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アメリカのエステートプランの基本

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アメリカで「エステートプラン」という言葉を聞いたことがある方も多いかもしれません。

でも、その具体的な意味や目的は理解しづらいこともあります。連載の第1回は、エステートプランの基本についてご説明します。

もくじ

エステートプランとは

自分の人生の中でさまざまな目標を達成するために立てる資金計画のことを「ファイナンシャルプラン」と呼びますが、これは人生の局面によって変化しますよね。

例えば、結婚するなら「結婚資金を貯めよう」、子供が生まれれば「子供の学費を積み立てよう」、リタイヤに向けて「老後はいくら貯金が必要だろう」と、目標に向けて計画が変わります。エステートプランというのはその延長線上とでも言いましょうか、自分の人生の最終章の計画のようなものです。

人生を終える計画と言うと、自分が亡くなった後、自分の資産を誰にどう処分して欲しいのかを明確にすることだけのように思えますが、多くの場合、それだけでは不十分です。

例えば、米国では亡くなった人の所有している資産すべてをまとめて「エステート」(estate)と呼びますが、遺産を相続した人が相続した資産に対して「相続税」(inheritance tax)を支払う日本のシステムとは逆に、米国では亡くなった人のエステートが「遺産税」(estate tax)を支払います。

そのため、自分が亡くなる前の節税対策として、生前贈与、トラストの設定、名義変更や口座受け取り人の設定、プロベート回避の方法などを計画し、それを的確なタイミングで実行するのも、エステートプランの一部として重要です。

資産の規模に関わらず、遺言書は大切

さて、エステートプランと聞いてまず遺言書を思い浮かべる方も多いと思います。ドラマや映画などでもよく亡くなった富豪の遺言書を、弁護士が神妙な顔つきの親族一同の前で読むシーンなどが出てきますよね。あれを見て、「私にはそんな大きな資産はないし、遺言なんてまた大袈裟な」と思う方もいらっしゃるでしょう。

確かに、遺産の総額が米国連邦遺産税またはワシントン州遺産税の対象とならない額であれば、遺産税をどのように回避するかを心配する必要はありません。また、もしほとんど資産がないという極端な場合であれば、遺言書がないまま亡くなっても、結果的に何とかなったという場合もあるかもしれません。

でも、遺言書は決してお金持ちだけのものではありません。資産が多くても少なくても、自分の死後に資産を特定の誰かに渡したい、誰かの役に立ってもらいたいという希望を持っているのであれば、ベーシックなものであっても遺言書があるに越したことはありません。

遺言書(will)を作成するメリット

基本的に、ワシントン州在住の方またはワシントン州内に資産がある方が遺言書のないまま亡くなった場合、その方の資産はワシントン州の法律に沿って分配・譲渡されてしまいます。(これについては後のコラムでもう少し詳しくご説明します。)

加えて、遺言書を残すことにより、自分が亡くなった後に遺産を管理し、遺言書通りに分配してくれる「執行人(トラストがあればトラスティ)」を指名することができるので、遺産の分配手続きがずっとスムーズになります。

また、ワシントン州法では18歳未満が未成年とされていますが、もし、未成年の子どもがいるのであれば、自分に万が一のことがあった時に子どもを引き取る後見人を指名するのも遺言書の重要な役割です。

ワシントン州では、未成年者の後見人の役割がconservatorとguardianに分かれており、conservatorは未成年者の財産を維持し管理する人、guardianは未成年者の保護者となる人です。どちらの役割も未成年者が成年となった時点で解任されるので、子どもが18歳になった時点で監督責任者がいなくなるわけですが、親のエステートプランの中にトラストを設定することで、その年齢を18歳以上に引き上げることが可能です。

でも、エステートプランに含まれるのは、遺言書だけではありません。遺言書というのは自分が亡くなった後に初めて法的効力を持つものですので、逆に言えば、自分が生きている間は効力がありませんし、その間に何度でも書き換えることが可能です。

委任状(power of attorney)とは

自分が生きている間に法的効力を持つ書類は、委任状(power of attorney)です。これもエステートプランの書類の一つです。

委任状の目的は、例えば、万が一、自分が事故に遭って意識がなくなったり、判断能力を失ったり、意思の疎通が図れなくなった場合に、自分に代わって治療について判断を下してくれたり、銀行口座の管理や請求書の支払いをしてくれる人を「代理人」として指名し、その人に権限を与えることです。

また、意思の疎通ができないまま、死を待つだけの状態になった場合に延命治療を望むか望まないかについて明記する指示書もエステートプランの一部です。「そんな、縁起でもない。考えたくもない」とおっしゃる方もいらっしゃるでしょう。でも、突然、その万が一のことが起こってしまった場合の周りのご家族やご友人の混乱を想像してみてください。あらかじめ、自分の希望を明確にした委任状や指示書があることで、彼らの負担が少しでも軽くなるのではないでしょうか。

人生、いつ何が起こるかわかりませんから、備えあれば憂いなし。年齢にかかわらず、自分の納得した形のエステートプランを作成し、定期的にアップデートしておくことが大切です。

次回は、ワシントン州でのエステートプランの書類についてご説明します。

Ako Miyaki-Murphey, J.D.
パーキンズ・クーイ法律事務所(Perkins Coie LLP)
シカゴでパラリーガルとして働きながら2002年にJohn Marshall Law School(現在はUniversity of Illinois Chicago School of Law)でJ.D.を取得。2002年から2006年までハワイ州の弁護士事務所で勤務した後、2006年にワシントン州弁護士資格を取得。シアトルのFoster Garvey弁護士事務所でトラスト・エステート法の経験を積んだ後、2020年から現在のPerkins Coie LLPに勤務。エステートプランの作成だけでなく、ワシントン州のプロベート手続きやトラストの管理、日本在住の遺産受取人代理や、相続税・贈与税申告書の作成も行う。
【公式サイト】www.perkinscoie.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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