ビールの香りや苦味、風味を決定づけるホップ。この重要な原料の約4分の3が、実はワシントン州で栽培されています。
米国農務省(USDA)が2025年12月19日に発表した「National Hop Report」によると、2025年の全米のホップ生産量は8,314万ポンドで、うちワシントン州は6,209万ポンドを占めています。これは全米の74.7%にあたり、ワシントン州が名実ともに全米最大のホップの産地であることが、あらためて裏づけられました。
なかでも、州南部に広がるヤキマ・バレー(Yakima Valley)は、火山性の肥沃な土壌、カスケード山脈の雪解け水、乾燥気候と長い日照時間といった自然条件が揃う、”ホップの理想郷”と呼ぶにふさわしい土地です。
この記事では、クラフトビールとホップの関係、ヤキマ・バレーの魅力と歴史、さらには2025年の生産実績も含めてご紹介します。
ホップが作る、クラフトビールの個性

ホップはアサ科(Cannabinaceae)の多年生つる植物で、ビール醸造に使われるのは栽培ホップ(Humulus lupulus)の雌株の花(毬花)です。ホップは、味や香り、苦味、泡立ち、保存性に影響を与えるため、ビール造りに欠かせません。
ワシントン州では、Citra、Mosaic、Simcoe、Cascade、Zeus(CTZ)などの人気品種が広く栽培されています。特にCitraはトロピカルフルーツや柑橘の香りが特徴で、IPAを中心とするクラフトビールの定番です。これらのホップは、主に州南部のヤキマ・バレー(Yakima Valley)で収穫され、全米や世界中のブルワリーへ出荷されています。
ヤキマ・バレー:ホップの理想郷
ワシントン州南部に位置するヤキマ・バレーは、ホップ栽培に理想的な自然条件が揃っています。火山性の肥沃な土壌、カスケード山脈の雪解け水、乾燥した気候、そして長い日照時間が、香り高いホップを育てます。
Yakima Valley Tourism や American Hop Museum によると、ワシントン州のホップ栽培の歴史は1868年、ニューヨーク州出身の農夫チャールズ・カーペンターが、父親の農場からホップの根株を取り寄せて植えたのが始まりです。
その後、1876年には商業出荷が可能となり、ヤキマ郡はワシントン州随一のホップ産地へと成長していきました。1920年代から1940年代にかけては、禁酒法や大恐慌、ホップの過剰生産などの影響で栽培が打撃を受けましたが、ヤキマ・バレーの農家たちは機敏に立て直しを図ります。種なしホップへの切り替えと品質改善によって信頼を回復し、1939年には世界への輸出も始まりました。

その後の技術革新も、生産量の拡大を後押しします。1940年代には手摘みから機械式の収穫機への移行が進み、固定式の収穫・乾燥設備が導入されたことで、効率は大きく向上しました。1963年には、ヤキマ・バレーだけで米国全体のホップ生産量の50%を占めるに至ります。1970年にはその割合が70%に達しました。こうした歴史の積み重ねの上に、今のワシントン州のホップ産業があるのです。
英語メモ:とれたてのホップは”fresh hop”、または”wet hop”と呼ばれます。
フレッシュホップビールという地元の贅沢

©︎Rachael Jones
8月下旬から9月にかけて、ヤキマ・バレーではホップの収穫が行われます。収穫直後のホップを乾燥させずに使う「フレッシュホップ(Fresh Hop)ビール」は特別な一杯です。生ホップ由来のジューシーで青々しい香りが特徴で、醸造から提供までのスピードが鍵となります。
2025年のホップ生産実績

©︎Jason Hummel Photography
USDAが2025年12月19日に発表した確定版「National Hop Report」によると、ワシントン州は、2025年も全米ホップ生産の74.7%を占め、生産の中心地としての地位を維持しています。収穫面積は前年から縮小したものの、単収と価格はともに上昇しました。
具体的には、ワシントン州の収穫面積は31,198エーカーで前年比6%減となった一方、単収は1,990ポンド(前年比4%増)、1ポンドあたりの価格は5.30ドル(前年の5.00ドルから上昇)という結果になりました。面積が縮小しても単収と価格が伸びたことで、州全体の生産額は3億2,907万ドルとなり、前年の3億2,067万ドルを上回っています。生産量自体は6,209万ポンド(前年比3%減)にとどまりましたが、面積の減り幅に比べれば小幅な下落です。
この傾向は全米レベルでも共通しています。全米の収穫面積は41,654エーカーで、前年の44,793エーカーから7%減少し、減少はアイダホ、オレゴン、ワシントンの生産3州すべてで見られました。一方、単収は全米平均で1,996ポンドとなり、前年から52ポンド増加。面積の減少を補う形となり、全米の生産量は8,314万ポンドで、前年の8,707万ポンドから5%減にとどまっています。生産額は全米で4億4,748万ドルとなり、前年の4億4,581万ドルからわずかに増加しました。

