2025年度(令和7年度)ワシントン州-兵庫県派遣教員の大野奈々恵です
姉妹都市であるワシントン州と兵庫県の派遣教員として、2025年8月からワシントン州ユニバーシティ・プレース学区のカーティス・シニアハイスクール(CSH)とカーティス・ジュニアハイスクール(CJH)で勤務しています。日本では2007年から約18年間、これまで4校の県立高校で英語教諭として勤めてきました。
外国人生徒の多い高校での勤務経験や、ブラジル日系人へのボランティア活動から、日本の教育課題の一つは、今後もさらに増えていく外国にルーツを持つ児童・生徒への支援だと考えるようになりました。仕事と子育てに追われる日々でしたが、公私共に外国人やその文化に携わる活動は今の自分らしさにつながっています。人種、宗教、ジェンダーの入り混じったここアメリカで働いて暮らすことで、新たな視点を持って教育分野の仕事をしていきたいという思いから、今年度の教員派遣事業で1年間の海外勤務を実現することになりました。
海外渡航は7年ぶりで、約20年ぶりの渡米です。ワシントン州での貴重な経験を、日本とアメリカの教育の比較、そして帯同する夫と Grade1(小1)の娘との暮らし、という2つの観点で複数回に渡って寄稿させていただきます。
まず初めに、CSH のホストティーチャーで、授業で co-teaching をしている藤原先生は、日本の高校での勤務経験があるため、私のアメリカの高校に対する疑問をいつもニュートラルにかりやすく教えてくださいます。藤原先生とそのご家族は、私が入国する前から住居の相談や手続きを手助けしてくださるなど、公私共に大変お世話になりました。そのおかげで、私の家族みんながアメリカで充実した生活を送ることができていることに、大変感謝しています。
ワシントン州で好きになった授業の号令

日本の学校では当たり前のように授業の始めと終わりに、クラスの委員長が「起立、気をつけ、礼」と号令をかけます。アメリカに来てこれまで日本語以外の授業もいくつか見学に行かせていただきました。そこで授業の始めと終わりが電子音のベル以外に特に何も合図がないことに気がつきました。
日本の高校で勤務していた時は、号令が軍隊式のように感じられて、何となく好きになれませんでした。英語の授業を受け持つことが多かったので、“Good morening, everyone.“、“That’s all for today. See you,everyone.“ と授業の開始と終わりに号令をしないスタイルで長年授業をしてきました。
日本ではチャイムが鳴り終わっても教員がきりのいいところまで授業を続けることがありますが、こちらではベルと同時に生徒はドアを開けて出て行きます。授業の間の休み時間(passing period)が5分間と短く、生徒はその間に次の教室へと移動しなければなりません。しかし授業終わりのベルの直前、生徒が足早に教室を去る前に、日本語の授業で「起立、気をつけ、礼」と号令をすると、とてもしっくりくる感覚に気がつきました。
授業でがんばり、お互い時間を共有できたという気持ちを込めて、生徒から教員へ、教員から生徒へと感謝の気持ちを持って、区切という礼儀として挨拶をする習慣は、とても心地いいものです。
アメリカと日本の高校生活を比較する授業
CHS「日本語2」の授業の中で、生徒たちは学校生活に関する語句や文法の学習をし、日本の高校生活を理解した上で、日本語で漫画を描くという課題に取り組みました。
その過程で、日米両方の高校で同じ年齢の生徒が学校生活に関する日本語のアンケートに回答して高校生活を比較しました。CHS(Grade10 44名)の生徒と兵庫県立伊丹高校(伊丹高校)(一年生39名)の生徒の双方のアンケート結果から得られた情報を見たCHSの生徒の反応はとても興味深いものでした。
一般的にアメリカの高校の学区は、兵庫県の学区よりも範囲が限定されていて、自家用車での通学も多いため、平均的にアメリカの方が通学時間が短く、日本よりも始まりも終わりも早いです。CHSの生徒の中には午前6時30分(0時間目)の授業から始まる生徒もいて、日本の1時間目の始まりの遅さにとても驚いていました。

続いて、放課後の活動について、伊丹高校の生徒の87%が放課後に部活動をすることにも大きな反響がありました。こちらでは Sports と Clubs(文化系の活動で頻度はさまざま)と別のカテゴリですが、日本では両方を部活(クラブ)と呼び、文化部の中には平日ほぼ毎日活動する部活が多くあります。
また、伊丹高校のアルバイトをする生徒の少なさ、Youth group がないこと、CHS ではボランティアが卒業に必須ですが、日本の高校生はそうでないことなどにも違いを感じていました。私個人としては、多くの CHS の生徒が妹弟の面倒を見たり、家事をすることにも驚きました。

最後に、高校時代で大事なものについての回答を見ると、CHSの生徒は進路や学校外での活動を大切にしているのに対して、伊丹高校の生徒は友人や勉強など学校内での活動に重きを置いていることがわかります。日本の高校生は学校で長く時間を過ごすため、学校で過ごす時間の違いが反映されているのではないかと思いました。

アメリカの家庭生活と子どもの小学校
今年7歳になる娘は、4月に日本の公立小学校に入学し、1学期を終えて渡米しました。到着後すぐに現地公立校のGrade 1に入学しました。入学した翌週にはクラスに友だちができたようで、学校生活を楽しく過ごせている様子に、とてもほっとしています。Grade1ではReadingの時間にフォニックスから文へ移行する形式で学習し、習熟度グループごとの段階別学習になっています。算数は日本で既に習った内容をこちらで教えてもらっています。また、MLL(Multilingual Learner Program)の授業では週に3時間ほど MLL の先生と1対1で英語学習をしています。
日米の小学校には大きな違いを感じます。まず、入学手続きですが、日本の小学校入学には多数の書類、学用品の準備と名前付け、学童の登録や面接、登校班グループでの連絡など入学数ヶ月前から準備をしました。娘が通う学校では学区担当者に予防接種証明、住所証明、パスポート、言語のレベルを記入した用紙をアップロードしたら、明日からでも来てください、とメールで連絡をいただきました。入学前日にお願いしたスクールツアーでは、担任の先生が娘の机に困った時に絵で伝えられるように紙を貼ってくださっていました。
また、MLL の先生は登校の初日に出迎えてくださいました。希望すればいつでも電話や面談などのために通訳を頼める制度があることには驚きました。日本で勤務校の保護者対応などに通訳を依頼するには、市町村や多文化共生センターと段取りを組むのに何日も要しました。学校での外国人生徒の受け入れの公共のサービスは、さすが多文化の国アメリカです。
私の CHS での勤務時間は午前7時10分から午後2時40分までです。授業準備やクラブで退勤時間以降に残ることもありますが、通常、午後3時30分には帰宅できるため、夕方、子どもとプールやプレイグラウンドで遊ぶことができます。日本では定時に退勤しても、学童保育へ急いで車を走らせ、食事の準備や宿題の確認で、あっという間に就寝時間になるという、ゆっくり子どもの話を聞いて遊ぶ時間を持つのが難しい暮らしをしていました。時々イライラした口調で子どもに対応することがあり、そんな時は余裕のなさを感じて申し訳ない気持ちになりました。共働きの家庭ではよくある光景です。アメリカに来て、家族との時間の過ごし方の大切さをより強く感じています。そして、夫が日本での仕事を休職して、アメリカで家族をしっかりとサポートしてくれていることに、とても感謝しています。
今後のコラムでは、PTSA(日本ではPTA)、行事、給食、放課後の活動など、日米の違いについて、また今後の寄稿でもご紹介させていただけたらと思います。

晩秋のチャンバーズ・ベイ
執筆:大野奈々恵(おおの・ななえ)
2025年度(令和7年度)ワシントン州ー兵庫県派遣教員。姉妹都市であるワシントン州と兵庫県の派遣教員として、2025年8月からワシントン州ユニバーシティ・プレース学区で勤務。日本では、2007年から約18年間にわたり、4校の県立高校で英語教諭として勤務。

