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「途上国の医療機関に医療用機材を届ける」 VIA Global Health 社 CEO ノア・ペリンさん

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VIA Global Health 社 CEO ノア・ペリンさん

聴診器から体温計、診察台にX線機器に新生児用の保育器と、医療機関が必要とする医療機器を何でも注文できる。そんな、まるで医療機関のための Amazon のようなマーケットプレイスをウェブ上で運営しているのが、今回ご紹介する VIA Global Health(以下、VIA)です。

もくじ

VIA Global Health の事業

でも、ウェブサイトをクリックしていくと、少し見慣れないものが商品のラインアップに入っていることに気づきます。例えば、LifeWrap というウェットスーツの下半分のような商品。これは出産直後、出血が止まらない女性の失血によるショックを防ぐものです。産婦の死亡原因の世界ナンバー1である、出産後の出血多量をこれでしのぐことができるため、すぐに輸血ができない病院や地域で主に重宝されるのだそう。

このように、Amazon との大きな違いは、VIA の顧客は先進国で暮らす個人ではなく、途上国で地元の病院やクリニックに仕入れをしている販売代理店であること。その販売代理店は、VIA のマーケットプレイスで医療機器や物資を調達し、それらを必要とする医療機関に販売・配達します。現在はインドや南アフリカなど、世界約50か国に約1100種類の製品を販売しているそうです。

ノア・ペリン CEO インタビュー

「もともとマイクロソフトでプロダクト・マネジャーになることを目指していて、まさか自分がこんな事業を興すことになるなんてまったく考えていなかった」と言う CEO のノア・ペリンさん。マイクロソフトから、シアトルに拠点を置くグローバルヘルス分野では大手の非営利団体 PATH での仕事を経て、起業に踏み出すまでの経緯と、これまでの事業展開について伺いました。

– 起業して変えたいと思ったことは?

PATH で約6年間にわたりグローバルヘルス分野での革新的な技術を商品化する仕事をしていて気づいたのは、途上国のフィールドで多くの命を救えるような画期的な商品は、開発者側が「作って妥当な価格をつければ、放っておいても商品は売れる」と思っていることが多く、そうすると実際は全然売れない、ということでした。世界を変える可能性を秘めた商品が無駄になっていたのです。

本当に何かを売るためには、買う側に商品を認知してもらう働きかけが必要不可欠です。例えば、あなたがテレビを買おうと考えているとします。きっとまず Amazon.com にアクセスして、いろいろなサイズや種類、メーカー、価格などを調べるのではないでしょうか。途上国の医療機関も、買い物をする前には同じようなことを調べたいし、知りたいと思っているのです。

でも、医療機器や物資に関する情報が一覧化されていて、しかも途上国向けにどのように輸入して、支払いをして、配達してもらえるのかが明確になっている、なんていう都合の良いサービスは、どこを探してもありませんでした。そこで、これは誰かがどうにかしないといけない、と思ったのです。

– 起業したきっかけは?

何とかしないといけないと思ったのは確かなのですが、自分で起業したいとはこれっぽっちも考えたことがなかったので、まずは勤めていた非営利団体の一部として事業を立ち上げられないかと考えました。

でも、販売先がすべて営利企業で、しかもその大半が家族ぐるみで経営しているような中小企業であることを考えると、同じビジネスの言葉を話し、利益を上げるという共通の目標を持てる営利企業になる必要性は明らかでした。そこで仕方なく、起業することを決意しました。

もともとはマイクロソフトでプロダクト・マネジャーになりたいと思っていたので、こんな展開に正直、自分でも驚いています(笑)。

– 起業して良かったと思う時は?

課題を実際に解決している手ごたえを得られる時です。

数年前に 500 Startups が主催しているインキュベーションプログラムに選ばれて参加したのですが、一緒に参加していた起業家には2つのタイプがいました。一つは、起業家になって事業を興すことが目標である人。もう一つは、他の誰も取り組んでいない大きな課題を見つけてしまい、それをどうにかしないといけないと思っている人でした。私は完全に後者のタイプで、自分の事業で課題が解決できていることを、とても幸せに感じます。

例えば、出産後の出血を止める LifeWrap は、私が PATH で働いていた時に商品化に携わった製品でした。素晴らしい商品なので価格を下げればどんどん売れるようになるかと思っていたのですが、大間違いでした。まったく売れなかったのです。実際に現場でどのように使って、どんな効果があって、他の類似商品とどのように違うのか、ユーザーにきちんと広める努力が必要でした。

VIA でその努力をした結果、LifeWrap が開発されて約10年たった今、生産するそばから在庫がなくなるという事態になっています。これは起業家としてとても嬉しいことです。

– 今までで最大のチャレンジは?

なんといっても資金調達が一番苦しい問題です。

VIA の事業は、病院や医療従事者といった末端のユーザーに対して、中間的なサービスや情報を提供することが中心です。展開先は南アジアやアフリカ諸国ですし、特に最先端のツールや成長性の高いデジタル・プラットフォームを開発しているわけでもありません。つまり、スタートアップの中でも、特に資金を集めにくい分野なのです。

また、VIA の事業は社会的なインパクトが高いので、社会的インパクトの分野の投資家から声がかかることもあります。でもそうなると今度は収益度外視という、どちらかというとフィランソロピー色が濃くなってしまいます。

ビジネスと社会的インパクトのバランスを取り、それをうまく投資家にメッセージとして発信するという作業はとても難しく、今でも苦労しています。

– 会社で一番自慢のポイントは?

やはり、社会的なインパクトがある仕事をしているというところです。

少し前に、とある有名なスタートアップ・ピッチコンテストでファイナリストに選ばれ、シアトル・センターにある McCaw Hall で1000人もの人を前にピッチをしたことがありました。その3~4分のピッチのために、1ヶ月くらい他の仕事を中断し、練習する時間を作りました。結局、当日はとてもうまくいったのですが、「こんなに時間を割いてでも自分がやるべきことだったのか」という疑問が残りました。

でも、その帰り道、WhatsApp でインドから一枚の写真が送られてきました。VIA で扱っている新生児用の呼吸器につながった赤ちゃんの写真でした。「全部動いてるよ」とのメッセージ付きで。

ピッチコンテストの帰り道、インドから WhatsApp で送られてきた写真

その時に思ったのです。「ああ、もうピッチコンテストに出るのはやめよう。私はこういう人たちのためにこの会社を始めたのだから、そのために100%時間を費やそう」と。

VIA のチームもそういった社会課題を解決することの重要さを理解し、情熱を持って仕事をしている仲間が揃っています。常に学び続け、変化し続け、新しい展開をしていくのはとてもエキサイティングです。そんなチームも自慢のポイントです。

南アフリカのセールス・マネージャー、レザ・ガーダさん(左から2人目)と、レソト王国の医療関係者の方々

– シアトルのスタートアップ・コミュニティの特徴は?

グローバルヘルス分野の主要なプレーヤーが集積するのは、世界でもシアトル、ワシントン DC、ジュネーブ、の3都市のみです。そんな背景もあり、グローバルヘルスの分野でスタートアップを始めるには、シアトルは最適なコミュニティだったと言えるでしょう。ビル&メリンダ・ゲイツ財団と PATH という大きなプレーヤーが揃っていますからね。

一方、そんなシアトルの課題は投資家が多くないということです。エンジェル投資家は比較的多いですが、ベンチャーキャピタルはとても数少ないため、起業家はシリコンバレーまでファンドレイジングに通うことを余儀なくされます。

それに、シアトルの投資家はリスクを回避する傾向が非常に高いようです。そもそもハイリスク・ハイリターンの金を求めて移住してきた人が中心だったカリフォルニア州、ローリスク・ローリターンの木材を求めて移住してきた人が中心だったワシントン州という歴史文化的な背景が地元の投資家コミュニティにも影響しているのではないか、というのが私の持論です。

– よく行くコーヒーショップは?

今はワシントン州北部中央のウィンスロップ(Winthrop)に近い Methow Valley に家族で住んでいるのですが、一番よく行くのは 『Cinnamon Twisp』 という近所のコーヒーショップです。そこで仕事の作業や電話会議などをしています。

昔はシアトルに住んでいたのですが、妻の仕事の関係でアラスカで暮らしたことがあり、それ以来、都市ではなく小さなコミュニティの中で自然豊かな暮らしをしたいと思うようになりました。この町は遠隔勤務している人が多くいて面白いですし、シアトルよりも晴れの日が多いので、とても気に入っています。

南アフリカのヨハネスブルグにもオフィスを構えているので、今はこの2拠点を行ったり来たりする生活をしています。

– 一緒に働きたい日本の会社・実業家・投資家は?

日本の社会的インパクト投資のコミュニティに関心があります。こちらの社会的インパクト投資のように、フィランソロピーに近いものなのか、よりビジネス投資に近いものなのか。そしてVIAに関心がある社会的インパクト投資家がいるのか。もし情報があったら教えてほしいです。

また、日本の医療機器メーカーなどからも、途上国の医療機関向けの適正技術を使った製品が出ていますので、VIA がカタリストとしてフィールドにもっと売り込めるものがあるのではないかと思っています。

VIA Global Health
CEO:ノア・ペリン
社員数:約10名(2019年6月現在)
本社:シアトル(クイーン・アン)
創業年:2015年
公式サイト:www.viaglobalhealth.com

取材・文:渡辺佑子

このコラムの内容は執筆者の個人的な意見・見解に基づいたものであり、junglecity.com の公式見解を表明しているものではありません。

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