本国外にある日本庭園のトップ10にランク入りするなど、高い評価を受けています。
- 設計:日本の庭園設計家・飯田十基氏ら
- 開園:1960年(2020年に60周年)
- 規模:3.5エーカー(約14,000㎡ / 1.4ha)
- 特徴:山、川、森、台地を表現した伝統的日本庭園
- 歴史:皇太子明仁親王殿下と美智子妃殿下による記念植樹
Kubota Garden 窪田ガーデン(レーニア・ビーチ)

シアトル南部のレーニア・ビーチの住宅街に広がる窪田ガーデンは、140種類以上のモミジや池、滝を配した広大な日本庭園です。1907年に高知県高岡郡からサンフランシスコを経てシアトルに移住した窪田藤太郎氏(1879~1973)が独学で造園を始め、戦時中のアメリカ合衆国政府による日本人・日系人強制収容を生き延び、シアトルに戻って完成させました。1970年代に住宅地として再開発の危機に直面したこともありましたが、市民運動により保存され、1982年に庭園の中心となる4.5エーカーが市の歴史的建造物に指定。その後、1987年にシアトル市が窪田家から庭園を買い取り、現在は市の庭園として管理しています。2015年には日本全国各地の城の石垣を築いた「穴太衆積み」の技術を世界に伝える粟田建設が手がけた石垣が完成。入場無料で気軽に訪れられるのも魅力です。日本政府は窪田氏の功績を称え、1972年に勲五等瑞宝章を授与しました。
- 創設:造園家・窪田藤太郎(1879–1973)
- 開始:1927年、5エーカー(約20,000㎡ / 2ha )を購入
- 特徴:140種類以上のモミジ、滝や池のある景観
- 歴史:強制収容を経て戦後に再建、市民運動により保存
- 管理:1987年以降シアトル市が所有、入場無料
Volunteer Park Conservatory(ボランティアパーク温室・キャピトルヒル)

キャピトル・ヒルにあるボランティア・パークは、シアトル市が誇る歴史的な公園。その中心に建つ温室は1851年にイギリスはロンドンで開かれた第1回万国博覧会の会場として建設された水晶宮(The Crystal Palace)がモデルで、Bromeliad(アナナス)、Palm(ヤシ)、Fern(シダ)、Cactus(サボテン)、そしてSeasonal Display(季節によって変更)という5つのカテゴリに分かれており、寄贈によって始まった蘭の展示も有名です。

ボランティア・パークは、1878年にシアトル市が製材工場のエンジニアから買い取った土地約45エーカーをシティ・パーク(市立公園)と名づけたのがそもそもの始まり。その後、景観設計で有名なオルムステッド・ブラザーズ設計事務所によるデザインをもとに改善され、1901年に米西戦争(Spanish-American War:フィリピン領有をめぐる戦争)で戦死した志願兵(Volunteer)を讃えるため、ボランティア・パークと改名されました。
- 規模:公園全体 約45エーカー(約182,000㎡ / 18.2ha)
- 温室モデル:ロンドンの Crystal Palace
- 展示:ヤシ、シダ、サボテン、ブロメリア、蘭など
- 特徴:季節展示や文化イベントを開催
ボランティア・パークの北側にある墓地には、ブルース・リーとブランドン・リー親子の墓があります。
Woodland Park Rose Garden(ウッドランド・パーク・ローズガーデン)

シアトルのウッドランド・パーク動物園に隣接するウッドランド・パーク・ローズガーデンは、1924年に開園した歴史あるバラ園です。噴水やガゼボを備えたフランス式庭園に約200種・3,000株のバラが植えられ、小さな噴水やガゼボ(あずまや)、ベンチもあり、美しい景観を楽しめます。バラが見頃を迎えるのは5月から8月。2006年以降は農薬を使わずに管理され、落ちたバラは動物園のゴリラなどの餌として再利用するなど、環境にも配慮しています。グリーンレイクや動物園観光と合わせて訪れるのもおすすめです。
- 開園:1924年
- 規模:2.5エーカー(約10,000㎡ / 1ha)
- 特徴:フランス式庭園デザイン、噴水やガゼボあり
- 環境配慮:農薬不使用、落ちた花は動物園で再利用
- 入場:無料

Bellevue Botanical Garden(ベルビュー・ボタニカル・ガーデン)

ベルビューにあるこの庭園は、17エーカーの広さを誇り、ダリア園やフクシア園、日本風の八尾庭園など多彩なエリアに分かれています。紅葉の名所としても知られ、地元住民や観光客に親しまれています。無料で公開され、イベントや展示も行われており、自然と学びの場として魅力的です。
もともと森林だったこの土地を開拓し始めたウィルバー氏の名をとってウィルバートン・ヒルと呼ばれるようになったこの丘は、白人が入植し、製材工場が設置された場所。1932年にモンタナから移住したヴォンバシャーク氏が現在のビジター・センターの横にあたる場所にログ・キャビンを建設し、1947年にこのキャビンを購入したショーツ夫妻が庭にシャクナゲを植えたのが庭園の始まりと言われています。
その後、家を建て直したショーツ夫妻はさらにシャクナゲを植えて庭を拡張し、1984年に庭と家をベルビュー市に寄付。庭園として発展させるためにベルビュー・ボタニカル・ガーデン・ソサエティが設立され、ベルビュー市は17エーカーをボタニカル・ガーデン、19エーカーをボタニカル・リザーブにすることを決定しました。その後、さまざまな変化を経て、1992年から無料で一般公開されています。
- 規模:17エーカー(約69,000㎡ / 6.9ha)
- 特徴:ダリア園、フクシア園、八尾庭園など
- 歴史:住民の寄贈をきっかけに整備、1992年から公開
- 入場料:無料
- 姉妹都市:ベルビューの姉妹都市・大阪府八尾市にちなんだ日本庭園
Bloedel Reserve(ブローデル・リザーブ・ベインブリッジ島)

シアトルからワシントン州フェリーで訪れるベインブリッジ・アイランドにあるブローデル・リザーブは、自然と庭園が融合した広大な敷地が魅力。ロサンゼルスやサンディエゴ、シカゴなど、全米各地の主要な日本庭園をデザインしたコウイチ・カワナ氏による禅庭園や、池に木々が映り込むリフレクション・ガーデンが有名で、静寂に包まれた景観が広がります。園内の池にはアヒル・ギース・白鳥などがおり、池に放されるマスを目当てに訪れる青サギやカワセミなども見られます。
- 規模:150エーカー(約607,000㎡ / 60.7ha)
- 設計:コウイチ・カワナ教授による禅庭園
- 特徴:リフレクション・ガーデンの美しい景観
- 歴史:日系人追悼碑が設置されている
ベインブリッジ・アイランドは第2次世界大戦前までたくさんの日本人や日系アメリカ人が住んでいたところです。1941年12月に旧日本軍が真珠湾を攻撃したことを受け、ルーズベルト大統領は翌年2月19日に日本人や日系アメリカ人の強制収容を命じる大統領令9066号に署名しましたが、最初に退去を命じられたのは、このベインブリッジ・アイランドに住んでいた人たちでした。米国国立公園局はその歴史を後世に伝えるため、追悼碑『Bainbridge Island Japanese American Exclusion Memorial』を設置しています。

Rhododendron Species Botanical Garden(シャクナゲ原種植物園・フェデラルウェイ)
フェデラルウェイにあるシャクナゲ原種植物園は、世界最大級のシャクナゲコレクションを誇る植物園です。州花シャクナゲを中心に、ブルーポピーやマグノリア、珍しいモミジなど多彩な植物が栽培され、研究・教育の場として国際的に評価されています。毎年、「シャクナゲ種シンポジウム」のほか、種子や花粉の配布、希少で美しい植物を多数掲載した年2回のカタログの発行、ワークショップ、ツアー、クラス、公開イベントなどを開催。庭園内にはビジター・センター、植物を購入できる店もあります。
- 規模:22エーカー(約89,000㎡ / 8.9ha)
- 特徴:世界最大のシャクナゲコレクション
- 植物:ブルーポピー、マグノリア、モミジなど
- 活動:国際シンポジウム、研究・教育への貢献
- 施設:ビジターセンター、植物販売店
Point Defiance Park ポイント・デファイアンス・パーク(タコマ)

©︎Weekend Sherpa / Courtesy of State of Washington Tourism
タコマにあるポイント・デファイアンス・パークは、2,200エーカーに及ぶ広大な都市公園です。園内には、原生林を巡る「ファイブ・マイル・ドライブ」、季節の花が楽しめるローズガーデンやダリアガーデン、そして落ち着いた雰囲気の日本庭園も揃います。ほかにも、海辺のオーウェン・ビーチや動物園と水族館、歴史的な交易所を再現した「Fort Nisqually」など、多彩な見どころが詰まっており、自然、文化、歴史を一度に楽しめる、タコマを代表する観光スポットとなっています。
- 規模:2,200エーカー(約8,900,000㎡ / 890ha)
- 特徴:日本庭園、桜並木、ローズガーデンなど
- 施設:動物園や水族館を併設
- 歴史的建築:1914年建立のパゴダ(日本庭園内)
Carl S. English, Jr., Botanical Gardens カール・S・イングリッシュ・ジュニア・ボタニカルガーデン(バラード)

バラードの観光名所ハイラム・M・チッテンデン水門(通称ロックス)の隣にある植物園。U.S. Army Corps of Engineers の一員だったカール・S・イングリッシュ氏が43年にわたり多種多様な植物を植え続け、現在では1,500種類もの植物が楽しめます。
ここを訪れる際は、必ず水門を見ていきましょう。レイク・ワシントンとピュージェット・サウンドを行き交う船のために水位を調節する様子が見られます。鮭が川をさかのぼる時期は、フィッシュ・ラダーをチェックするのも忘れずに。
- 規模:7エーカー(約28,000㎡ / 2.8ha)
- 創設者:カール・S・イングリッシュ(U.S. Army Corps of Engineers)
- 特徴:1,500種の植物、バラ園、フクシア交配試験場
- 周辺:バラード・ロックスとフィッシュラダーが隣接

Rhododendron Park ロドデンドロン・パーク(ケンモア)

シアトル北東のケンモアにあるロドデンドロン・パークは、春になると州花シャクナゲやツツジが咲き誇る美しい公園です。もともとシャクナゲ栽培を営んでいた家族の邸宅跡を1971年にキング郡が整備し、現在はピクニックや散策の場として親しまれています。古い暖炉やレンガを活かしたシェルターが残され、地域の歴史も感じられる場所です。
- 規模:13エーカー(約53,000㎡ / 5.3ha)
- 特徴:州花シャクナゲやツツジが春に満開
- 歴史:1971年にキング郡が公園として整備
- 設備:ピクニックシェルター(旧邸宅の暖炉やレンガを活用)
Seattle Chinese Garden 西華園(デルリッジ)
サウス・シアトル・カレッジのキャンパス内にある中国庭園で、姉妹都市・重慶(Chongqing)との協力により建設されました。四川省の景観を再現した園内にはパビリオンや茶室、中庭、池が配置され、異国情緒あふれる空間を楽しめます。シアトルの多文化性を象徴する庭園であり、文化イベントや交流の場としても活用されています。
- 規模:4.6エーカー(約18,600㎡ / 1.86ha)
- 設立:1984年、姉妹都市・重慶との協力で建設
- 特徴:四川省の景観を再現、パビリオン・茶室・池などを配置
- 活動:文化交流イベントや催しを開催