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「AI を使って、AI の導入をより簡単に!」DimentionalMechanics 社 CEO ラジーブ・ダットさん

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DimentionalMechanics 社 CEO ラジーブ・ダットさん

子供のスマホやタブレットの使用履歴を細かく確認することなく、危険なコンテンツや企業からのアプローチを自動的に察知して知らせてくれる。へき地の医療従事者が写真を撮るだけでさまざまな病状の診断をしてくれる。このように、私たちの生活をより安全かつ便利にしてくれる新しいテクノロジーに共通しているのが、人工知能(Artificial Intelligence 以下、AI)です。

そんな便利な AI ですが、「AI を活用したいけれども、専門のエンジニアもいなければ、どうやって導入したらいいかもわからない」という企業が多いのではないでしょうか。

そこで今回は、AI や機械学習を専門とするエンジニアがいなくても、AI が自動的に学習して AI モデルを開発してくれるプラットフォームを提供している DimentionalMechanics 社をご紹介します。

開発のコストや期間を大幅に抑えられる、とても画期的なプラットフォームで、どんな業界にも応用が効き、またスマホやタブレットなど、どんな環境でも動作ができることから、大きな注目を浴びています。グローバルなバックグラウンドを持つ同社の CEO、ラジーブ・ダットさんに、AI との出会いから起業、そして日本での事業展開について伺いました。

– 起業して変えたいと思ったことは?

AI をもっとシンプルにしたい、ということです。AI や機械学習(Machine learning)は、専門用語も多ければ、インスタレーションも複雑で、何年も特殊な訓練を積んだ専門のエンジニアにしか使えないテクノロジーだという現状を、もっと普通の人にも活用できるものに変えたい。テクノロジーは実際に使えなければ意味がないというのが、私の信念ですから。

インターネットで世の中はとても便利になりましたが、その分、リスクも増えました。特に AI は、自動的に学習して戦略を改善し続けるので、そのうち人間の知能レベルを上回ります。そこで倫理的な問題にどう対処するかがとても大切になってきます。弊社のプラットフォームには、ガバナンスやトレーサビリティといった機能も簡単に付けることができるように開発を進めています。

– 起業したきっかけは?

私が AI と初めて出会ったのは13歳の時でした。AI という言葉すら存在しなかった時代、ゲーム好きが高じて自分で開発したシューティングゲームに、AI のコンセプトを使い、弾丸の発射のタイミングやフライトパターンなどを予測する仕組みをプログラミングしたのです。鉱山関係の仕事をしていた両親の影響で幼少期をザンビアで過ごし、その後、大学では物理学の博士課程に入りましたが、新しいテクノロジーを実際に活用するビジネスの醍醐味に惹かれて途中退学。その後はインテルやHPなどの世界の大企業で研究開発や新規事業開発に携わり、イギリスやカナダ、ドイツを転々とし、シアトルにやって来たのは約10年前、マイクロソフトでの仕事のためです。

起業した当初は、実はバーチャルリアリティの分野で、背景の風景を自動的に作成するエンジンを作っていました。AI が自動的に背景画像を作り出すので、グラフィックデザイナーを雇うよりもコストを大幅に抑えることができたのです。その後、他の活用方法にも道を開くべく、業界を問わずに他分野に応用できるプラットフォーム作りに舵を切ることにしました。

弊社の開発しているテクノロジーがまだ世界に存在しなかったというのは起業の一つのきっかけではありますが、「自分が自分の上司になりたい」という思いが強かったのもあると思います。妻から「あなたが軍隊に入ったら最低の兵士になるでしょうね」と言われるくらい、私は上司の命令にすんなりと従えないタイプのようです(笑)。

また、大企業に勤めた期間が長かったので、その官僚的・政治的なごたごたから逃れ、一つのことに集中して何かを作りたいという思いも強くありました。起業してからは、つまらないと思う日は一日たりとてありませんし、起業してからの5年間で今までの私の一生分のキャリアよりもはるかに多くの学びを得たので、後悔はありません。

– 起業して良かったと思う時は?

お客様からのリアクションがあった時です。良いフィードバックだけでなく、そうでないものも含めて、ユーザーから反応があるのはとても嬉しいことです。

今はバイオテックや医療系、IT、メディアやエンターテイメント、金融などさまざまな業界にクライアントがいますが、いつでも顧客第一の姿勢を大切にしています。

– 今までで最大のチャレンジは?

起業はチャレンジばかりです。資金的に常に先行き不透明な点もそうですし、チームを作るのにもとても時間がかかりました。

特に、AI や機械学習分野での人材確保は非常に厳しい状況です。昨今の移民政策の関係で、外国から秀でたエンジニアやソリューション・アーキテクトを連れてくることが難しくなってしまいました。今はカナダのバンクーバーにオペレーションの一部を置いたりするなどして対応しています。

– 会社で一番自慢のポイントは?

一番自慢なのは弊社のテクノロジーですが、それと同様に自慢なのがチームです。どんな会社も人がすべてですからね。

これまで採用にはいろいろと試行錯誤しました。大企業と採用の面で大きく異なるのは、失敗が許されないということと、一つの決まった役職のためだけに採用することができないという点です。スタートアップでは仕事内容が日々変わりますので、専門性があることに加えて、その他いろいろな仕事を振られても柔軟に対応できるジェネラリストでもあることが求められます。

また、弊社ではダイバーシティを非常に重要視しています。そのため、採用にはブラインド・プラクティスという、候補者の名前を隠して性別や国籍をわからなくするという手法をとっています。採用する側の無意識のバイアス(implicit bias)を取り除き、全候補者に平等な機会を与えるためです。そんな試みが功を奏して、例えば女性社員の割合は全体の約3~5割で推移しています。

PLUG and PLAY のイベントでピッチをするラジーブさん

– シアトルのスタートアップ・コミュニティの特徴は?

とてもイノベーティブなスタートアップや人が集まる素晴らしいコミュニティであるにも関わらず、それがまだよく世界に知られていない、という点が特徴だと思います。

一方、資金調達がシアトルの大きな課題です。シリコンバレーの投資家は、時価何億ドルという大企業になりうるユニコーンを好む傾向にありますが、シアトルの投資家は、3~5年という比較的短期間で事業を売却することを求める傾向にあります。そんな背景から、比較的短期間でリターンを出さないといけないというプレッシャーがかかり、短期的な経営戦略を求められる起業家がシアトルには少なくないようです。

私は事業を数年で売却して儲けようと思って起業したのではありませんし、他の起業家もみなそうではないでしょうか。この点は、シアトルの今後の変化に期待しています。

– よく行くコーヒーショップは?

オフィスの近くにある Mercurys Coffee Co. に一番よく行きます。チームの全体会議をしたり、夕方に出向いて閉店時間まで作業をすることもしばしばです。

にぎやかな場所の方が集中しやすいので、コーヒーショップは大好きです。

– 一緒に働きたい日本の会社・実業家・投資家は?

そうですね、私が以前から憧れ尊敬している会社の一つに、武田製薬があります。湘南ヘルスイノベーションパーク(iPark)というような、非常にイノベーティブな取り組みをしているので、将来的に一緒に仕事ができたらいいなと思います。

また、日本では既に日本ラッド株式会社とのパートナーシップなど、プロジェクトが多数進行中です。そのため、今年中には日本にアジア太平洋地域を管轄するオフィスを構えたいと考えています。

アジアの企業の多くが AI を Mission critical、つまり、事業の存続にかかわる一大事だと捉えています。文化的にも、欧米で映画『ターミネーター』のように、AIは人類を脅かす存在である、と恐れられているのと少し異なり、アジアでは AI が比較的好意的に受け止められています。このような背景もあり、弊社では今後はアジアに集中して、積極的に事業展開を進めていきたいと考えています。

– 日本で事業展開をするようになって驚いたことは?

日本ではビジネスで対個人の関係をとても重視するという点にまず驚きました。アメリカでは比較的ライトタッチのビジネスライクな関係が保たれますが、日本では関係者間で個人同士がとても密接な関係を築くようです。非常に長期的な視野を持った担当者同士が強固な個人的な関係を一度築いてしまえば、崩れることがほとんどないと言えます。これは独特ですが、日本のビジネスのやり方の強みと言えるのではないでしょうか。

チームワークの強さにも驚かされました。問題があればみんなで取り組むという意識が非常に高く、素晴らしいと思います。

あとは、礼儀正しいところですね。私はロンドン生活が長かったので、東京の人たちの礼儀正しさには正直ほっとします。明日からまた出張で日本に行くので、とても楽しみにしています。

DimentionalMechanics, Inc.
CEO:ラジーブ・ダット
社員数:約10名(2019年6月現在)
本社:ベルビュー
創業年:2015年
ウェブサイト:dimensionalmechanics.com

取材・文:渡辺佑子

このコラムの内容は執筆者の個人的な意見・見解に基づいたものであり、junglecity.com の公式見解を表明しているものではありません。

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