今回は、最近注目されているコード生成AIを含めた生成AI全体の進化と、そこで生まれた創作物の著作権を含む法的リスクについてご紹介します。加速するAIの競争に乗り遅れないためには、生成AIを積極的に活用していく姿勢が大事ですが、それと同時に法的なリスクを見極めながら、AI活用の仕方を慎重に見極めていくことも求められます。
生成AIによるコンテンツ制作は、ここ数年で登場した最も破壊的なテクノロジーの一つだと思います。詳細なリクエストを自然言語で入力するだけで、従来の方法では数時間、あるいは数日かかる可能性のある文章や画像を瞬時に作れるのには非常に驚かされます。
昨年は、ChatGPT や 画像生成 AI が発表されましたが、テキスト、音声、画像を統合的に処理できるマルチモーダルAIであるGPT-4oが先日発表されるなど、生成AIができることの幅はますます広がっています。
しかし、AIの性能が高まるとともに、それに伴うリスクや責任も増しています。
文章生成 AI や 画像生成 AI
実際、ライター、アナリスト、アーティストといった職種に従事する人々の仕事は脅かされています。コンテンツを作成するために大勢のライターを雇うか、それとも生成AIのツールの使用に精通した少数の人間を雇うかと聞かれると、コストだけを考えれば、その答えは明らかだと思います。
特に企業は生成AIを使用してコンテンツを作成することを全面的に採用してサービスを開始する前に、法的なリスクについても考慮をしておく必要があります。法律の整備は常に技術の発展に遅れを取っており、現在もAIの急速な進歩に追いつけていません。
例えば、2023年に米国著作権局は、「AIが自動生成したコンテンツには原則として著作権は認められない」と発表しました。しかし、この判決はまだ議論の余地があり、一部の法律の専門家は、「AIが生成したコンテンツを、人間が大幅に修正・加工した場合には、著作権保護が部分的に与えられる可能性がある」と主張しています。
この著作権の問題がどれほどの混乱を招くかは容易に想像できます。例えば、DALL-E(OpenAIの画像生成AI)を使用して、「アインシュタインが一輪車に乗っている画像」を生成し、その画像をPhotoshopに取り込んでアインシュタインに帽子を被せる加工をした場合、この作品のどの部分に著作権が認められるのでしょうか?AIコンサルタントのNizel Adams氏は、「AIが生成したコンテンツの問題は、AIがどこから情報を取得しているのか、どの部分がゼロから生成されているのか、あるいは著作権で保護された他のコンテンツや別のAI生成コンテンツから引用されているのかを、ユーザーが正確に知ることができないことである」と述べています。
コード生成 AI
文書生成AIや画像生成AIと同様に注目されているのが、コード生成AIです。
CodeSubmit.ioに投稿された記事によると、コード生成AIツールは無料から数千ドルの価格帯まで、30以上も存在しています。その中でも特に有名なGitHub Copilotをライセンス購入している企業は2023年の時点で2万7000社以上に上ります。GitHubは2018年にMicrosoftが買収したオンライン開発プラットフォームで、ソフトウェア開発者がプロジェクトを保存したり、協調作業したりするのを容易にしています。当初は無料でしたが、2021年にMicrosoftがGitHubに自社のCopilot(AI機能)を追加して、月額10ドル、19ドル、39ドルの3種類の有料プランを開始しました。
Googleは、コード生成AIについて「人工知能(AI)と機械学習(ML)を使用して、ユーザーのプロンプト(AIに対する指示)に基づいてコードを作成する。コードは一般的なベストプラクティス、組織のガバナンス、さらには望ましいコードの自然言語記述に基づいて生成される」と定義しています。Googleのコード生成AIであるGemini Code Assistは、C++、Python、Javaなど20以上の異なる言語に対応しています。
コード生成AIは、Chat GPTからテキストを生成したり、Midjourneyから画像を生成したりする方法と非常に似ており、書きたいコードの内容をテキストプロンプトで指示すると、そのコードをAIが生成してくれます。また、古いコードを最新の標準に引き上げたり、別の言語に変換したりすることも可能です。ただし、AIが生成したコードは人間のエンジニアがレビューして、適切に機能することを確認し、編集・精査することがベストプラクティスになっています。
コード生成 AI の問題
このコード生成AIの主な問題の一つは、言語モデルを作成する際に使用したデータソースに関するものです。他の企業や個人が作成したソースコードをスキャンしたものなのか、それともツールを使用する組織が所有するソースコードだけを使用したものなのか?
前者のように他人のコードに依存している場合は、ツールが出力する新しいソースコードに著作権を主張することは困難です。一方で、後者であれば、生成されたソースコードはその組織が著作権として保護できる可能性が高くなります。
弁護士のCollen Clark氏は、「最終的には、より明確な法的先例が確立されるまで、コード生成AIの使用に関する法的影響は複雑で不確定である」と述べています。その場合、これらの新しいツールが提供するものを活用するべきか、それともすべての法的問題が解決されるまで待つべきか?後者の選択は非常に長い時間を待つことになり、競合他社に追い越される可能性が高くなります。
こうしたことから、コード生成AIを使用する場合には、慎重に進めることが必要です。オリジナルのコードとAIが生成したコードの部分を識別するシステムを整備し、AIが生成コードの行に対して、オリジナルのコードと同レベルの徹底的なレビューと品質保証チェックを行うというのが一つの方法です。
コード生成AIは非常に破壊的なツールですが、エンジニアの数を減らして人件費を削減する方法としてではなく、既存のエンジニアがより良いコードを作成することを支援するためのツールとして使用することが望ましいと言えます。そして、新しい法律が業界全体を急速にひっくり返す可能性があるため、今後の法整備の動向を注意深く見守っていく必要があります。
提供:Webrain Think Tank 社
【メール】 contact@webrainthinktank.com
【公式サイト】 https://ja.webrainthinktank.com/
田中秀弥:Webrain Think Tank社プロジェクトマネージャー。最先端のテクノロジーやビジネストレンドの調査を担当するとともに、新規事業創出の支援を目的としたBoot Camp Serviceや、グローバル人材の輩出を目的としたExecutive Retreat Serviceのプロジェクトマネジメントを行っている。著書に『図解ポケット 次世代インターネット Web3がよくわかる本』と『図解ポケット 画像生成AIがよくわかる本』(秀和システム)がある。
岩崎マサ:Webrain Think Tank 社 共同創業者。1999年にシアトルで創業。北米のテックトレンドや新しい市場動向調査、グローバル人材のトレーニングのほか、北米市場の調査、進出支援、マーケティング支援、PMI支援などを提供しています。企業のグローバル人材トレーニングや北米進出企業のサポートに関しては、直接ご相談ください。
※本ページには Amazon.co.jp のアフィリエイトリンクが含まれています。