第82回のコラムで、小規模株式会社(S-Corporation)を設立する際の利点と欠点について簡単にご説明した際、経営と管理が簡素化されている有限会社(LLC)と比べ、小規模株式会社(S-Corporation)の欠点として、管理と経営が複雑化・制約的であることを取り上げました。
今回は、有限会社(LLC)を法的に経営しながら、小規模株式会社(S-Corporation)として納税する際に考慮する点について簡単にご説明します。
多くの投資家や株主との取引や出資を目的としない企業経営者にとっては、有限会社(LLC)や小規模株式会社(S-Corporation)の経営は税金対策上または法的保護の観点から有利であると考えられています。それは、経営者個人に対する税金のみでなく企業に対する税金(二重課税)が課税される株式会社(C-Corp)に比べ、有限会社(LLC)や小規模株式会社(S-Corporation)の課税方法が一体化されているため、多くの節税が期待されるからです。
小規模株式会社 (S-Corporation)の経営に関しては米国での永住権または市民権を持つ方のみが対象ですので、永住権または市民権を持たない方はこの企業形体の基での経営は不可能です。さらに、有限会社(LLC)は、小規模株式会社(S-Corp)に比べ、経営方法や管理に法的に柔軟さが与えられているため、経営にそれほど費用がかからないということが利点として挙げられています。
さて、上記の利点や欠点は法的観点での一般的な分析ですが、納税方法における利点や欠点とは異なります。つまり、同じ有限会社(LLC)であっても、有限会社用の用紙をIRSに提出する場合と、小規模株式会社(S-Corp)用の用紙を IRS に提出する場合があり、小規模株式会社(S-Corp)として税金処理することによって、場合によっては多くの節税が期待できることもあります。
それは、小規模株式会社(S-Corp)の経営者が会社の純利益を給料という形ではなく、配当という形で自分に報酬として支払うことができるため、給料に対して課される自営業者税(Self Employment Tax – Social Security & Medicare)の部分で節約が可能だからです。これはすべての純利益が経営者の給料としてみなされ、自営業者税(Self-Employment Tax – Social Security & Medicare)がすべての純利益に課税される有限会社(LLC)と異なります。
例えば、2016年度の自営業者税率は15.3%で、そのうち13.4%の社会保障税率が$118,500を上限に収入に対して課税されますが、2.9%の高齢者向け医療保険税率に関しては収入に上限がありません。業界によって妥当と思われる給与額は異なりますが、妥当とされる額と営業利益によっては社会保障税・高齢者向け医療保険税を節税することが可能です。例えば、営業利益(純利益)が$300,000で自分に支払う給料を$120,000と設定した場合、約$9,000の節税が可能です。
しかし、このような税規定に対する特権を利用して利益のほとんどを配当として扱うことによって自営業者税の支払いを免れる経営者が多くなってきたことから、IRS はそのような経営者への監査を年々厳しくしています。
従って、標準としては、経営者が業界で妥当と思われる給料を自分に支払い、残りを配当という形で支払わなければなりません。また、小規模株式会社(S-Corporation)の経営管理等に対して諸経費(間接費)がかかるため、それらの諸経費が節税額を上回る可能性があることも考慮する必要があります。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
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