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第115回 雇用法から分析する、Uberとタクシーの違い

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Uber と言えば、今や多くの方がアプリをスマートフォンにインストールしている便利な運転代行業者です。いつどこにいても4~5分で運転手が来てくれ、あらかじめ登録しておいたカードで引き落とされ、しかもタクシーより安いということで、ここ3~4年でとても身近なものになりました。

でも、「なぜタクシーより安いのか」と疑問を持つ方も少なくないでしょう。

それは、雇用法では、Uber の運転手は Independent Contractors(独立契約者)で、タクシーの運転手はEmployees(被雇用者)であるということが主な理由です。

第10回「契約社員〈独立契約者〉採用に関する法律」第43回「契約社員・独立契約者と正社員の誤分類 (Misclassification)の増加とそれに伴う問題」で独立契約者と被雇用者の相違とそれにともなう問題についてご説明しましたが、Uber は運転手を独立契約者として採用して事業を運営しているため、労働被害補償、失業保険、源泉徴収等の被雇用者として保障されている福利厚生を支払う義務が発生しません。

さらに、通常のタクシー会社のように、運転手に車を提供しなくて良いため、人件費以外の経費の負担がなく、低コストで簡単に運営できます。運転手にとっても、時間に束縛されずに仕事ができ、自分の都合のいい日時を選べるため、二次的な仕事、または小遣い稼ぎにも良い仕事とも言われています。

このように、Uber では会社と運転手のニーズが一致しているため、Uber 事業が反映したと言えます。

しかしながら、結果的に Uber 運転手は被雇用者として採用されているタクシー運転手ほど経済的恩恵を受けていないため、運賃が安く設定されています。

そもそも、タクシーの方が Uber より運賃が高い理由は、タクシー運転手にそれ相応の福利厚生と金銭的恩恵が与えられているからで、その利益が与えられていない Uber 運転手にしわ寄せが来ていると言えます。また、Uber 運転手は、福利厚生が与えられていないだけではなく、自分の車を使っています。したがって、タクシー運転手は事故にあっても一般的にタクシー会社が保険から損害賠償の支払いをするのに対して、Uber 運転手は自分の保険からの支払いとなり、その分の報酬が上乗せされているかは疑問です。

その結果、昨年から今年にかけて、Uber に対して Uber 運転手が起こす訴訟がかなり増えてきました。Uber が Tip(チップ)を運転手に払い損ねた、最低賃金に満たない支払いや夜勤勤務に対する報酬を怠った、などがその理由です。

主な法的問題は、Uber 運転手が被雇用者なのか独立契約者なのかという法的分類の仕方と、どのように Uber が運転手に業務を依頼しているかによって、法的解決方法とその後の Uber の業務方針が異なってきます。

なお、シアトル市は、これらの Uber 運転手を保護する条例(SMC §6.310.735)を2015年12月に承認しましたが、その後、商工会議所や運輸会社等がそれを阻止する訴えを連邦裁判所に提出したため、現在は正式に条例が執行する日は未定となっています。もし Uber 運転手を保護する条例が執行されれば、おそらく Uber の運賃も値上げせざるを得なくなると見込まれています。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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