求人広告を作成する際、皆さんはどこまでその表現に注意されているでしょうか。職務内容や給与、必要な経験年数は確認していても、ビザに関する表現や応募資格についてあまり注意を払っていない方もいるのではないでしょうか。
最近の訴訟や行政当局による取締りを見ると、求人広告は単なる採用ツールではなく、企業にとって一つのコンプライアンス書類になりつつあります。この記事では、司法省による取り締まりの強化、外国人の求人失敗例、気をつけなくてはならない州法についてご紹介します。
Protecting U.S. Workers Initiative -トランプ政権下で強まる司法省の取締り
最近の動きを理解する上で最初に押さえておきたいのが、トランプ政権下で再び強化されている、米国司法省 Civil Rights DivisionのImmigrant and Employee Rights Section(IER)による Protecting U.S. Workers Initiative です。
これは第1次トランプ政権下の2017年に開始され、第2次トランプ政権発足後の2025年に再始動しましたが、新しい法律が制定されたわけではありません。既存の執行権限を利用し、企業がビザ保持者を優先することにより、米国市民を採用機会から不当に排除していないかを重点的に取り締まるものです。
これは、トランプ政権が推進する「米国人労働者の雇用機会を保護する」という政策方針が、企業の採用実務にも直接及んでいる例と考えられます。2025年の Initiative 再始動後、IT系企業、IT関連派遣会社、専門サービスなどの企業に対する提訴が相次いでおり、2026年4月に Department of Justice (DOJ/司法省)が後述のソフトウェア企業 Cloudera, Inc.を提訴した時点で、DOJはすでに10件のケースで和解したと発表していました。
ただし、「米国籍の人を募集」と求人広告に書くことはできません。企業が米国市民権保持を応募条件とすれば、それ自体が違法な国籍差別となる可能性があるからです。
H-1B・永住権サポートをめぐる求人の失敗
最近の事例を見ると、問題は求人広告の一文から、AI、ビザサポート、さらには応募方法そのものにまで広がっています。
2026年2月のElegant Enterprise-Wide Solutionsは、現在の採用実務を象徴する事例です。同社が使用したAI 生成の求人広告には、H-1B、OPT、H-4など特定のビザを持つ候補者だけを対象とする条件が含まれていました。DOJはこれを国籍差別として問題にし、同社は和解に応じました。
この事件についてDOJが強調したのは、誰が広告を書いたかではなく、たとえAIが生成しても、募集企業に責任があるという点でした。
永住権スポンサーに関連する採用でも訴訟が起きています。2026年4月28日、DOJはCloudera社を提訴しました。DOJによると、同社はビザで働く従業員の永住権取得を支援するための技術職ポジションについて、米国市民が応募しにくい別の採用手順を設けたとされています。
特に問題となったのが応募用メールアドレスです。求人広告では応募者に履歴書を送るよう案内していましたが、そのアドレスは外部からのメールを受信できない設定になっており、実際に応募した米国市民のメールも送信できませんでした。
DOJは、同社がこのような方法で高給の技術職への米国市民の応募を妨げ、選考対象から排除したと主張しています。
給与幅をめぐる州法の拡大
求人広告には、もう一つ急速に広がっている規制があります。Pay Transparency Law(給与透明化法)です。いくつかの州では、一定の求人について給与または給与幅の開示が求められています。ただし、各州の要件は同じではありません。下記はその一例です。
・ニューヨーク州 原則として従業員4名以上の雇用主は、対象となる求人広告に給与幅を掲載する必要があります。さらに掲載する給与幅は、掲載時点で雇用主が誠実に正確だと考えるものでなければなりません。そのため、単に非常に広い給与幅を掲載すれば法律を満たせるとは限りません。
・ニュージャージー州 2025年6月からPay Transparency Lawが施行され、対象となる求人には給与だけでなく、福利厚生とその他の報酬プログラムについても記載が必要です。そして2026年3月、New Jersey Department of Laborはこの法律について初めて積極的な是正措置を実施しました。42社の大手企業について求人広告に必要な給与や福利厚生情報が不足していたとして是正を求め、各社は広告を修正または削除しました。
・イリノイ州 2025年1月から、一定の求人について給与と福利厚生の掲載が求められています。Illinois Department of Laborは、掲載情報についてgood faithを要求しており、その判断では企業の記録まで確認する可能性があると説明しています。
・カリフォルニア州 従業員15人以上の雇用主は、求人広告にその職種の給与範囲を掲載する必要があります。給与範囲とは、雇用主がその職種について合理的に支払うと予想する給与または時給の範囲を指します。
また、外部の人材紹介会社や求人サイトなどに求人掲載を依頼する場合も、雇用主は給与範囲を提示し、掲載を依頼された第三者も求人広告にその情報を記載しなければなりません。
勤務地にも注意が必要です。カリフォルニア州内で勤務する可能性がある職種であれば、出社勤務だけでなく、在宅勤務の求人についても給与範囲の掲載が必要になる場合があります。 そのため、全米から応募できる在宅勤務の求人では、カリフォルニア州の従業員を採用する可能性があるかを確認する必要があります。
求人の際に給与の記載を義務付けている州
以下は本ニュースレター発行時点で、求人の際に給与の記載を義務付けている州の一覧です。
カリフォルニア州
施行日:2023年1月1日
概要:従業員数15名以上、給与幅を掲載。州内で勤務する可能性のあるリモート求人も対象。 [公式ページ]
コロラド州
施行日:2024年1月1日
概要:報酬幅、福利厚生、その他報酬、応募締め切り日等。 [公式ページ]
コネチカット州
施行日:2026年10月1日予定
概要:社内/社外の求人掲示に給与幅と福利厚生の一般的説明を記載。 [公式ページ]
デラウェア州
施行日:2027年9月26日
概要:従業員数26名以上、給与幅、福利厚生、その他報酬を記載。一定のリモート職も対象。 [公式ページ]
ハワイ州
施行日:2024年1月1日
概要:従業員数50名以上、実際に予想される報酬を合理的に反映した幅を記載。 [公式ページ]
イリノイ州
施行日:2025年1月1日
概要:従業員数15名以上、給与幅と福利厚生を記載。州内に報告が必要な州外の職種も対象。 [公式ページ]
メイン州
施行日:2026年10月1日予定
概要:従業員数10名以上、求人に予定給与幅を記載。 [公式ページ]
メリーランド州
施行日:2024年10月1日
概要:給与幅、福利厚生、その他報酬を記載。人材紹介会社経由も対象。 [公式ページ]
マサチューセッツ州
施行日:2025年10月29日
概要:従業員数25名以上 誠実かつ合理的な給与幅を記載。人材紹介会社経由も対象 [公式ページ]
ミネソタ州
施行日:2025年1月1日
概要:従業員数30名以上 開始時の給与幅または固定給、福利厚生、その他報酬を記載 [公式ページ]
総合人事商社クレオコンサルティング
経営・人事コンサルタント 永岡卓さん
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