アメリカでは、毎年5月の最終月曜日は「メモリアル・デー(Memorial Day)」として、南北戦争から現代に至るまで、アメリカが関与したすべての戦争や軍事行動において命を落とした人々を追悼する日とされています。
起源:デコレーション・デーからメモリアル・デーへ
メモリアル・デーの起源は、アメリカ南北戦争(英語では “American Civil War” または “The Civil War”) にまでさかのぼります。この戦争は1861年から1865年にかけて行われた、アメリカ史上最も多くの犠牲者を出した内戦です。
南北戦争後の1868年5月5日、北軍退役軍人会(Grand Army of the Republic)の司令官であったジョン・ローガン将軍が、5月30日を「デコレーション・デー」と定め、戦没者の墓に花を手向ける公式な記念日とするよう宣言しました。
この習慣は、アメリカ各地に広まり、やがてアメリカの軍事行動による戦没者を追悼する日として意味が拡大していきました。
祝日の制定と変更
1968年、アメリカ連邦議会は「統一月曜祝日法(Uniform Monday Holiday Act)」を制定し、メモリアル・デーを5月の最終月曜日に固定しました。この法改正により、1971年から正式に連邦の祝日となり、現在のように3連休となりました。
シンボル「赤いポピー」普及の立役者たち ─ アメリカとフランスから世界へ

メモリアル・デーによく見られる「赤いポピーの花(Remembrance Poppy)」は、第一次世界大戦(1914年〜1918年)の激戦地となったベルギー・フランダース地方に咲いていた赤いポピーに由来しています。
このイメージを世界に広めたのは、カナダの軍医ジョン・マクレーによる詩「In Flanders Fields(フランダースの野にて)」です。戦争によって荒廃した野原に真っ赤なポピーが咲き誇る光景を描いたこの詩は、戦争の悲惨さと平和への願いを象徴するものとなりました。
Reader’s Digest によると、赤いポピーが世界中に広まるきっかけを作ったのは、アメリカとフランス、それぞれの国にいた二人の女性でした。
アメリカでは、ジョージア大学のモイナ・マイケル教授(Moïna Michael)が、ジョン・マクレーの詩に感銘を受け、1918年に「We Shall Keep Faith(我らは信仰を守り続ける)」という詩を書き、戦没者の記憶を語り継ぐことの大切さを訴えました。彼女は自ら赤いポピーを身につけ、退役軍人支援のために赤いポピーを手作りして販売するアイデアを考案しました。これが、現在の募金活動としてのポピー販売の始まりとされています。
一方、フランスでは、アンナ・ゲラン(Anna Guérin)が戦争で夫や父を亡くした未亡人や孤児、復員軍人を支援するために大規模なポピー販売運動を組織しました。さらに、フランスの戦後復興資金を集めるため、「Inter-Allied Poppy Day(連合国ポピーデー)」の開催を提唱し、世界中の連合国で「ポピーデー(Poppy Days)」が実施されるようになりました。
この運動の一環として、障がいを負った退役軍人たちの自立を支援するため、ポピー工場(Poppy Factories)が各地に設立され、シルクや紙で作られたポピーの花が生産されました。
赤いポピーを胸に飾り、戦没者に敬意を表する伝統は、アメリカだけでなく、イギリス、フランス、ベルギー、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなど、第一次世界大戦で連合国側だった国々でも続いていると、Reader’s Digest は伝えています。
現代のメモリアル・デーの過ごし方
メモリアル・デーには、ワシントンD.C.のアーリントン国立墓地で全米戦没者追悼式典が行われ、大統領や要人による献花とスピーチが行われます。また、全米各地で退役軍人団体や学校の吹奏楽部などが参加するパレードなどもあります。
アメリカでは「夏の始まりを告げる日」ともされ、バーベキューやピクニック、メモリアル・デーのセール、旅行などを楽しむ人々でにぎわいます。
なお、アメリカは国土が広く地域によって気候が異なります。シアトルなど太平洋岸北西部では、夏の本格的な訪れは7月ごろとされ、メモリアル・デーの時期はまだ春の寒さが残ります。
注意点
この日は公共機関や銀行、図書館、郵便局が休業、学校は休校となり、公共交通機関は祝日スケジュールで運行されます。
連休で旅行に出かける人が増えるため、空港や主要道路も混雑します。外出や旅行を計画する際は、事前にスケジュールを確認することをおすすめします。
ベテランズ・デーとの違い
11月11日に制定されている『Veterans Day(ベテランズ・デー)』は、アメリカにおけるもう一つの重要な軍事関連の祝日です。
- Memorial Day(メモリアル・デー): 戦争や軍事行動で命を落とした戦没者を追悼する日(5月最終月曜日)
- Veterans Day(ベテランズ・デー): すべての退役軍人を称え、生存者にも感謝を示す日(11月11日)
つまり、メモリアル・デーは「亡くなった方への追悼」、ベテランズ・デーは「生存している退役軍人を含め、軍人への感謝」が主な目的です。