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第51回 三冊のノート

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7月 X 日 (息子のノート)

完璧な、素晴らしいユートピア。日本について、僕は、そのような印象を持っていました。昔、日本はどういう国かわかっていませんでした。シアトルに住んでいた頃、母が怒ったり、気嫌を悪くしたりした時などに、アメリカと日本を比較し、アメリカの弱点を声を大にして強調していたのが、その主な原因だと思います。そして、母が日本での仕事を見つけて、日本に移動することが決まった時、宝くじをひいたような気持ちがあふれ出しました。
最初、飛行機から降りて、空港とつながるトンネルのような物を通った時、まず最初に感じたのは、蒸し暑いということでした。でも、シアトルの9割が雨で、残りの1割がじめじめしているような環境に慣れていたので、東京とは天気が素晴らしいなと思いました。その後、空港の中へ入っていくと、へたな英語の看板を見て、ここは外国だなと強く感じました。空港を出て行くバスから見る景色の中、へたな英語があちこちで見つかり、日本の人たちは、外国人が来ると恥ずかしくないのかと疑問に思いました。特に、日本に着いて何週間か後に、デパートに行った時、Recycl Box と書いた箱を見て、「これは、ちょっとひどいな」と思ったのを、はっきりと覚えています。また、日本に来たばかりの時に素晴らしいとさえ感じた暑さは、悪の存在へと変わり、昼間は僕たちをこらしめました。アイスクリームを買っても、あっという間に溶けてしまったのをよく覚えています。(中略)

中学校に入学後、昔大好きだった日本は、すっかり魅力をなくしてしまいました。東京の汚れた空気がいやになり、また狭いマンション暮らし、バイオリンを練習する時には、ミュートという音を小さくするための部品をつける生活に、あきてしまいました。どこを見ても、ビルばかり。夏は暑く、冬は寒く、もうさんざん。東京は、自然が足りないと思います。確かに、道の横に植木やらありますし、公園もちらほらとあります。でも、アメリカと比べると大違いです。(後略)

母の注釈:息子は大都会の喧騒を嫌い、私と娘が銀座や赤坂の繁華街へと繰り出す週末など、顔をしかめて、夫との留守番を決め込む。都心のマンション暮らしに家族で最も愛想をつかしているのは、彼だろう。ガラスの森も住めば都、と私には思えるのだが、そして実際、東京という世界有数の国際都市に住むからこそ体験できることも豊富なのだが、親の独りよがりと言われてしまえばそれまでだ。そんな息子も、剣道という情熱の対象を見つけ、少しずつではあるが、新たな世界を築きつつある。詳細は、後日のコラムに譲りたい。

小樽のお土産物屋さんの店先で。

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