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第18回 ソーシャル・エモーショナル・ラーニング(Social Emotional Learning:SEL)とは

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アメリカの教育現場で積極的に取り入れられているソーシャル・エモーショナル・ラーニング(Social Emotional Learning:SEL)について、耳にしたことはありますか。

日本でSELが取り上げられ始められたのはごく最近なので、お子さんの幼稚園や学校でSELについて聞かれたことがあっても、日本で学校に通われた昭和・平成生まれの大人はあまり馴染みがないのではないでしょうか。

日本語では、「社会感情学習」や「対人関係能力」などと訳されることが多いようです。コロナ禍で自宅学習になった折にも、SELを高めることにより、学習内容よりもクラスメートや先生との繋がりを意識し、学習意欲や学力の向上を目指すことが強調されました。

では、具体的に、SEL とはどのようなものなのか、見ていきましょう。

もくじ

SEL の一般的な情報

SEL は、1968年にコネチカット州の有色人種の多い小学校において、子ども同士や先生との人間関係を良くすること、安全な学校環境作り、子どもの行動や学力を改善することなどを目的に始められました。

その結果、子ども達の社会性や情緒的能力や自尊心が高まっただけでなく、出席率や学力が上昇し、生徒間や学校での問題が激減したと報告されました。その後、1994年の Collaborative for Academic, Social and Emotional Learning(CASEL)の設立に伴い、生徒、教育者、研究者、地域の専門家などが一体となり、子どもの社会的感情に向き合う必要があるという意識が急速に広まりました。

また、数多くの研究結果から、SEL は、将来に備えたスキルや能力を構築し、生涯にわたり、全ての子どもとおとなの幸せをサポートするために必要なものだと報告されました。

SELの5つの領域

CASEL によると、SEL は、次のような5つの領域での知識や、スキル、立ち居振る舞いなどを獲得したり適用するプロセスと定義されています。

これらの5つを学校の教育プログラムに取り入れることで、保護者や地域との連携の中で包括的にに子どものSELをサポートし、学校生活の中で社会性や感情の能力を効果的に身につけることができるとしています。

自己認識(Self-Awareness):自分の感情やアイデンティティ、長所や成長の必要な部分、偏見、目的意識などを認識するなど。

自己管理(Self-management):ストレス耐性、感情や衝動の管理や調整・コントロール、自己規律とモチベーション、根気や我慢、個人や集団での目標設定、オーガナイゼーション能力など。

他者への気づき(Social Awareness):他人に共感し、思いやる。感謝の表現。他の概念を取り入れる。多文化の尊重。帰属意識。社会的規範や要求の認識など。

対人関係での能力(Relationship Skills):支持的な人間関係を築いたり維持する。他人との効果的なコミュニケーションや協力。多文化に対応する能力。衝突や対立を解決する。チームワーク。他人を助けたり、助けを求める。リーダーシップスキル。他人の権利のために闘うなど。

責任や思いありのある決断(Responsible Decision-making):偏見のない好奇心を示す。問題を認識し、解決する。状況と結果を分析する。倫理的な責任。個人や集団の福利を促進することにおける自分の役割について考える。

教育現場での一般例

子どもの発達段階は、必ずしも年齢に比例しませんが、学童年齢別の課題の一例を、ご参考までにご紹介します。

幼稚園

  • 感情的な起伏を管理しながら仲間との交流を開始する。
  • 基本的な感情や経験などを管理する方法を理解し、早期に対人関係の問題を解決するための取り組みを行う。
  • 交代制などの社会的ルールを守り始める。
  • 大人との繋がりを保つ。

小学生

  • 一対一の友達関係や安定した仲間からの評判の形成。
  • 攻撃的な衝動を制御する。
  • 複雑化する社会課題を柔軟なバリエーションで解決
  • 適切な文脈で感情を示し、仲間グループ内での感情の制御を行う。

中学生

  • 他人に対するこれまでの理解に基づき、更に複雑な自分や他人の感情的状況を理解する。
  • 大人からの独立性を高めながらグループや仲間ベースのアイデンティティを形成する。
  • 一対一やグループで内の衝突や対立を解決できるようになる。

高校生

  • 他人とさらにに成熟した、分別のある関係を築き、同時に親や他の大人から感情的に独立する。
  • 独自の感情的視点を理解する。
  • 個性的な自分のアイデンティティを形成する(最初はグループベース、次に個別化)。
  • 倫理体系を身につけるために明確な価値観を習得する。

学校では、SEL がさまざまな形で毎日の授業内容や課題・教材などに取り入れられています。

例えば、感情を認識したり落ち着かせたりすることを習慣化するためにイラストやチャートを利用したり、マインドフルネスを取り入れたり、また教室の一部に気持ちを落ち着かせる場所が設けられたりしていることもあります。

言葉ではなく、アートやダンス・音などを通して感情を表現し、また、相手の感情を理解することを学びます。実際に五感を使ったアクティビティ、ロールプレイや議論・弁論、グループでのプロジェクト、自分の物語を話したり書いたり、ふりかえりの時間を確保する、また、一つの物語を仲間と作るなどの授業内容を通して、自己や他人への認識や対人関係での能力、責任感などを学びます。

日本でありがちな、先生が教えることを受け身体制で学ぶことや暗記することが主体の学習方法とは異なり、SEL では、自発的に学ぶことができる環境の中で、教材を通して先生やクラスメートとの人間関係を体験し、積極的に心や体、言葉などを使いながら、自分や他人への理解を深め、仲間内での自分の存在や役割、コミュニケーション能力などを学んでいきます。

親や保護者の役割

SEL は、日本を含め世界的に需要があり、今後も急速に広がっていくことが予測されています(Kenneth Research, 2022)。

親や保護者は SEL において大変重要な役割をしていますので、ここでは、ご家庭でもできることを一部ご紹介します。

1)SEL についての知識を増やす
SELについてもっと知りたいという場合は、この機会にぜひ、少しづつでも調べたり、ご自身のSELについて考えるお時間を作ったりしてみてください。お子さんの自尊心や健康な心を育むには SEL の5つの領域で紹介されていることが大人にも必要です。

SEL at Home(英語)
SELセルフチェック25問(日本語ビデオ)

2)安全な家庭環境
子どもが学校の環境が心理的に安全と感じられない場合、防衛機能が働き、効果的に学習することができません。それは家庭においても同じです。まずはお子さんが安心でき、安全だと感じることのできる家庭環境や家庭内での人間関係が前提です。

子どもと一緒にできるマインドフルネス実践法
子どもの心の安全基地

3)子どもと対話し、理解し合う機会を増やす
SEL について知識があってもなくても、親が子どもに教えたり、「子どものことはすでに良くわかっている」という接し方をしたりするのではなく、子どもから子ども自身のことを教わろうという形で接するのが望ましいと思います。

日本では、褒めて育てるよりも、足りないところやできなかったところを指摘して励ますという教育方針もよく聞きますが、良くできたところもできなかったところも、子どもが自分で認識する方が、大人に指摘されるより効果的です。子どもができなかったところを自分で認識できた時には、注意するのではなく、それがきちんと認識できたことを言葉にして認めてあげてください。

また、衣食住のことは十分でも、心理的に触れ合うことやお互いの感情について話し合う機会が少ないご家庭もあるようです。例えば、お子さんとの会話の中で、「学校どうだった?」と聞くと、お子さんが「大丈夫だった」と答えて会話が終わってしまうこともあるようです。代わりに、次のような質問をしてみるのはいかがでしょうか。

「今日は10点中、何点だった?どうしてその点数を選んだの?」
「今日あったことの中で、一番良かったことは何?」
「今日誰かに、ありがとうって言った?何があったの?」
「何かお母さんが知らないあなたことを一つだけ教えてくれる?」
「今日見たり聞いたりしたことで、驚いたことは何だった?」
「今日あったことで、何か一つだけ変えることができるとしたら、何?」

4)ワークシートなどを有効に利用する
ご家庭でも無料でダウンロードできるワークシートがたくさん公開されています。お子さんと一緒に使ってみると、お互いのことや感情について、自然に会話を広げるのに役立ちます。こちらはその一例です。

SEL は特定の子どもだけを対象にしたで学習はなく、すべての子ども、大人、地域コミュニティを対象とし、子ども達の声を聞き、子ども達やその家庭の社会への関与を促進する方法とされています。

でも、2016年からエクイティ(公平)を奨励することにおいても SEL が取り上げられるようになったことを受け、残念ながら、一部の人種差別や人権問題の場で適用される SEL に反論する意見を見聞きすることが出てきました。

また、SEL がアメリカ社会に広く浸透してきたとはいえ、それを日本独特の文化や価値観、お子さんの個性や性格などを考慮することなく押し付けようとすると、無理が生じて余計にストレスになることもあります。

大人は自分が受けた教育と、今日の教育が異なって戸惑うことがあるかもしれませんが、引き続き、家族全員で十分に話し合いながら、お互いに学び合う姿勢で接していくことが大切です。

佐野圭子 Ph.D., LMHC, NCC, SAS
メンタルヘルス&キャリアカウンセリング
CCC Counseling & Consulting
843 6th Street, Bremerton, WA 98337
電話:(360) 328-1233
【お問い合わせ】info@cccplace.com
【ウェブサイト】cccplace.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。読者個人の具体的な状況に関するご質問は、直接ご相談ください。

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