「春の訪れを象徴する花」といえば、桜を思い浮かべる人が多いでしょう。シアトル地域でも、いたるところでさまざまな種類の桜が咲きますが、その中には、太平洋戦争では敵対した日本とアメリカの友好の歴史を伝える桜もあります。ここでは、シアトルの桜が持つ特別な意味と、日米の歴史と桜の関係についてまとめました。
シアトル・センター:皇室が願った平和の象徴

1960年10月4日、日米修好通商100周年を記念して、皇太子明仁親王殿下と美智子妃殿下(現在の生活に繋がる上皇上皇后両陛下)がシアトルを訪問されました。これはご成婚後初の海外訪問という歴史的な節目であり、戦後15年という月日を経て、両国が新たな友好の時代へ歩み出す象徴的な出来事でした。
翌5日、お二人は開園したばかりのワシントン・パーク植物園にある「シアトル日本庭園」を訪れ、平和への祈りを込めて皇太子殿下が「白妙(しろたえ)」の桜を、美智子妃殿下がカバノキ(European White Birch)を植樹されました。これがシアトルにおける皇室ゆかりの桜の原点です。

その後、この歴史的な「白妙」は1975年にシアトル・センターの「神戸の鐘」の傍らへと移植された後に衰弱したため、懸命な栽培努力により後継木が育てられ、無事成長した4本は以下の3カ所で育っています。
- シアトル・センター(2本):フィッシャー・パビリオン前の芝生横
- 在シアトル日本国総領事公邸(1本)
- シアトル日本庭園(1本):最初の植樹地
さらに2010年には、これら歴史ある桜(ワシントン大学やスワード・パークを含む)の塩漬けが、山崎直子宇宙飛行士らと共にスペースシャトル「ディスカバリー号」で宇宙へと運ばれました。無重力の実験室で浮かぶ桜の花びらは、地球の枠を超えた日米の絆を世界に発信しました。詳細は在シアトル日本国総領事館の公式サイトでご覧ください。
スワード・パーク:シアトル桜祭りの発祥地

レイク・ワシントン沿いに広がる見事な八重桜「関山(かんざん)」の並木道。この1,000本の桜は、1976年に三木武夫首相(当時)が米国建国200周年を祝して寄贈したものです。三木首相は学生時代に外遊した際、シアトルを訪れたことがありました。
この植樹を祝うために日系コミュニティが開催した催しが、現在シアトルの春の風物詩となっている「シアトル桜祭り」の原点となりました。日本から運ばれた石灯篭が、今も静かに日米の友好を見守っています。

桜のそばにある石碑は、ワシントン州の石を使ってシアトルで制作されたもの。表には三木首相による書「祝米国建国二百年祭」、裏面には説明文と、シアトル市長のウェスリー・C・アールマン氏(当時)と、内田園夫総領事(当時)の署名が彫られています。また、三つの立派な灯篭は日本から運ばれ、ワシントン州日米協会、シアトル日系人会、春秋会(現・シアトル日本商工会)によって、1968年に寄贈されました。
ウォーターフロント(ピア66):日米交易の歴史を刻む

シアトルのウォーターフロント、ピア66の前には、日米交易の幕開けを象徴する桜が植えられています。これは1896年、日本郵船の「三池丸」がシアトルに初寄港してから100周年を記念して1996年に贈られたもので、記念碑も設置されています。

ゴールドラッシュに沸いた当時のシアトルと日本を結んだ航路の歴史を今に伝える、貴重なモニュメントです。
ワシントン大学:シアトルで最も有名な桜並木

シアトルで最も有名な桜の名所といえば、ワシントン大学の「The Quad(中庭)」に咲き誇る29本のソメイヨシノです。元々は1912年に東京から贈られた苗木の一部と言われ、1939年にワシントン大学の南側にあるワシントン・パーク植物園に植えられ、1964年に州道520号線の建設のためにキャンパスの中庭(The Quad)に移植されました(参考:UW Magazine)。
広大なキャンパスには、このソメイヨシノの他にも寒山(Kwanzanと表記)など、さまざまな桜が植えられています。例えば、2014年にワシントンDCの日本商工会が寄贈した18本の桜が、晴れた日にはマウント・レーニアが見えるレーニア・ビスタに植えられました(中庭から徒歩数分)。
ワシントン大学が作成した桜の地図を見ながら歩いてみましょう。満開になった週末などはとても混雑するので、ゆっくり静かに眺めたい場合は、早朝や夜に行くのがおすすめです。

パイク・プレース・マーケット前:日系移民のレガシーを継承

米国に現存する公衆市場では最も長い歴史を誇るパイク・プレース・マーケット。その創業時から日米開戦まで、出店者の多くを占めた日本人・日系アメリカ人農業者への敬意を表し、1980年代に桜が植えられました。
病気により2023年に一度は伐採されましたが、2024年に新しい8本の若木が植樹され、翌2024年に市長と在シアトル日本国総領事が出席して記念式典が行われました。マーケットの看板と共に、日系人の不屈の歴史を伝える新しいシンボルとなっています。


ワシントン州日本文化会館(JCCCW):教育と絆のシンボル

2024年2月、日本人移民の歴史と希望を伝えるため、JCCCWの周囲に11本の桜が新たに植えられました。ここは1902年に創立された米国本土最古の日本語学校の建物であり、戦時中の強制収容から戻った日系人の仮住まいとなった歴史もあります。
歴史的建造物に指定された校舎を背景に咲く桜は、シアトルにおける日本文化の力強い根付きを感じさせてくれます。

タコマのポイント・ディファイアンス・パーク:2026年、新時代の日本庭園へ

タコマ市にあるこの日本庭園は、姉妹都市・北九州市との長年の友情の証です。1959年以来の友好関係を記念して、在シアトル日本国総領事(当時)の太田清一氏と姉妹都市・北九州市から寄贈された桜が植えられ、現在は大規模な再整備プロジェクトが進められています。
2024年には北九州市の職人による現地調査も行われ、2026年には日本の造園伝統を色濃く反映した新デザインの発表が予定されています。

