トランプ大統領は19日、外国人労働者や投資家向けの新たなビザ制度に関する大統領宣言(proclamation)に署名しました。ホワイトハウスの発表によれば、米国で就労するための一般的な就労ビザである H-1B ビザの新規申請にあたり、申請書(petition)に10万ドルの支払いを添付することが必要となります。また、投資によって一定の特典を提供する「ゴールドカード」ビザなどについても発表されました。ここでは宣言の要点をまとめています。
H-1Bビザ
H-1Bビザは、特定の分野で特殊技術や知識が必要とされる専門職に就く外国人労働者が対象の就労ビザ。専門分野での学士号、または同程度の実務経験が求められます。ホワイトハウスは米国人労働者の保護と国家安全保障を目的としたものと述べていますが、これから新たに H-1Bビザを申請する企業と外国人労働者に大きな影響を与える内容です。
発表の要点
ホワイトハウスの公式サイトに掲載されている大統領宣言とファクトシートの要点をまとめました。
- 新規H-1B申請に10万ドルの支払いを義務化
- H-1Bビザの新規申請には10万ドルの追加支払いが必要。
- 現行制度と同様、この費用は雇用主(米国企業)が負担することが義務付けられる。労働者本人が負担することは認められない。
- 本宣言は2025年9月21日から有効。
- 延長がなされない限り、本宣言の発効日 2025年9月21日午前0時1分(EDT)から12か月後に失効する。
- 対象と例外
- 米国外にいる申請者が対象。
- ただし「国家利益」(national interest)に資すると判断される場合には例外が認められる可能性がある。
- 支払いがない場合は申請却下・入国不可
- 支払いを伴わない申請は認められず、国務省や国土安全保障省が入国を拒否する。
- 雇用主の責任強化
- 雇用主は支払い証明の文書を取得・保持する義務がある。
- 国務省が審査時に確認し、未払いの場合は却下。
- 国土安全保障省(DHS)と国務省は協力して入国拒否を実施。
- 入国制限の適用範囲
- 発効日以降に入国・入国を試みる外国人にのみ適用。
- 次回H-1B抽選完了から30日以内に、国務長官、司法長官、労働長官、国土安全保障長官は、大統領補佐官兼国土安全保障顧問を通じて大統領に対し、この入国制限を延長または更新することが米国の利益になるかどうかについて共同で勧告を提出。
- 監査と罰則の導入
- 労働省(DOL)と国土安全保障省(DHS)が共同で、検証・監査・罰則に関するガイダンスを策定する。
- 高賃金労働者を優先
- 労働省は賃金水準の見直しを開始する。
- 国土安全保障省は高技能・高賃金労働者を優先する規則制定を開始。
2024年度 スポンサー件数が多い企業(新規就労の承認件数・上位10位)
移民政策や国際貿易などに関する非営利の調査研究機関 National Foundation for American Policy(NFAP)が USCIS「Employer Data Hub」から集計したFY2024のデータによると、2024年に H-1Bビザのスポンサー件数が多い企業トップ10社は次のとおりです。
- Amazon 3,871
- Cognizant 2,837
- Infosys 2,504
- Tata Consultancy Services (TCS) 1,452
- IBM 1,348
- Microsoft 1,264
- HCL America 1,248
- Google 1,058
- Capgemini 1,041
- Meta Platforms 920
※ 企業別件数は “新規就労の承認数” ベースであり、USCISの年度定義・集計方法に基づいています。
2024年・H-1B承認者の出身国トップ10位
USCIS(移民局)の年次報告(FY2024)に基づく全承認399,395の出身国トップ10位は次のとおりです。
- インド 283,397(71.0%)
- 中国 46,680(11.7%)
- フィリピン 5,248(1.3%)
- カナダ 4,222(1.1%)
- 韓国 3,983(1.0%)
- メキシコ(1.0%未満)
- 台湾(1.0%未満)
- パキスタン(1.0%未満)
- ブラジル(1.0%未満)
- ナイジェリア(1.0%未満)
ゴールドカードビザ(100万ドル)
米国への多額の財政的寄付を行う外国人に対し迅速な移民手続きを可能にする「ゴールドカード」ビザ・プログラムを創設する大統領令(Executive Order)に署名しました。この大統領令は、商務長官に対し、国務長官および国土安全保障長官と連携して「ゴールドカード」プログラムを設立するよう指示しています。ホワイトハウスの公式サイトに掲載されているファクトシートの要点をまとめました。
- 対象: 個人、または企業が従業員をスポンサーする場合。
- 支払い義務:
- 個人申請の場合 → 本人が100万ドルを支払う。
- 企業・団体がスポンサーする場合 → 企業が200万ドルを負担し、従業員に永住権申請の機会を与える。
- これらの寄付を「卓越した事業能力」と「国家的利益」の証拠とみなし、法的および安全保障上の懸念に配慮しつつ、審査を迅速化するよう求める。
- 商務長官に対し、寄付金を財務省に預託し、米国の商業と産業振興に活用することを指示。
- 成功した起業家、投資家、実業家など、米国社会に高い価値をもたらす貢献者の入国を優先するもの。
- 多額の寄付を条件とすることで、収益を生み出し、米国経済に大きな貢献ができる移民に確実な道を提供する。
AP 通信などによると、「トランプ・プラチナカード」も導入予定で、500万ドルで取得でき、外国人は米国外所得に対して米国の課税を受けずに最大270日間米国に滞在できます。2月に既存の投資家ビザに代わる500万ドルのゴールドカードを発表していましたが、これがプラチナカードに置き換えられます。
まとめ
今回の大統領宣言は、外国人を採用するためのH-1Bビザの新規申請に雇用主が10万ドルを負担する仕組みを導入し、制度を大幅に変えるもので、賛否が分かれています。賛成派は、制度の乱用を防ぎ、米国人の雇用を守れると主張。一方、採用コストの急増で優秀な人材が海外に流れ、国際競争力を損なうことが懸念されます。ワシントン・ポストは9月19日付の記事で、今回の措置は移民政策における議会の権限により、訴訟となる可能性が高いと指摘しています。今後の展開に注意する必要があります。
この記事を通して提供している情報は、一般的、および教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。また、移民法は頻繁に改正があります。提供している情報は、掲載時に確認した情報です。読者個人の具体的な状況に関しては、米国移民法の弁護士にご相談ください。