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「免疫療法を必要とする全ての人々に届ける」HDT Bio 社 CEO スティーブ・リードさん

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実験機器がひしめく、HDT Bio 社のラボの一角

新型コロナウイルスのワクチンを開発し、インドやブラジル、韓国などで製造、臨床試験を進めているバイオテクノロジーのスタートアップが、シアトルのイーストレイク地域にあります。

国際的なビジネスパートナーシップをてこに、最先端の免疫療法を世界中の必要な人々に届けることを目指すHDT Bio。日本にも造詣が深く、納豆が大好物というCEOのスティーブ・リードさんにお話を伺いました。

– どんなことをしている会社ですか?

新規の治療薬候補の検査試験を準備している研究員

がんにも感染症の治療にも活用できる、プラットフォームとなる免疫療法テクノロジ―を開発している会社です。ここ30~40年の間、この分野で私たち研究者が培ってきたバイオテクノロジーに関する知見やビジネスネットワークをフルに活用して、これを実現させています。

グローバルヘルスというと、マラリアや結核といった感染症を思い浮かべる人が多いかもしれません。でも、がんは世界中に存在し、非常に多くの人を死に至らしめています。がんが見つかったとしても、治療はもろとも、的確な診断すらできず、何一つとして対処ができないという国がほとんどです。

またこれは、途上国だけで起こっている問題ではありません。アメリカでも、がんの治療が大変高額なため、自宅を売らなければいけなくなったり差し押さえられたりする人が多くいるのです。

「免疫療法を必要とする全ての人々に届ける」をミッションに、がんにも感染症にも、先進国にも途上国にも活用できる、最先端のテクノロジ―の開発を進めています。

– 大学で教鞭を取ったり、企業に勤めたり、会社を立ち上げたり、研究機関を統括したりと、さまざまな経験をされていますが、なぜ今スタートアップなのですか?

イノベーションを速いスピードで進め臨床開発まで持っていくには、ビジネスとして、特に小さな会社として進めることこそがベストな方法だと、私のこれまでのさまざまな経験から感じていたからです。アカデミアや非営利の研究機関の世界では、このスピード感をもってイノベーションを進めるということが、非常に難しかった。

どうして今やるのかについては、私が「人生でこれはやらなければいけない」と思うことが、「今なら自分にできる」と確信が持てるステージに至ったから、としか言いようがありません。

– 昨年2020年、パンデミック直前というタイミングで会社を立ち上げられました。このタイミングで起業したことで、どのような影響がありましたか?

会社を立ち上げてから数週間でパンデミックが始まるという、予期せぬ事態となりました。当初は事業をどうするべきか悩みましたが、「やるしかない」という方向性ですぐに一致しました。結果的には、このタイミングで会社を立ち上げたことで、新しい RNA プラットフォームの臨床開発を加速させることにつながりました。

一方で、がん療法に関しては若干の遅れが生じてしまったことも確かです。でも、プラットフォーム全体については大きな学びを得たので、幸運なタイミングであったと言えるのではないでしょうか。

RNA 技術を使ったコロナウイルスワクチンの製造技術を、他国(インド)の企業に移管し、現地での製造に成功し、臨床試験のフェーズ2を終えたのは、世界中を見ても弊社だけです。こうした取り組みこそが、本当の意味でのキャパシティ・ビルディングなのではと思います。

– 起業して変えたいと思ったことは?

細胞培養器の中で、今日も新たな創薬ターゲットを探索

「世界最先端のバイオテクノロジ―を使った免疫療法を、必要な全ての人に届けること」に尽きます。収益性の高い会社を作ることで、全ての大陸に免疫療法を届けたいと思っています。

米国では、必要な新型コロナウイルスのワクチン接種率として70%を掲げているのに対し、世界には未だ接種率が数%しかない国が多くあると先日 New York Times が報道しました。これこそ、世界的な不平等の証拠です。様々な非営利団体の最善の意図をもってしても、この世界レベルの健康に関する不平等は解決できていません。

この不平等の解決には、収益をあげることができるサステナブルな解決策が現地で実施されることが最も有効だと考えます。多くの国がワクチンを他国から輸入することに前向きではありません。ブラジルやインド、中国などがその例で、できれば自国内で生産したいと考えています。それならば、各国でのワクチン生産を加速させる支援をしよう、というのが我々の考えです。

がん療法についても同じことが言えます。医薬品を輸入に頼ると非常に高額になりますが、自国内で製造できればコストも抑えられる。現地の規制当局の視点からしても、自国内で製造されている医薬品であれば、物事がスピーディーに進みます。

成功のカギを握るのは、『お金が儲かる』テクノロジ―を開発することだと考えます。例えば、新型コロナウイルスが世に出たとき、診断キットやワクチンがものの数か月で開発されましたが、結核はどうでしょうか。世界中で今も非常に多くの命を奪う危機的状況でありながらも、対策はなかなか進んでいません。ポイントは、結核だけでなく、がんの治療にも役立つものを同時に作ることにあります。そうすることで初めて、我々のミッションである、世界で最も顧みられない感染症のために最先端のテクノロジーを届けることが可能になるのです。

– 今までで最大のチャレンジは?

イーストレイクのビジネスコンプレックスにある、オフィスの玄関

街中がクレーンだらけで建設ラッシュのシアトルで、意外だと思われるかもしれませんが、研究室(ラボ)のスペースがないことが今の課題です。1990年代に同じ分野で事業を立ち上げた時は、同業者もおらず競争はありませんでしたが、今では市内に20~30棟ほどあるバイオテクノロジー企業向けビルの全てが埋まっています。スペースの確保が喫緊の課題です。

他にも、テクノロジ―を世界的に前に進めるために必須である、韓国や中国、インドといった外国企業とのパートナーシップの合意書などには、FDA(アメリカ食品医薬品局)の承認が必要なのですが、Covid-19の影響で承認プロセスに遅れが生じていることなどが挙げられます。

でも、大きな目で見れば、2020年からのたった1年でテクノロジーをゼロから臨床試験まで持ち込めたのですから、非常に大きな進歩を遂げていることは明らかであり、こうした問題はそのうちに解決するだろうと、楽観的にとらえています。

– 会社で一番自慢のポイントは?

研究員を務める喜村大志さん(左)とCEOのスティーブ・リードさん(右)

会社で一番自慢のポイントは、従業員です。

会社のミッションやゴールに情熱を持った大変有能な研究者が、この会社の小さなスペースに集まっています。社会に良いことを、うまくやる、そしてそれが世界に影響を与える。これほどやっていて楽しい仕事はないのではないでしょうか。

– シアトルのバイオテクノロジー関連エコシステムの特徴は?

シアトルのバイオテクノロジ―のエコシステムは、規模も大きく活気に溢れています。1980年代にウォーターフロント地域から始まり、バイオテクノロジー大手 Amgen による買収を経て、Juno Therapeutics などを始めとする大きなスタートアップを生み出す流れにつながっていきました。スタートアップの数も増えており、だからこそ今、スペースの確保が課題となっているのです。

中でもワシントン大学やフレッド・ハッチンソンがん研究センターは、こうしたスタートアップを生み出すインキュベーション施設として、中心的な役割を果たしているということは間違いありません。

– 今後の日本での展開の予定は?

私は日本の企業に務めてシアトル支社を立ち上げたり、その後もさまざまな組織で日本とのディールを任されたりしたことが一度となくあります。その関係で、過去には毎月東京に通うような生活をしていたこともありましたし、大阪大学や東京大学などで活躍する優秀な日本人研究者を多く知っています。ですので、将来何かを一緒にしたいという希望は持っています。

しかし、バイオテクノロジ―の分野では、日本は他の国から多くを学ぶ必要があるのではないでしょうか。日本では Innovation(革新)よりも Confirmation(追認)を好む傾向が強いのでしょう。他国に比べてイノベーションへの投資が充分にされておらず、結果として技術的な面で後れをとってしまっているのが現状です。よりオープンに、そして時にはアグレッシブにイノベーションを進めていかなければ、優秀な人材のさらなる国外流出につながりかねません。これからの発展に期待しています。

HDT Bio
CEO: スティーブ・リード
社員数:約25名(2021年9月現在)
本社:シアトル(イーストレイク)
創業年:2020年
ウェブサイト:www.hdt.bio

取材・文:渡辺佑子

このコラムの内容は執筆者の個人的な意見・見解に基づいたものであり、junglecity.com の公式見解を表明しているものではありません。

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