MENU

第77回 通訳・翻訳者の依頼人に関する証言について

  • URLをコピーしました!

今回は、第39回のコラム 「弁護士・依頼者間の秘匿特権(Attorney-Client Privilege)」に関連して、依頼人が通訳者を通して依頼人弁護士に相談した場合や、訴訟または裁判所提出用書類の手続きをした場合の情報保護の限界について簡単にご説明します。

まず、弁護士・依頼者間の秘匿特権(Attorney-Client Privilege)についてですが、依頼人が弁護士に相談し、その相談に対するアドバイスをした場合は、通常弁護士・依頼者間の秘匿特権として扱われ、弁護士はもちろん、依頼人も他人にその情報を漏らすことはできません。ただし、その情報自体の所有者は依頼人となるため、依頼人の判断によって、その情報を漏らすことはできますが、その情報を第三者に漏らした時点で、この秘匿特権は放棄されます。すなわち、第三者への情報開示をした時点で、その情報を訴訟の相手方が証拠開示手続きによって知る権利が発生します。

さて、通訳・翻訳者の役割についてですが、一般的には、依頼人が通訳・翻訳者を雇って弁護士と会話した場合は、通訳・翻訳内容はもちろん、通訳・翻訳者が入手した情報は秘匿特権(Attorney-Client Privilege)が該当します。しかし、弁護士・依頼者間の秘匿特権(Attorney-Client Privilege)の該当範囲とその是非は少し複雑になります。たとえば、もし依頼人が日本語で通訳者に伝えたことを通訳者が英語にして弁護士に伝えますが、その内容が正確に弁護士に理解されなかったとします。そして、英語で作成された裁判所提出用書類の内容が、依頼人の意図したことや伝えたことと相違した場合は、通訳者に伝えた内容については秘匿特権放棄となり、その内容の相違を陳述証明や召喚状を通して(書面や口頭で)説明するよう求められることがあります。Hulse v. Arrow Trucking Co, 161 N.C.App. 306 (2003)

さらに、相手方から入手した資料や証拠開示のためのレスポンス、および証拠開示を求める内容等を通訳・翻訳者を通して処理した場合は、弁護士と依頼人間の法的アドバイスとは関係しないため、通訳・翻訳者はその内容の正誤性を証明するために、相手方から証人喚問として依頼人との会話内容等について回答を求められることがあります。In re Chevron Corporation, 749 F.Supp.2d 141 (2010) 同様に、弁護士に相談するつもりがなく、依頼人が自分の考えや弁護士が考えていると “思われる” ことを 通訳者に伝えた場合は、本来の通訳者としての役割を超えた会話と見なされ、弁護士・依頼者間の秘匿特権(Attorney-Client Privilege)は該当しません。

最後に、通訳・翻訳者を介して裁判所関係書類を提出する場合には、必ず通訳・翻訳者が内容の正確さを証明する宣誓書または署名も提出する必要があります。

従って、通訳者同様、依頼人も通訳・翻訳者を介して弁護士とコミュニケーションをする場合は、上記の内容を考慮した上で、気をつけて通訳・翻訳者とコミュニケーションをする必要があります。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

  • URLをコピーしました!

この記事が気に入ったら
フォローをお願いします!

もくじ