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アメリカでの後継者育成とクロストレーニング:組織の持続性を確保する戦略

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今日のダイナミックなビジネス環境において、優秀な人材の育成と維持が今まで以上に重要であると実感し
ている方は多いでしょう。

特に、従業員が2週間前に「退職」を通知することができる米国の労働慣習において、後任者を育成しておくことの必要性は高くなります。

しかし、従業員が退職した場合、多くの企業では後任を外部から採用することが一般的であり、社内でのバックアップや後任者を計画的に育成している企業は少数です。小規模の事業所や部門では、バックアップ人材の確保自体が無理と思われがちですが、方法次第では、増員せずに体制を構築することもできます。

今回はその方法について解説します。

もくじ

後任者育成計画(Succession Planning)

従業員が長期間同じ職務を担当している場合や、独自の方法で職務を遂行してきた場合、業務の属人化が発生しやすくなります。特定の従業員が持つ知識やスキルが他の従業員に伝達されないことは、組織全体の知識レベルが低下する危険性すらあります。このため、管理職を含む特定の主要ポジションは、誰がいつ退職してもビジネスが停滞することがないよう準備しておく必要があります。

このように考えると、後任者育成計画は現代の企業にとって必須ですが、いくつかの問題がそれを阻んで
いることがわかります。

例えば、「忙しくて、他の従業員をトレーニングする時間がない」「Job Descriptionに記載された職務以外
に関わりたくない」など、教える側と教えられる側の問題、また、「対象者が解雇されると勘違いしないか」「他の職務に関するトレーニングを受けることで昇給を求められないか」という雇用主側の危惧が挙げられます。

しかし、これらは勘違いの可能性が高く、目的や利点について充分に話し合うことによって解決することが可能です。後任者育成計画の立案は重要ですが、誰を教育するべきかという問題もあります。この「誰」を適切に見つけ
るためにはクロストレーニングが適しています。

クロストレーニングのメリット

クロストレーニングとは、通常と異なる部署や立場で職務を遂行することです。元々はスポーツ界で、身体にかかる負担を調整するために用いられてきた手法の名称で、これがビジネスにも取り入れられるようになりました。工場を持つ企業であれば、クロストレーニングは日常的に実施されていると思います。オペレータが3〜4台の異なる機器を操作できるよう教育したり、オペレータがフォークリフトも運転できるようにしている企業もあります。では、オフィスで勤務する従業員はどうでしょうか。実施している企業は少ないと思いますが、実はメリットは多数あります。その例を次に挙げてみました。

  • 従業員の満足度の向上:同じタスクを繰り返し行うことで退屈感が生じ、モチベーションや集中力の低下によって、生産性の低下につながる可能性がある。 クロストレーニングを実施することで新しいスキルを学び、新しいタスクに挑戦することで、従業員の興味とモチベーションが維持できる。またキャリアの可能性を開き、昇進やキャリア転換の機会を提供することができる。
  • コラボレーションの向上:従業員が同僚の仕事を理解することで、より協力的敵に働くことが可能になり、必要に応じて互いに助け合うことができる。
  • 運用の柔軟性:クロストレーニングを受けた従業員は、職場の変化に迅速かつ効果的に対応することもできる。 従業員の隠れた才能を発掘し、従業員の専門能力を向上させるのにも役立つ。これによって、会社は緊急時にもより柔軟に対応できるようになる。
  • 後任者育成:クロストレーニングを実施することによりその従業員の能力、スキル、勤勉さなどを見極め、適切な人材を後任として選択することができる。
  • トレーニングコストの削減:既存の従業員をクロストレーニングするためのコストは、新入社員をトレーニングするよりも大幅に低いため、ROI(投資利益率)の観点でも有利である。

全員が相互にトレーニングを受け続けることで、全員が組織にとって重要な存在でありながら、誰もがその機能を代替可能になります。従業員の視点では解雇の危険性を感じるかもしれませんが、同時に、いつでも心配せずに休暇が取得可能で、さらには昇進の準備ができている状態でもあります。ただし、これは雇用主が常日頃、どのように従業員に対応しているかで、彼らの反応は異なるかもしれません。

クロストレーニングの種類

クロストレーニングには、同じ部署内で実施するものと、部署の垣根を超えて実施するものがあります。

部署内の別ポジション:同じ部署の中でのクロストレーニングはもっとも一般的である。誰が休んでも業務が滞らないように、他の従業員の仕事も理解し遂行できるようにする。また、より多くの責任を担うよう従業員をトレーニングすることで、次のキャリアに向けたスキルと能力を向上させることができる。会社が自分の将来に投資していることを知れば、従業員は積極的に新たな職務を学ぶ可能性が高くなる。

他部署の業務:他部署のクロストレーニングは、従業員のスキルを日常業務から離れた他部署に拡張することを目的とする。 従業員が興味を持つ職務を担当したり、新たな職責に慣れる手段になるだろう。現在所属する部署で、これ以上の昇進やスキルアップが見込めない従業員に対して、他部署でのクロストレーニングの機会を提供することは、失いたくない人材が会社に勤務し続けるインセンティブとなる。しかしこの他部署のクロストーレーニングは、人事や経理など機密情報を多く含む部門には不向きである。

効果的なクロストレーニング制度の設計

クロストレーニング 制度を構築するためには、綿密に練られた設計が不可欠であり、トレーニングする側と受ける側の資質によるところも大きいため、他社の成功例を導入してもうまくいく可能性は低いです。効果的なクロストレーニング 制度を開発する際に考慮すべき重要な要素には、下記のようなものが考えられます。

意欲の向上:まずは従業員に対し、クロス トレーニングから得られるメリットを十二分に説明することから始まる。 クロストレーニングを通じて成長の可能性を認識すると学ぶ意欲が生まれる。この意欲向上の部分を軽視すると、従業員が自分の解雇を危惧する場合があり逆効果となる。また、従業員の現在の知識とスキルレベルを把握し、可能な限り興味ある分野の職務とクロストレーニングさせることも成功の秘訣である。

プログラム作成: 新入社員教育同様、トレーニング内容の優先順位やメソッド、タイムスケジュールなどの綿密な計画を立てることは必須である。On the Job Training(OJT)と称して、場当たり的に職務を教える企業もあるが、あらかじめ期待値を明確にすること、試験を実施して十分な知識を得られたか効果測定することも重要である。また、トレーニングを受けた従業員へのサポートとフォローアップも忘れないようにしたい。実務的な仕事であれば、録画した作業風景を見ながらトレーニング前後を実感させるのもその一例だ。

成果を維持する: トレーニングが完了したら、その成果を他の従業員にも周知して、バックアップ体制が整ったことを示す。また、定期的にその業務で得た知識を定着・更新させることも必要である。

このように、クロストレーニングは、設計に少々手間はかかりますが、効果的に実施できれば費用対効果は高くなります。また、従業員のバックアップを得るだけでなく、昇進を検討する際の候補者の有効な母集団にもなります。急に退職したマネジャーの後任を、職歴が長いだけの従業員を昇進させたり、リスクの高い外部登用に依存するような体制を改善するためにも、クロストレーニングをぜひ取り入れていただきたいと思います。

総合人事商社クレオコンサルティング
経営・人事コンサルタント 永岡卓さん

2004年、オハイオ州シンシナティで創業。北米での人事に関わる情報をお伝えします。企業の人事コンサルティング、人材派遣、人材教育、通訳・翻訳、北米進出企業のサポートに関しては、直接ご相談ください。
【公式サイト】 creo-usa.com
【メール】 info@creo-usa.com

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