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1.5億回読まれたWeb小説『The Beginning After the End』(邦題:最強の王様、二度目の人生は何をする?):作者ブランドン・リーさん(turtleme)インタビュー

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ブランドン・リーさん
(ペンネーム:turtleme)

『最強の王様、二度目の人生は何をする?』(原題:The Beginning After the End)は、2018年にロサンゼルス発のウェブコミック&ノベルプラットフォーム「Tapas」で連載がスタートし、2020年からは日本でも「ピッコマ」を通じて配信が開始された、世界的に人気のファンタジー作品。世界累計閲覧数は1億5000万回を超え、コミック版はすでに多言語展開中で、2024年4月からは待望のテレビアニメ版が日本で放送開始となりました。

物語は、すべてを手に入れた最強の王・グレイが、魔法世界で赤ん坊として転生し、第2の人生で“孤独ではない強さ”を模索しながら、新たな人生を歩む物語。転生ファンタジーという王道ジャンルでありながら、家族や友情といった人間関係の描写に力を入れている点が、多くの読者の心をつかんでいます。

今回は、原作・原案を手がける作家ブランドン・リーさんにインタビュー。ファイナンス業界から転身して作家となった経緯や、作品に込めたテーマ、そしてアニメ化を迎えての思いについて伺いました。

本記事は、インタビューの趣旨を損なわない範囲で、読みやすさを考慮して編集・要約しています。


目次

仕事のストレスを執筆で発散

『The Beginning After the End』
(邦題:最強の王様、二度目の人生は何をする?)

今回はお時間をいただいて、本当にありがとうございます。ブランドンさんは現在はシアトル地域にお住まいですが、ロサンゼルス出身なんですね。

ブランドン:そうです。ロサンゼルスで育ちました。シアトル地域に引っ越してきたのは2017年頃です。


UCバークレーでの専攻は心理学だったそうですが、心理学を選んだ理由について教えてください。

ブランドン:正直なところ、大学に入った当時は将来何をしたいかはっきりしていませんでした。ただ、人がどう考え、どう行動するかには昔から興味があったので、心理学を学べば職場での人の行動などを理解して、人事(HR)の分野の中でも産業心理学と呼ばれる分野に進めるかもと考えたのです。もし、人事の業界に進まなくても、心理学の知識はどんな分野でも応用できるとも考えていました。結果的には、卒業後すぐにファイナンス業界で就職するという、まったく予想していなかった展開になりましたが、いいチャンスだったので飛びつきました。


そうなんですね!心理学からファイナンスに。それで、そこから作家に?

ブランドン:はい。大きな変化ですよね。ミドルスクールの頃からファンタジー小説を読むのが大好きでした。西洋ファンタジーに限らず、日本のライトノベルや漫画、韓国のウェブ小説まで、ジャンルを問わず楽しんでいました。

ファイナンスの仕事はストレスも多く、あるとき、「趣味として物語を書いてみたら、ストレス発散になるかも」と思い立ちました。そこで、王様だった人が赤ちゃんに転生して新たな人生を歩む話を書き始めたのです。気づけば、仕事のストレスを忘れるほど、物語を作ることが楽しくなっていました。


ジャングルシティ:日常のストレスからの逃避が目的だったわけですね。

ブランドン:まさにそうです。その時はお金を稼ごうなんて思っていなくて、完全に趣味でした。仕事が終わった後に少しずつ書いて、誰でも無料で読めるオンラインのプラットフォーム『Tapas』ですぐに公開しました。そこに載せると、読者がコメントしてくれるのですが、読者からフィードバックをもらうのがすごく楽しくて。閲覧数が増えていくのも励みになりました。


ジャングルシティ:批判が怖くて公開できない人も多いかと思うので、書いてすぐに公開するのは勇気がいったのでは?

ブランドン:誤字脱字もたくさんありましたが、読者はそういうことに慣れていて指摘してくれるので、その都度、直していました。本当に読者とのやり取りが楽しかったです。僕も最初は批判が怖かったですよ(笑)。でも、ペンネームで書いていたので、身元はバレていませんでしたし、本業があったので、もし「下手だ」と言われても「まぁいいや」と思えました。本当に趣味だったので、気楽に書けたのです。でも、今は少し怖いですよ。僕が誰なのか知られていますし、期待も大きいので。

世界的な人気作品に成長し、コミック化へ

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ジャングルシティ:それで、どうやって「王様のアーサーが赤ちゃんに生まれ変わる」というアイデアが生まれたのでしょう?

ブランドン:当時読んでいた作品たちに影響を受けました。たとえば小説の『Coiling Dragon』や、日本のライトノベル『無職転生』ですね。『無職転生』は普通の人が異世界に転生して生き直す話ですが、それにすごく影響を受けました。他にも、ものすごく強いキャラクターが活躍する小説も読んでいたので、それらを組み合わせたら面白いのでは、と。それで、「すごく強かった王様が無力な赤ちゃんとして生まれ変わったらどうなるか」というアイデアが出てきたのです。

ジャングルシティ:赤ちゃんになったら、排泄すらコントロールできないですもんね(笑)。

ブランドン:そうなんです。多くの異世界作品は、赤ちゃん時代はすぐに飛ばしてしまいますが、僕はあえてそこをじっくり描きたかった。ものすごく強かった人物が誰かに頼らないと生きられない存在になることががすごく面白いと思って、意図的に幼少期をしっかり描きました。


ジャングルシティ:では、コミック版で絵を担当したFuyuki23との出会いについて教えてください。また、なぜ今は一緒にやっていないのかも…。

ブランドン:はい。最初にFuyuki23と出会ったのは、僕が小説を公開していた『Tapas』が開催したオーディションでした。ポートフォリオを送ってきてくれたいろいろなアーティストに、指定したシーンをスクリプト化したものをコミックとして描いてもらったのです。その中で、Fuyuki23のスタイルが一番気に入って、彼ならコミックを作るだけでなく、アーティストとしてもさらに成長できると思いました。それで一緒に始めたのです。


ジャングルシティ:最初はブランドンさんとFuyuki23さん、二人だけのチームだったのですか?

ブランドン:はい、僕がライターで、彼がアーティスト。編集の方も数名いましたが、基本的に日々のやりとりは僕と彼だけでした。僕がスクリプトを書いて、彼がわからないところは質問してきてくれたり、逆に僕が「ここはこうしてほしい」と伝えたりするという、すごく密なコミュニケーションをしてコミック版を作っていきました。

そして、『The Beginning After the End』が人気になるにつれて、制作チームも拡大しました。Fuyuki23のアシスタントを雇ったり、僕にもさらにエディターがついたりして、小さなスタジオみたいな体制になりました。


ジャングルシティ:それで、なぜ別々の道に?

ブランドン:特に一つの理由があったわけではないのですが、Fuyuki23さん自身、ほかの作品にも取り組みたいという思いがあったようです。確かに、長年一緒にやってきたので残念でしたが、彼は日本のスタジオと組んで新しいウェブコミックを制作しているみたいです。が新しい挑戦をすることを応援しています。今も連絡もたまに取り合って、お互いの成功を祝ったりしています。長く一緒にやってきたので、仕事仲間だけでなく友人でもあります。

日本でアニメ化され、世界配信もスタート

ジャングルシティ:コミック版に続いて、アニメ化もされた経緯について教えてください。

ブランドン:『The Beginning After the End』はCrunchyrollによってオプション契約されました。ただ、僕はその詳細な交渉には直接関わっていません。Tapasがコミック版の権利を持っているので、CrunchyrollとTapasとの間でいろいろと交渉が進められて、いい契約がまとまりました。それで、「アニメ化決定」という発表があったのです。


ジャングルシティ:オプション契約は、アニメ化される保証がない場合もありますよね?

ブランドン:そうですね。たくさんの作品が「オプション契約したけれど、何も作られない」という「プロダクション・ヘル」という状態に陥ります。僕も正直、「アニメ化するかも」と言われても、実際に作られないかもしれないと心配していました。でも、Crunchyrollはすごく早く動いてくれて、制作スタジオを決め、すぐに動き出してくれたんです。

これには本当に感謝しています。普通、作家が「自分の小説がアニメ化された」って言える日なんてなかなか来ないですから。僕自身も、友人たちと「アニメになったらいいね」って冗談で話していたくらいで、本当に実現するとは思っていませんでした。10年近くかかりましたけど、ついに叶いました。いまだに夢みたいです。

埼京線の吊り広告


ジャングルシティ:日本で電車内の吊り広告で宣伝されている写真をネットで見ました!

ブランドン:はい、すごいことですよね!日本では4月からフジテレビの「+Ultra」枠で放送されています。アメリカでは Crunchyroll で配信されています。

今後は Netflix や Amazon Prime でも配信されるようです。

ジャングルシティ:日本で反響があったことについて、どう思いますか。

ブランドン:とても驚きました。僕は幼い頃から漫画をたくさん読んできたので、日本の読者がどれだけクオリティに厳しいかを知っています。なので、日本で『The Beginning After the End』が受け入れられたと聞いたときは、本当に嬉しかったです。僕の周りだけでなく、日本、つまり漫画とアニメの本場の人たちにも物語が響いたんだと思うと、とても励みになりました。

ジャングルシティ:日本の読者から直接フィードバックはありましたか?

ブランドン:「ピッコマ」で賞をいただいたときに、読者のコメントを英語に翻訳した冊子をもらいました。 (冊子を見せながら)たとえば、「このコミックが大好きです。最近読み始めましたが、すっかりハマっています。戦闘シーンが力強く描かれていて、家族との時間を過ごすシーンも素敵で、これからも読み続けます」とか、「最初は普通の転生ものかと思ったけど、読み進めるうちに他の転生ものとは違うと気付きました。アーサーが圧倒的に強いけれど、周りへの思いやりもあって、そこが好きです」みたいなコメントがありました。

僕は単なるアクションファンタジーではなく、キャラクター同士の絆や成長も大事にしているので、そういうところを読者が感じ取ってくれたのが本当に嬉しかったです。

ジャングルシティ:心理学を学んだことが、キャラクター描写に活かされているでしょうか?

ブランドン:書いているときはあまり意識していませんでしたが、振り返ると心理学の知識は役立っていたと思います。人間は完璧ではありませんし、間違うこともあります。だから、アーサーも完璧なヒーローではなく、成長していく過程を描きたかった。心理学を学んでいたから、そういうキャラクターのリアルな成長が自然に描けたのかもしれません。

ジャングルシティ:子どもの頃に読んでいたファンタジー作品についても触れていましたが、それ以外に、今の方向性に影響を与えた作品や経験はありますか?

ブランドン:僕は1993年生まれなのですが、当時は『NARUTO -ナルト-』『BLEACH(ブリーチ)』『ONE PIECE(ワンピース)』の「ビッグ3」がすごく人気でした。僕もずっと読んでいました。それに、たとえば『ブリーチ』では死神たちが使う「卍解(バンカイ)」とか、パワーアップする形態があって、それがすごくカッコよくて、影響を受けましたね。

それから、もっとマイナーだけどすごくよくできた作品もたくさん読んでいました。僕が特に好きだったのは森恒二さんの『ホーリーランド』という作品。ちょっとダークなアクションものですね。昔は今みたいに簡単に漫画が手に入らなかったので、友達の家に行って借りて読んだりもしていました。本当にいろんなジャンルを読みました。

ジャングルシティ:ジャンルを問わず読んできたのですね。

ブランドン:そうなんです。ファンタジーが一番好きでしたけど、ジャンル問わずいろいろ読んできました。昔はバーンズ&ノーブルに行って、何時間も本や漫画を読んでました。親は「勉強してる」と思っていたみたいで、行ってきなさいと言ってくれました(笑)。

緑色の髪の女の子が田舎町で暮らしている話よつばと!』(あずまきよひこ作)などのスライス・オブ・ライフ(日常系)、そしてスポーツ漫画も。たとえば『スラムダンク』は有名ですが、あと、『アイシールド21』はご存じですか?アメフトの漫画なんですが、あれもすごく好きでした。

スポーツ漫画って、仲間との絆とか、みんなで成長する過程の描き方がすごくうまいんですよね。スポーツ漫画はチームワークを、少女漫画は友情や恋愛、そして感情をオープンにすることを描くのがうまい。そういうところも、『The Beginning After the End』に取り入れたと思います。

いろんなジャンルを読んだことで、僕自身のストーリーにも深みを持たせることができたのではと思っています。

ジャングルシティ:ブランドンさんが日本文化にもすごく興味を持ってくださっていて、漫画の話で盛り上がることができて嬉しいです。

ブランドン:単なる寿司好きじゃないですよ(笑)。日本文化全体が大好きです。

ジャングルシティ:これからも応援しています。今日はありがとうございました!

聞き手:オオノタクミ


turtleme

ブランドン・リーさん(略歴)
Brandon Lee(ペンネーム:TurtleMe)
ロサンゼルス出身。カリフォルニア大学バークレー校で心理学を専攻し、卒業後は金融業界に勤務。その傍らオンラインで発表した小説『The Beginning After the End』が世界的に話題となり、作家としての道を本格的に歩み始める。同小説はコミック化され、2024年4月には日本でアニメ化。Netflix などの配信サービスでもストリーミングが始まり、さらに多くの読者・視聴者に届いている。シアトル近郊在住。

ブランドン・リーさん公式

www.turtleme.com
@turtleme93
@tbatenovel
turtleme93
@turtleme93

『The Beginning After the End』公式

@tbateofficial/
@tbateofficial
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@tbate.official

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