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第16回 ワシントン州での事業所設置について ~ なぜワシントン州でビジネスをすると有利なのか?

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ここのところ、アメリカの代理業者を通して海外業務を行う日本企業よりも、アメリカに子会社・事業所を設立して独自の企業展開を海外で行う企業が増えてきました。

代理業者を通しての海外業務は、成功報酬で行う場合はリスクとコストが少なくてすみますが、もし代理業者のミスで顧客と問題があった場合は、日本企業が法的責任を負わなければならないことがあります。それだけではなく、顧客からのクレームなどの法的処置は、日本企業に委ねられ、訴訟になった場合は、アメリカでの裁判を要求される可能性があります。これはアメリカに精通していない日本企業にとってはとても厄介な問題です。

それに対して、アメリカで子会社・事業所を設立してアメリカの販売業者や業務委託会社などとの業務を行う場合は、日本の親会社は別の事業体として機能しているので、本社と現地事務所間でのファンド混蔵等、特別な理由と法的関係がなければ訴訟などの問題に関して法的責任を負うことを避けることが可能です。

次に、アメリカで事業をする際、どの州に子会社・事業所・企業を設置するかについては、必ずしも事業展開の拠点とする州でなければならないという規定はありません。仮にカリフォルニア州で事業をしていても、他州に法人組織がある企業はよくあります。法人形成の州に関しては主に、1)法人組織形成をする州の法律がその企業のニーズ・便宜・利益にかなっているか、2)その州以外での事業活動がほとんどないかによって決定されます。

一般に、外国企業にとってはデラウェア州やネバダ州が便利だと言われてきましたが、最近はワシントン州もこれらの州と似たような利点が得られるようになりました。

例えば、税金上で言えば、ワシントン州では企業に対する法人所得税はかかりません。また、取引課税や運用課税(B&O Tax)が売り上げ(利益ではありません)に対してかかる代わりに、税金対象となるのはあくまでも州内で得られた歳入のみになります。ちなみにその税率は、サービス業は0.015、小売業は0.00471、卸売業は0.00484、製造業は0.00484です。これは特に規模の小さい新興企業にとっては大変有利です。

企業設立の際に考慮・準備しなければならないことを一覧にしてみました。

  • 事業体のタイプを決定
    事業体のタイプは、下記のどれか一つを選びます。
    S-Corporation
    C-Corporation
    LLC
    Partnership
    Non-Profit Corporation

    S-Corporation での事業は事業主が永住権か市民権を所有する必要があるため、外国人(永住権や市民権を所有しない人)がワシントン州で企業を設立する場合の選択肢は C- Corporation、 LLC 、Partnership に限られます。なお、S-CorporationとLLCは起業者・経営者個人に課税されますが、C-Corporation は起業者・経営者個人と企業の両方に課税される二重課税となります。
  • 起業者の氏名とその人数、株の種類と数(Corporation の場合)を決定
  • 定款(Articles of Incorporation)をワシントン州務長官事務所(Washington Secretary of State)に提出
    オンラインでも提出できるので、公式サイトをご参照ください。(Washington Business Corporation Act Title 23B)

    これを提出して受理されると、ワシントン州が UBI 番号(Unified Business Identifier:ビジネス鑑定番号〉を発行してくれます。なお、起業者がワシントン州に居住していない場合や、自宅で仕事をしているため「会社の住所」がない場合は、弁護士事務所と契約して登録代理人(Registered Agent)の箇所にその弁護士事務所を記載します。これにより、政府からの連絡はすべて登録代理人が受け取ることになります。
  • Employer Identification Number(EIN)を取得
    Employer Identification Number(EIN)は、IRS(Internal Revenue Service: 米国国税庁)に申請して取得します。連邦政府に提出する税金関係書類で必要な情報です。Federal Tax Identification Number とも呼ばれます。
  • 銀行口座を開設
    利用したい銀行で企業の口座(business account)を開設します。その際、前述の UBI と EIN を提出する必要があります。銀行のサービスはそれぞれの銀行で異なりますので、詳細は銀行の公式サイトをご参照ください。
  • 雇用の予測
    これによって従業員に対する保険や税金などが発生するため、事前に予測などを報告します。なお、従業員が海外からの派遣である場合は、その従業員の就業ビザを前もって取得しておくことが必要です。
  • 州と市にビジネスライセンス取得のための申込書を提出
    ビジネスをする市と州に、ビジネス・ライセンスを申請します。ビジネス・ライセンスは、州と市に提出する税金関係書類に必要な書類です。
    例:シアトル市:公式サイト ワシントン州:公式サイト
  • 定款の細目規定(Bylaws)を作成
    これは通常、初回の株主総会・会合(起業後120日以内)までに作成する必要があります。
  • Operating Agreement や株主間契約書を作成
    オーナーが複数の場合は、Operating Agreement や株主間契約書が必要となります。これらは州に提出する必要はありません。

以上のすべてをクリアすると企業の登録が済んだことになります。しかし、会社の設立には他にも考慮しなければならない書類などがありますので、個別のケースについては弁護士にご相談ください。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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