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ビタミン D の健康への影響

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ナースプラクティショナー・助産師・看護学博士
押尾 祥子さん

Sachiko Oshio, CNM, PhD, ARNP

Nadeshiko Women’s Clinic
なでしこクリニック(日本語による産婦人科外来)
【メール】 info@nadeshikoclinic.com
【公式サイト】 www.nadeshikoclinic.com
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ビタミン D が健康に関係があるらしいということは1980年代から言われていますが、いまだにはっきりした研究結果は出ていません。この稿では、ビタミン D の役割、これまでにわかっている健康効果、自分の健康を守るためにどのような注意をしたら良いか、ということについてご説明します。

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ビタミン D は、骨の形成にかかわるだけでなく、細胞の分割のプロセス、炎症を抑える仕組み、免疫細胞の働きにも関わっています。他のビタミンと違って、食べ物から吸収されるだけでなく、皮膚に太陽光線が当たることによって体内でも合成されます。現代人は外で活動することが少ないため、ビタミン D 不足が多いとされています。またシアトルは、緯度が高くて冬の日光が弱いこと、雨が多くて晴れた日が少ないことなどから、ビタミン D 不足の人が多いと言われています。

ビタミン D 不足による問題

ビタミン D 不足で一番大きな問題は、骨の形成がうまくできないことです。子供の深刻なビタミン D 不足は、骨が硬くならない「くる病」という病気を起こします。大人にも、ビタミン D 不足による骨軟化症という病気があります。食べ物の豊富な現在ではまれな病気ですが、特殊な条件のもとでは今でも起こります。メラニン色素の多い人はビタミン D の合成のために強い太陽光線が必要なので、陽があまり当たらない地域に住んでいる黒人にはビタミン D 不足が起こることがあります。また、ブルカ(Burqa)という黒い布をすっぽりかぶっているイスラム教徒の女性や、そうした女性から生まれた乳児にも深刻なビタミン D 不足が起こることがあります。

ビタミン D 過剰摂取で起こる問題

ごくまれですが、ビタミン D が過剰になることもあります。太陽光線の刺激で合成されるビタミン D の量は体内で自動的に調整されていて、作りすぎることはありませんが、サプリメントとして大量に摂取すると、過剰になることがあります。過剰摂取になると、血中のカルシウム値が高くなりすぎて、腎臓、肝臓、心臓などにカルシウムの沈着が起こります。また、妊娠中の女性がビタミン D を過剰に摂取していると、胎児の脳の発達に影響が出ることもあります。

ビタミン D が健康に及ぼす影響に関する研究

ビタミン D と健康との関連を調べる研究には、大きくわけて2種類あります。ひとつは、病気の人と健康な人の血中ビタミン D 濃度を比べる方法です。もうひとつは、同じ条件の人をたくさん集めて、実験群と対照群に無作為に分け、ビタミン D を与えた場合と与えなかった場合で、病気の発症率が変わるかどうかを調べる方法です。

さまざまな健康障害のある人を調べてみると、血中ビタミン D 濃度が健康な人にくらべて低い場合が多い、という研究結果が出ています。これまでに、乳がん、大腸がん、卵巣がん、心臓病、うつ病、糖尿病、妊婦糖尿病、妊娠中毒症などの研究が数多く行われています。ほとんどの場合、ビタミン D の値はたしかに低いことが多いのですが、統計上はっきり証明できるほどの差はありません。いくらか差があるのは、心臓病、アルツハイマー病、結核、メタボリック症候群、妊娠中毒症などです。こうした研究の結果、炎症による病気とビタミン D の血中濃度には関連があるらしい、ということがわかります。ただし、病気の人と健康な人を比較しただけでは、因果関係の証明にはなりません。ビタミン D 不足が病気を引き起こすのではなく、病気になるとビタミン D の必要量が増えて、血中濃度が低くなるのかもしれません。

そこで、病気との因果関係を調べるための実験研究も数多く行われています。サプリメントを与えたグループと、与えなかったグループの比較をするのですが、いくつかの例外を除いて、まったく差がないか、わずかに差がある程度だとという結果が出ています。子供の虫歯の数が少し減る、腎臓病のある人の副甲状腺ホルモンの値が少し上がる、という研究だけが統計的に意味のある差を示していますが、その差も大きくはありません。

一例として、乳児のビタミン D サプリメントの研究を見てみましょう。母乳だけで育てている子のビタミン D のレベルは、人工乳を飲んでいる子と比べて低いことがわかっています。そこで、母乳だけで育てている子だけを集めて、実験群にはビタミン D のサプリメントを与え、対照群には与えないで、1年ほど追跡調査した研究が行われました。その間、実験群と対照群の健康状態にはまったく差がなく、サプリメントの効果はただひとつ、血中のビタミン D 濃度を上げただけでした。サプリメントを取らなかった子も生後6か月をすぎて固形食を食べるようになってくると、自然にビタミン D の値が上がってきているため、サプリメントを与える意味がない、という結論でした。

では、ビタミン D のサプリは飲んでもまったく意味がないのでしょうか?ビタミン D と病気の因果関係を調べるのは、とても難しいのです。病気というのは、その人の全般的な健康状態、ストレス、運動量、日にあたる時間、食べ物からの摂取量、栄養のバランス、遺伝的にビタミン D を作りやすい体質か、遺伝的にビタミン D を吸収しにくい体質か、など、さまざまな要因が関わって起こるものです。数か月から数年間という短い間だけ、実験的にビタミン D だけを操作しても、他の要因が病気を引き起こしていれば、ビタミン D だけの効果はわかりません。また、決まった量のビタミン D を摂取しても、血中濃度がすぐ上がる人と、ほとんど変わらない人がいます。実験では、摂取量を決めて管理するだけで、血中濃度を一定にするような研究は行われていないので、差が出にくいのかもしれません。

現在のところ、誰でも一般的にビタミン D を取るべきだ、という証拠になるような研究結果はありません。また、ビタミン D さえ飲んでいればさまざまな病気を防げると思ってはいけません。自分の健康を守るためには、食べ物、運動、睡眠、ストレス、人間関係、など、全般的に生活習慣を整えていくのが一番です。年に一回の健康診断の時に、ビタミン D を調べてもらって、特別に低ければサプリメントを取ることも意味があるかもしれません。それと同時に、どうしてビタミン D が低いのかを考えてみましょう。メタボリック症候群や、高血圧や、アレルギーのある食品を知らずに食べ続けていたりして、体内に常に炎症が起こってビタミン D を使い果たしているのかもしれませんし、日に当たる機会がない生活をしているからかもしれません。窓越しの太陽光線では意味がないので、短時間でも外に出ることが大切です。

(2014年12月)

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