第16回のコラムで、会社には複数の種類があることをご説明しましたが、複数の経営者がいる場合は、通常、その経営者間にも契約書が必要です。株式会社の場合は株主間の契約書と取締役を含む経営責任者間の契約書、有限会社(LLC)や共同経営者組織 (Partnership)の場合は経営者間の契約書があります。今回は、どの種類の企業体にも適用できる、共同経営者間の契約書に必要な内容・条項を説明と頻繁に起こる問題をご紹介します。
まず、下記が契約書の主な項目です。
- 経営者の役割と位置づけ
- 資本拠出 (株式会社の場合は株式の査定)
- 配当の仕方
- 負債の責任と仕組み
- 投票権
- 管理権と管理の方法
- 会計の取り扱い
- 競合禁止の規定
- 知的財産権と企業秘密の扱い
- 勧誘禁止の規定
- 株式譲渡・権利譲渡の手続き
- 解散手続き
- 紛争解決法
上記の中でよく問題・訴訟になるのが、 8)競合禁止の規定、9)知的財産権と企業秘密の扱い、10)勧誘禁止の規定です。これらの項目は、通常、雇用者と被雇用者間の雇用契約書にも必ずと言っていいほど含まれていますが、経営者間の場合はそれ以上に重要です。それは、経営者は被雇用者が所有しない情報も保持し、実際に企業の経営を行うために重要な役割を果たすため、その共同経営者が別の企業の経営者になれば、前企業の経営に大きく影響します。実際、共同経営者が企業の重要な情報を握っていたにもかかわらずその共同経営者を失い、倒産した企業も多くあります。
まず、競合禁止規定については、各州によって基準と適用の仕方が異なりますが、共同経営者が会社を離れた場合は、ある一定の期間は競合他社で働いてはいけないという条件をつけることは、たいていの州で法的に認められています(カリフォルニア州は除く)。競合禁止の目的は、重要な情報と能力を持つ共同経営者、または被雇用者が自由に競合他社間で仕事をする状況を阻止することによって、企業の経営の安定を図ることです。
次に、知的財産権と企業秘密の扱いについてですが、通常、ある一定の期間は外部に企業情報や企業に属する知的財産を他に漏らさないことで、企業の経営に鍵となる情報を守ることができます。
最後に、勧誘禁止条項は、企業を離れる共同経営者または被雇用者が、その企業内の被雇用者を勧誘して自分が次に働く企業で一緒に働くことをある一定の期間阻止することによって、企業が優秀な人材の確保を実現できるようにします。
それぞれの条項に関する基準は、各州によって基準が異なるのはもちろん、企業体の特徴や業界、規模や資産によっても異なります。契約書の基準・判断が過去の判例法に従わない内容、または規制範囲が判例法の基準を超える場合は、企業を離れる共同経営者が裁判所を通して確認判決訴訟を起こし、その条項に対して無効または訂正を求めることが可能です。その手続きをせずに、上記の条項を無視して競合他社に転職すれば、企業から訴えられることになりかねません。また、企業側としては、こうした契約書を作成・有効にするために、企業を設立した州の法律に従って契約書を作成すること、また、その法的影響を十分に考慮した項目・内容を組み込むことが必要です。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com
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