シアトルでの留学生活を始めた頃、異国の地で母国・日本を身近に感じられる場はそう多くありませんでした。そんな中で出会ったのが、ワシントン州日米協会(Japan-America Society of the State of Washington/JASSW)です。
シアトルを拠点にするJASSWは、100年以上にわたり、日米間の文化交流やビジネス支援を通じて、両国の架け橋となってきました。
このエッセイでは、JASSWが展開するスモールビジネス支援プログラム(Small Business Resiliency Program/SBRP)にインターンとして参加している留学生の立場から見たJASSWの豊かな歴史、現在の取り組み、そしてこれからの可能性について紹介します。
アメリカで100年以上続く日米交流の拠点

JASSWは1923年に設立され、2025年に創立102周年を迎えました。全米にはおよそ38のJapan-America Societyが存在していますが、その中でもJASSWは最も長い歴史を持つ団体の一つです。
設立当初から日米の文化的・経済的な相互理解を目的に活動してきたJASSWは、戦後の復興期を通じて地域に根付き、現在では多くの企業、政府関係者、教育機関とも連携を深めています。
年に一度開催される年次総会「Annual Meeting」では、在シアトル日本国総領事や、ワシントン州を代表するさまざまな企業関係者が一堂に会し、日米の友好関係の大切さを振り返り、その維持と強化について話し合うなど、地域と国際社会の懸け橋として重要な役割を果たしています。

留学生として出会った “日米をつなぐ場所”

私がJASSWと出会ったのは、12月に開催された「ホリデーマーケット」というイベントに立ち寄ったのがきっかけでした。シアトル周辺で活動するスモールビジネスの方々が一堂に集まり、手作りの商品や飲食物などを出店・販売する機会として昨年初めて開催されたのですが、会場で胸に熱いものが込み上げてきたのを今でも覚えています。なぜなら、母国から遠く離れたアメリカの地で、自らのビジネスを立ち上げ、奮闘している日本にルーツのある方々が大勢いたからです。
私自身、日本で小規模事業者を支援する活動に関わった経験があり、留学を通して得た学びをいつか日本に還元したいという思いがありました。そのため、この団体の活動と自分の想いが自然と重なり、「ここで自分も何か貢献したい」と強く感じたのです。
その後、年次総会に参加する機会をいただき、普段は接することのない在外公館の方々や地元企業の経営陣の方々と直接言葉を交わすことができました。
インターンとしての挑戦
JASSWのインターンとなったのは、先輩留学生の方に「今ちょうど次のインターンを探している」と声をかけていただいたのがきっかけです。
その先輩とは日本での経験やスモールビジネスを支援したいという想いなど、共感する話題が多く、自然と「自分もこの場所で何か貢献できるかもしれない」と思うようになりました。
インターンの業務内容
JASSWのインターンの仕事は、多岐にわたります。私の場合は主に、SNSの運用やウェブサイトの改善に関わる仕事から始まりました。その他にも、イベント設営のサポートや、補助金提供元に提出するSNSマンスリーレポートの作成、さらには現在進行中のこの寄稿記事の執筆など、幅広い経験を積ませていただいています。
イベントコーディネーターや専門家の方々の手が届きにくい部分を学生インターンとして補完するような役割を担うことも多く、実務に直結する貴重な学びの場となっています。
柔軟性を活かして、自分ならではの取り組みを
インターンとして活動を重ねる中で、既存の業務に「もっとこうできるのでは?」と気づく場面も多くありました。学生という立場だからこそ柔軟に時間を使えるメリットを活かし、生成AIの活用提案や、報告だけのために取集していた大量のデータを分析するためのPython習得など、主体的な取り組みにも挑戦しています。
特に、スタッフの方々が忙しくて手をつけられていない業務や、蓄積されたデータの有効活用など、見えづらい部分にも目を向けるよう心がけています。
インターンに求められる資質とは?
インターンとして活動する中で強く感じたのは、「自分で仕事を取りに行く姿勢」の大切さです。
当初は、「インターンだから何かしらの仕事が自然に割り振られるだろう」と思っていましたが、現実はそう甘くありませんでした。自分から動かなければ、何も始まらない。だからこそ、「自分ならここでどう価値を出せるか」「どこに改善点があるか」と考え続け、自ら提案し、行動に移す積極性が不可欠だと感じています。
インターンはただの受け身の経験ではなく、「自分から関わって形にしていく経験」だと思っています。
変化する社会に対応するJASSW スモールビジネス支援

JASSWでは2022年から「Small Business Resiliency Program(SBRP)」という新たなプログラムを開始しました。このプログラムは、ワシントン州商務省のグラントを活用し、パンデミックによって大きな打撃を受けた日本人や日系アメリカ人に無料でビジネス支援を行う取り組みです。
このプログラムを通じて、JASSWは以下のような支援を提供しています:
- 対面およびオンラインによる無料個別相談を通じたビジネスサポート
- 小規模事業者向けのワークショップやセミナーの開催
- SNSやポッドキャストを活用した、ビジネスに役立つ情報発信
- コミッサリーキッチンの提供による小規模フードビジネスの支援
特に注目すべきは、特定の分野に精通した専門家に直接相談できる個別相談です。たとえば、財務に関する相談には日本語で対応できる公認会計士(CPA)が、飲食業の開業支援には地元の経験豊富なフードビジネスコンサルタントが対応しています。日本語でのサポートだけでなく、実務的で具体的なアドバイスが得られるため、これからスモールビジネスを起業したい人や、経営している人で、日本語でアドバイスを受けたい人、英語に不安がある方や制度の仕組みが分からない方も、安心してビジネスの悩みを相談することができます。
実際に、私の知人である日本人留学生たちも、このプログラムを通じて自身の「やりたいこと」を追求するために起業についてのステップを学び始め、事業計画を具体化する第一歩を踏み出しています。
JASSWのSBRPは、単なる「サポート窓口」ではなく、移民や留学生にとっての“学びの場”であり、未来へのステップを共につくる「地域の伴走者」としての役割を果たしているのです。

地域に根ざした実践支援 ― ウェブサイト作成からフードビジネスの個別相談まで
SBRPでは、一般的なビジネス相談だけでなく、より具体的かつ実践的なテーマに対応する支援も展開しています。その中でも最近特に力を入れているのが、ウェブサイト制作支援とフードビジネス向けの個別コンサルテーションです。
初心者向けウェブサイト作成講座
現代のビジネスにおいて、オンラインでの情報発信は欠かせません。SBRPでは、「自分のビジネスの紹介ページを作ってみたいけれど、何から始めてよいかわからない」という方に向けて、初心者向けのウェブサイト作成セミナーを開催しています。
このセミナーは、ベルビューに本拠地を置くデジタルマーケティング支援会社PSP inc.と共同で提供されており、専門的な知識がなくても、誰でも安心してウェブサイト制作に取り組める内容になっています。
実際の受講者からは、「ウェブサイトが必要なことはわかっていたけれど、これまで手が出せなかった」「講座のおかげで第一歩が踏み出せた」といった声が多く寄せられており、ビジネスの“入口”を開く実践的な支援として、高く評価されています。
フードビジネスの個別相談
また、飲食業を目指す事業者向けには、食品衛生・営業許可・販路開拓・価格設定などを中心とした個別コンサルテーションも行われています。この分野の相談には、実際にシアトルで複数の飲食事業の経験を持つ専門家が対応し、実務ベースでの実践的なアドバイスが提供されています。
特に多くの相談者が日本食やアジア系フードのビジネスを希望していることもあり、文化や味への理解を持つアドバイザーによる支援は、他にはない安心感と信頼につながっています。
このような活動を通じて、SBRPは「情報提供」だけでなく、「行動につながる学びの場」として、小規模事業者の第一歩を後押ししています。
もしこの支援がなかったら? ― 留学生として考える、その意義と継続の必要性

現在、ワシントン州日米協会が提供するSBRPのような支援プログラムは、州や連邦の予算に支えられて運営されています。
留学中に自分の夢を追求するためにスモールビジネスを起業・経営したいと考える私や友人達にとって、このプログラムの意義は「言語」や「制度」だけでなく、「挑戦していいんだ」と思える安心感を与えてくれることにあります。
実際に、無料で専門家に相談できる機会は限られており、仮にこのプログラムがなくなってしまうと、多くの事業者が「最初の一歩」を踏み出せないままになるでしょう。特に、英語に不安がある移民や留学生にとっては、情報にアクセスできても“理解し、行動する”までには高いハードルが存在します。
このプログラムは、そのような人々に寄り添い、背中を押し、実際に“次の行動”に導いてくれる、数少ない支援のひとつです。これからも継続されることは、地域全体にとっても重要な意義があると思います。
歴史ある団体だからこそ、未来への挑戦ができる
JASSWは、100年を超える歴史の中で、日米の信頼関係を築き、文化・経済の交流を地道に支えてきました。そして今、その歴史を土台に、現代の課題に向き合い、地域社会と共に動く団体として進化しています。
インターンとしてこの団体に関わることで、日米の“つながり”が決して遠い存在ではなく、目の前の小さな会話や支援の中に生きていることを実感しました。これからも、こうした地道であたたかな活動が続いていくよう応援したいと思っています。
留学生としての立場から、そして同じように夢を追う仲間の一人として、JASSWの活動が多くの人に届き、より良い未来を形作る力となることを信じています。
執筆:今田偲温(いまだ・しおん)関西学院大学
ワシントン州日米協会のスモールビジネス支援プログラムは、小規模事業・個人事業主の事業のさらなる発展と地域の企業ネットワーク構築の一助となるために運営されています。SBRN で取り上げるべきテーマや事業運営におけるご質問などがございましたら、お気軽にご連絡ください。
ワシントン州日米協会 SBRP(Small Business Resiliency Program)
【電話】 (206) 374-0175
【公式サイト】 jassw.org/small-business
ワシントン州日米協会(JASSW)は、1923年の創立以来、日本とワシントン州の友好促進を目的に、文化・経済交流の機会を提供する非営利団体。現在は約70社のコーポレート会員を含む約500名が参加し、多様なイベントを通じて交流を深めています。また、ファンドレイジング・イベントでの募金や政府・企業・公共団体から受ける助成金を活用し、チャリティ・プログラムも運営しています。詳細は公式サイトでご覧ください。