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第5回 解雇契約とそれに関わる問題点

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もくじ

別離・解雇契約(Separation Agreement)とは?

別離・解雇契約(Separation Agreement)は、雇用主が解雇する被雇用者に渡す契約書です。

解雇の理由として、企業の経済的な理由や不況で解雇する場合(layoff)と、首にする場合(fire)があります。この契約書に署名することによって、解雇の対象になった社員はたいがい解雇手当(severance)、あるいは退職金(retirement allowance)をもらうことができます。

ここでよくあるのが、職をなくす社員が「もらえるものはなんでももらっておこう」という気持ちで、契約書の内容を精読せずに署名してしまうことです。企業がこの契約書を渡す目的は、ただ単に「すみません」という気持ちで解雇手当(severance)を渡すことではなく、解雇契約書を交わすことによって、後に社員からの訴訟や問題を一切断ち切ることです。つまり、「お金はただではもらえない」ということなのです。

違法な解雇契約書とは?

雇用者が最も注意しなければならないのが、契約書の内容がそれぞれの州と連邦法に従った内容でない場合は、解雇契約書自体が無効になる可能性があるということです。

例えば、契約書で差別を理由に社員を解雇することはもちろん、社員の差別に関する調査などの協力を阻止するような内容は違法です。また、40歳以上の社員に対しては、OWBPA(Older Workers’ Benefit Protection Act)に基づき、7日間の撤回期間と21日間の契約書の署名を考慮する期間を設ける必要があります。さらに、契約書の内容については弁護士と相談することを薦める条項も設ける必要があります。

解雇契約書後の問題を防ぐには?

では、解雇においてどんなことが問題になるのでしょうか。

被雇用者にとっての問題:
解雇された社員が次の職を探している最中、ある企業が前雇用者にその社員の評判や仕事ぶりを問い合わせた時に、ありとあらゆる否定的なコメントをする可能性が十分あります。従って、契約書にこのような非難(disparagement)についての制限と約束を記載していない場合は、社員にとって問題になります。また、企業と労働災害補償などの未解決の支払いに関しての紛争があった場合は、それを解決した上で解雇契約に署名しないと、その支払いは期待できません。

さらに社員が注意すべき点として、解雇の理由自体が差別に基づくものと考えられる場合は、解雇自体が不当解雇になります。例えば、社員が直属上司の暴言やセクシャルハラスメント的な行動に対し不平を言ったため、その上司が雇用者に社員を解雇するよう申し出、社員が解雇されたというのがよくある例です。特に厄介な問題は、”pretext”(口実)といって、仮に本当の理由が差別であったとしても、通常、企業は差別的な理由は述べません。この場合は契約書に署名する前に、弁護士に相談することを薦めます。

また、下記にも述べていますが、競合禁止条項(Non-Compete Clause)が解雇契約書に定められていた場合は、退職金をもらう代わりに自分の将来の就職活動に制限を加えられるわけですから、契約書を署名する前に自分の将来のキャリアにとってどういう影響があるのかを十分考慮する必要があります。なお、Non Compete Clause については、2020年1月からワシントン州法改正によって条項自体が無効とみなされることもあることを確認する必要があります。詳しくは、第127回のコラムをご覧ください。

雇用者にとっての問題:
一方、雇用者側の注意点としては、社員が企業秘密を取得していた場合、その秘密漏れを防ぐ条項、つまり “Confidentiality” (秘密事項)や “Non- Disclosure Clause”(公開禁止)について記載し、社員がその企業秘密をもらすのを防ぐ必要があります。

さらに、会社の所有物の返還(Return of the Company Property)についてもはっきりさせておく必要があるでしょう。例えば、ある社員が会社から与えられた携帯電話を使っていた場合は、その権利と所有の変換を要求しない限り、携帯電話の所有権はもちろん、その中に保存していた連絡先などのデータまで社員に持っていかれる可能性があります。これは上記の企業秘密の開示防止とも密接な関係があります。

人員削減(Reduction In Force)のための解雇とは?

“Reduction In Force” は、企業、あるいは部署の経営が思わしくなく、多くの従業員を解雇しなければいけない場合に行われます。雇用者はこれを行なう際、その対象になった部署の社員の年齢・性別・人種などをよく検討し、差別的な解雇の仕方をしないよう留意しなければなりません。

いずれにしても、いったん社員がその企業の目的に見合った解雇契約に署名した段階で、”Reduction in Force” によって生じる法的問題をかなり軽減させることができるのは、企業にとっての利点です。しかし、一歩間違うと差別問題で告訴される可能性があるので、こうした組織的な人員削減の際は、弁護士と相談することを薦めます。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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