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第10回 アメリカの契約社員(独立契約者)採用に関する法律

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もくじ

独立契約者の定義

アメリカの雇用法上、企業・雇用者が労働者を雇用する場合は独立契約者〈契約社員〉か正社員のどちらかを選択します。

企業にとっては独立契約者の採用は特に経済面で利点がありますが、契約社員管理の面ではほとんど権力がありません。定義上、第9回のコラムで触れたような家主と建設請負業者の関係のように、独立契約者にとって企業は雇用者ではないので、仕事の方法や仕事の時間帯、仕事の場所などについては、契約者の判断にゆだねることになっています。

ただし、企業としては、その契約者に対しての税金を支払う義務がなく、契約者の仕事に伴う費用も払う必要がなく、失業保険や労働災害補償に伴う支払いの義務も負っていません。さらに、差別法や職場安全法などに関する法律に厳密に縛られていないため、解雇もたやすくできます。

独立契約者採用の際の留意点

上記のように雇用者に対する経済的・法的責任の軽さについては利点がありますが、だからといってIRS (国税庁)から独立契約者用に配布することを義務づけられている 1099 Form を渡し、あたかも正社員のように契約者を扱った場合は問題があります。最近、あるタクシーの運転者が独立契約者として採用され、タクシー会社の制服着用を義務づけられ、タクシー会社の名刺のみを使用することも義務付けられ、さらに顧客のサービスに関するマナーについても管理されていたというケースがありました。タクシーは会社の所有物で、それを運転者に独立契約者として契約上貸していた上、運転者の労働時間や労働時間帯については管理していなかったにもかかわらず、裁判所はこのタクシー運転者を正社員に分類し、タクシー会社は運転者を正社員として扱うことを義務付けられました。契約社員を独立契約者として扱うか社員として扱うかは企業の自由ですが、法律、または税金などの手続き上、被雇用者に対する管理の度合いによってその区別をしなければなりません。

独立契約者として採用される際の留意点

独立契約者は一般的に複数の企業や雇用者と雇用契約を結んだり、比較的自由に仕事の量や場所、また仕事の時間帯を決めることが可能です。ある意味で、独立契約者は企業にとってある仕事を完了するための専門家で、二者の関係は同等と言って良いでしょう。その一例が、弁護士や会計士などの専門家と顧客の関係です。

第9回で触れた家主と建設請負業者の関係もこの独立雇用者と企業の関係と法的には同じです。ただし、企業と独立契約者の関係が雇用者と社員(employer-employee) の関係で結ばれていないため、経済的な安定性や差別などの法律下の保護に関してはきわめて薄いわけです。

例えば、企業が5名の既存社員と1名の新しく雇われた独立契約者に同じ業務を任せ、独立契約者が突然解雇されたとします。仮に解雇された独立契約者が唯一の日本人で、既存社員の5名が白人であったとしても、よほど明らかな証拠がない限り差別法は適用しません。ただし、企業が5名の白人を社員として採用し、1名の日本人を独立社員として同時に採用して同じ業務を任せた場合は、採用する際に差別の要因があったと考えられるので、この日本人は差別法によって保護されます。

いずれにしても、独立契約者として採用される際には、社員の場合との違いを十分理解して契約を結ぶことが大切です。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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