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第6回 アメリカの雇用形態 – 正社員と契約社員の違い –

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日本では最近、正社員とは別に、派遣社員として働く労働者が増加しています。その理由は、派遣社員はいつでも解雇でき、また、企業と派遣社員の中間に派遣会社が関与することによって、企業が直接雇用労働問題の責任を負う必要がなくなるからです。日本の派遣社員の労働に対して支払われる報酬は、アメリカで類似した職種に支払われる報酬と比べると、かなり低いと言っていいでしょう。

アメリカでは、契約社員(contractor)が日本の派遣社員に類似した雇用身分となります。この契約社員には大きく分けて2種類あり、企業から直接採用される契約社員と、派遣会社から派遣される契約社員とに別れます。通常、派遣会社から派遣された契約社員の報酬は、企業から直接採用された契約社員に比べ、30%から50%低めとなります。では、なぜ被雇用者が派遣会社を通して職を見つけるかというと、日本のように就職雑誌などが出回っておらず情報がなかなか手に入らないため、派遣会社に職を探してもらうことによって職探しの手間が省けるわけです。さらに、企業側からすると、自ら広告を出さなくても派遣会社が適切な人材を探してくれる上、その人材に対して支払う金額は直接採用するのと同じであることから、費用対効果があります。

被雇用者としては、直接採用されるような機会、例えば知り合いを通して仕事を見つけるなどの運に偶然恵まれれば、その方が良い報酬を得られる可能性が高くなるでしょう。ただし、ここで言及している契約社員の場合は、いわゆるヘッドハンティングとは異なります。ヘッドハンティングの場合は、企業が派遣会社から紹介された人材に対してその人の想定年報額の20%から30%を派遣会社に支払うことによって、採用の契約が交わされます。企業としては、多額の報酬を派遣会社に支払わなければならないため、対象となるのは企業の幹部であったり、特殊な技術や経験を持っている社員がほとんどです。

さて、派遣会社から企業に派遣されて契約社員として仕事を始めた場合、いくつか注意しなくてはならない点があります。契約社員は30%から50%の減額報酬を企業からではなく派遣から受け取る上、多くの派遣会社が競合禁止契約(条項)を結ぶことで契約社員が企業と直接雇用契約を交わすことを阻止するケースが多いのです。契約社員として採用された後、当然ながら契約社員としては直接企業とやり取りすることで、派遣会社の取り分を自分の報酬にしようとするのは自然でしょう。しかし、競合禁止条項によってそれを阻止されているわけですから、逆に企業が派遣会社から派遣された契約社員を気に入って正社員としての採用を望んだ場合は、企業派遣会社に相応の金額を支払うことにより派遣会社と企業間の契約を相殺するというのが通常です。従って、企業側には余分な出費となるわけですから、その契約社員が特別な人材でなければ、契約社員から正社員になる道は、企業から直接採用された契約社員に比べれば、かなり難しいと言っていいでしょう。ただ、派遣された契約社員としては、1つの企業との契約が終了した後にはまた別の企業からの仕事を紹介されることになるので、悪い点ばかりではないと言えます。

さらに、雇用労働法の視点からすると、企業から直接採用された契約社員も派遣会社から派遣された契約社員と同じような立場と言えます。たいていの場合、問題があれば理由もなく解雇される立場であると認識しておいたほうが良いでしょう。いわゆる退職、および解雇自由の原則(Employment at Will)が採用される上、正社員のように社員手引きに沿った雇用・労働規則で拘束されていないため、いじめなど社員間の問題が起きた場合はよほどの事情がない限り正社員と同等の待遇は受けられず、特別の調査もなく解雇されるわけです。従って、一緒に働いている社員やその上司とのトラブルに関しては、すべて派遣会社を通してやり取りをするのが賢明でしょう。

しかし、派遣会社側は、現場の仕事状況をよく把握していない上、調査に必要なドキュメントなども所有していないため、問題を解決するための手段や情報源を持ってないことが問題です。従って、問題を解決するよりはむしろ、企業と契約社員の関係を断ち切り、その解雇対象になった契約社員のために次の雇用者を探すのが現状のようです。

ただし、差別などの問題については、連邦法によってすべての労働者の権利が守られているため、契約社員であろうと正社員であろうと関係なくクレームをつける権利があります。ここで気をつけなければいけないのは、差別問題は、いじめや嫌がらせなどの人間関係問題とはその性質と法的効力が全く違います。いじめを差別だと勘違いし、企業に直接苦情を出すと、上記でも述べたように、即解雇の対象になりかねません。差別をされていると思ったらまず、派遣会社の責任者に連絡をするか弁護士に相談するかし、派遣会社と企業に直接その問題を解決させるのが適切でしょう。結果的にいじめだと判断されたとしても、企業と派遣契約社員が直接やり取りするよりは、第3者を利用するほうが良いでしょう。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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