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第5回 言語の敏感期

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モンテッソーリ教育

前回に引き続き、子どもと敏感期についてお話ししたいと思います。

前回、敏感期というのは、マリア・モンテッソーリが頻繁に使用した言葉で、「子どもが何かに強く興味を持つ一定の時期(特別に敏感な感受性を持つ時期)」を意味しているとお伝えしました。また、敏感期の間、子ども達は特に良く集中して同じことを繰り返す特徴が見られるということをご説明しました。周囲の大人が子どもの敏感期に気づいてあげることで、子どもが大きく成長するチャンスを逃さず、上手くお手伝いできる機会に恵まれることにつながります。

言語の敏感期

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「言語の敏感期」は、子どもがお母さんのお腹の中にいる時から始まり、5歳半くらいまでと長く続きます。

前半の0~3歳までは無意識の記憶の力が働きスポンジのように耳にした言葉をどんどん吸収していきます。そして3歳になる少し前くらいに、たくさんの言葉が溢れてきます。私はよく、幼い子どもは貯金箱にたくさんの言葉を貯めていて、それがいっぱいになると言葉が溢れ出てくるといった比喩を使うのですが、この時期、あふれるばかりに言葉が出てきたお子さんは本当に嬉しそうにお喋りをします。

たくさんの言葉が溢れ出る時期を、モンテッソーリ は「言葉の爆発期」と呼びました。言葉の爆発期には、子ども達は「これなあに?」と質問を大人に何度も繰り返し投げかけます。すべてのものには名前があることを知って喜び、語彙も一気に増え、2歳の間に200語から1000語まで膨らみます。2歳の始めでは3語文「くるまの えほん よんで」が主流だったのが、3歳になると2つの述語を組み合わせて、「ママとえほんをよんでから、パパとじてんしゃにのる」と、お話しできるようになります。

そしてこの時期にちょうど「感覚」の敏感期が重なり、ものを表現する言葉の形容詞を身につけていきます。「大きい」「柔らかい」「ざらざらしている」「つめたい」など、たくさんの感覚の体験があればあるほど言葉も広がり豊かになります。

日々の生活が忙しく、お子さんの「これなあに?」にじっくり付き合う時間を取ることが難しいことがあるかもしれませんが、子どもが自ら興味を持った時が一番のチャンスです。この時代に記憶した言葉はずっと心に残り、その先の人生の土台になります。

親御さんには1日30分の「子どもとのスペシャルタイム」をお勧めしています。携帯電話はしまい、テレビも消して、30分にわたって子どもと向き合う時間です。「1日30分だけ?」と感じる方もいるかもしれませんし、また、弟妹が生まれたりして、「1日30分も向き合うのは難しい」と感じられる方もいるかもしれません。でも、静かに子どもの前にいて、一緒に時間を過ごすスペシャルタイムは、言語だけでなく、心の成長の大きな栄養になります。

このスペシャルタイムのポイントは、何かを教え込もうとすること、質問をすることは避け、あくまでも子どもが興味のあること、したいことをするという、子どもが中心になる時間を持つことにあります。

私たち大人は子どもと一緒にいても他のことを考えていたり、携帯を気にしたり、実際に心が present(今ここに存在するという意味で)でないことが多いものです。質問をしないのは、質問をされると子どもが言いたいことがぐっと詰まってしまったり、言いたいことを思い切り言えなくなってしまうことがあるからです。

子どもがお話ししてくれていることには否定せず、まずは「うん、うん。そうなんだね」と聞いてあげてみて下さいね。何かで遊んでいて、子どもの気持ちがそれて他の遊びに移った時も、「なるほど」と、子どもの興味のある活動に一緒に取り組んでみて下さい。お子さんも気持ちよくますますお話ししたり、自分で見たもの、感じたことを言葉で思い通りに表現することを楽しむようになると思います。

もしお子さんがまだ幼くて言葉を貯金箱にたくさん集めている時期でも、このスペシャルタイムはとても有効です。お子さんが興味を持っていることや、見ているものをそのまま言葉にしてみてあげるのです。「リンゴ。赤いおいしそうなリンゴだね。」「くま。茶色い大きなくまだね。」興味があることと合わさると手を伸ばしたり、子どもからの反応があると思いますし、興味が違ったら、お子さんの目線に合わせて興味のあるものや目で追いかけているものを言葉で表現するようにします。

モンテッソーリのトドラークラスでは、先生達はゆっくりと動作をしながら、言葉で動作を説明します。例えば、エプロンをつける時もその動作を見せる前に「これはエプロンです。白くて洗いたてのエプロン。これを腰につけてからりんごを切ります」などの言葉を添えます。幼い頃からたくさん豊かに言葉を集めて、自分のこと、自分の好きなもの、感じたことなどを自由にお話しできる力は「自分の人生の主人公になる」というモンテッソーリ教育の根っこにつながります。

書く敏感期

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「書く」敏感期は、3歳から5歳くらいに現れます。話す力がめきめきと発達していくのと並んで、書くことに夢中になる時期がやってきます。書くことが読むことよりも先に現われることをモンテッソーリは指摘しました。

私にも現在3歳の娘がおりますが、まさに書くことの敏感期にあり、幼稚園で毎日のようにお手紙を書いてはお友達に渡し、また、お友達からのお手紙を嬉しそうに家に持ち帰ってきます。ここで言う「書く」というのは文字を書くという前の段階で、線だったり記号のような形だったりと、さまざまです。ただ意味のある形(シンボル)を書いていて、手を動かして何かを表現したいという心の現れ「書く」敏感きの現れなのです。

モンテッソーリ教育

たまに、「何歳になったら字を書けるようになりますか?」と質問を受けることがあります。文字を書けるようになるには、その前段階に筆記用具を上手に扱えるように指先が器用になっている必要があります。紙と鉛筆だけを先に渡してもすぐに書けるようになるわけではありません。手指が育つように、段階を踏む必要があります。それには運動の敏感期にたくさん日常生活の練習の活動をするのがお勧めです。洗濯バサミを挟む、ビーズを通す、ピンセットで豆を移すなど3本の指(親指、人差し指、中指)を使ったアクティビティが有効です。そして、この3本の指が自由に動かせるようになってくると筆記用具が上手に使えたり、お箸を使えるようになります。一歩一歩前に進んでいけるようになるお手伝いができると良いですね。

読む敏感期

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「読み」の敏感期は、4歳から5歳半頃と言われています。文字の形の違いに気がついて、文字の形と音を理解していくようになると、「文字を読む」ということに強い衝動が現れる時期が来ます。音と音を読んでそれが意味を持つことに気がついた時は嬉しくて仕方なくなります。

ハワイのモンテッソーリの幼稚園で教えていた頃、私のクラスに4歳の女の子がいました。その子は最初、「私は字が読めない」と言っていました。でも、砂文字板というアルファベットのついた板でその子がたくさんの音をすでに理解していることは知っていたので、アルファベットをつないでみて、それぞれの音を言ってもらいました。すると、d,o,gとそれぞれの音がブレンドされると実は "dog" だと気がついて、満面の笑顔で "I can read!" と叫んでいました。その後は、"cat" "mom" など、実はどんどん読めることに気がついて、火がついたように文字を読み始めました。保護者の方もその子が急に読めるようになり、読みたがる気持ちが炎のように燃え上がっている様子に驚いていたようでした。まさに、読む敏感期に急に突入した時だったのです。

読みの敏感期のスタートがいつやってくるかは子どもによって異なりますので、子どもの様子をよく見ていることが必要になります。無理に平仮名を教え込もうと、フラッシュカードやドリルを用意しても、時期が違うと子どものやる気を損ねるので逆効果になってしまいます。平仮名に興味を持ち始めると、絵本を読んでいる間などに子どもの方から「あ!たろうの "た" だ!」など指摘し始めます。

子どもとのスペシャルタイムを常日頃から持っているとこうした子どもの敏感期に気がつくのも早いですので、ぜひ敏感期を楽しみにしながらお子さんとの時間を楽しんで下さいね。

次回は「数」の敏感期について紹介をしたいと思います。

掲載:2021年5月

文・写真:斉藤カルコーヴァン智美
慶應義塾大学文学部、シャミナード大学院幼児教育学科卒。ワシントン州ベルビュー市にある日本語と英語のバイリンガル幼稚園、ピカケスクール園長。日本では株式会社オリエンタルランドが経営するチャイルドセンターの立ち上げに携わり、プログラム・マネージャーを務めた。渡米後はモンテッソーリの教員として、ハワイとシアトルで約14年間勤務。2017年夏にベルビュー市でピカケスクールを創立。

Pikake School
www.pikakeschool.com

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