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第4回 アメリカの雇用契約とそれに関わる雇用上の問題と解決

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もくじ

期間の定めのない雇用契約(Employment at Will)とは

最近、ほとんどの企業がこの期間の定めのない雇用契約 『退職、および解雇自由の原則』(Employment at Will)を採用しています。

これは、雇用者被雇用者両方に対して会社を辞めるか辞めさせるかの自由をお互いに与えるものです。企業にとっては、経済の状況や社員の適性によっては自由に解雇できるので比較的有利なケースが多いのが現状ですが、もし社員のトレーニングに費用と時間がかかったり、その社員と同じ技術と経験を持つ労働者がなかなか見つからない場合は、期間と制約を設けて雇用契約をする場合もあります。

それに対し、社員にとっては、もし他にいい仕事が見つかった場合はいつでも退職する自由を与えていられるので、経済状況が良い場合(求人の数が多い場合)は有利ですが、不景気の場合はあまり望ましくありません。

雇用者が注意しないといけない点

雇用者が注意しなければいけない点は、”Employment at Will” だからと言って、どんな理由があっても社員を解雇できるわけではないということです。下記がその例です。

  • 市民的権利(Civil Rights)に違反する行為がもとで解雇する場合。例えば、差別によるもの。(差別については第1回のコラム参照)
  • 公の秩序(Public Policy)に反する行為がもとで解雇する場合。例えば、労働災害補償や育児介護休業を利用した社員を、それを理由に解雇した場合や企業幹部の違法行為を公にしたために解雇した場合。〈これについては第2回のコラム参照)
  • 雇用契約上の条項に違反して解雇した場合(Breach of Contract)。例えば、雇用契約上ではペットを職場に同伴しても良いと規定しているにも関わらず、ペットを同伴したことによって解雇した場合。〈これについては下記を参照)
  • 職場で起きた不法行為(Tort)による問題がもとで解雇した場合。プライバシー侵害や私的暴言暴行に対する防御によって起きた社員間の問題によるもの。例えば、他の社員がペットを職場に持ち込んだためにアレルギー反応が引き起こされた社員が、それによって仕事ができなくなったため欠勤せざるを得ない状態が続いたことで解雇された場合。

雇用契約によくある内容とその注意点

雇用契約書あるいは社員手引きには多くの条項が定義されていますが、その主な内容は下記のとおりです。

  1. 雇用期間
  2. 社員に対する期待と基準点
  3. 手当てと給付金およびボーナス
  4. 情報の秘密保持
  5. 競合禁止契約
  6. 業務上入手された情報に関する所有権
  7. 解雇に関する規定とその契約
  8. 社内紛争の解決方法

1~4に関しては理解しやすい部分ですが、5~8に関しては退職後にお互いの理解の違いによって問題になりやすい分野です。下記に5~8の項目について簡単にご説明します。

5)競合禁止契約(Non Competition Agreements)
これは、社員の退職後にある一定の期間にわたり、社員の職業選択を制約するための契約で、企業によって、あるいは業界によって異なります。大概は、退職後1年から2年の間は、社員が雇用されていた企業と競合する他の企業で働くことは禁止されています。また、社員が働いていた期間に得た顧客を他の競合会社に移行、または自分の顧客にすることも禁止する場合があります。この “Non Competition Agreements” はカリフォルニア州では無効ですが、ワシントン州では内容によっては効力を持っています。しかし、最近のワシントン州最高裁判所で判定されたケースでは、競合禁止契約書を交わす際に、何らかの対価と報酬を社員に与えない限り、契約は無効と判定されました。従って、雇用する代わりに競合禁止契約書を結ぶ場合は有効でも、雇用した後に競合禁止契約書を結んだ場合は、社員に昇進やボーナスなどのなんらかの対価を与えない限りは無効であるということです。

6)業務上入手された情報に関する所有権(Ownership of Inventions and Confidential Information)
業界によっては、社員の仕事によって技術の発明や貴重な情報が生み出されることがあります。しかしながら、この条項が雇用契約書に記されている場合、大概その社員の仕事上の考案などは企業に属するとされています。

従って、社員が退職した場合、その社員が考案・発明した製品やアイデアは、他の企業で働く際には利用、および販売はできないことになります。また、業務上得られた知識や情報に関する秘密保持も求められることがよくあります。

7)解雇に関する規定とその契約(Termination)
解雇の方法については上記で説明したような期間の定めのない雇用契約(Employment at Will)の場合と解雇理由(Termination for Cause)を定めた場合と大分ちがいます。解雇理由を定めている場合は、理由がなければ〈雇用期間が満たなければ)解雇できませんが、期間の定めのない雇用契約の場合は、不当解雇以外は理由なしで解雇できます。いずれにしても解雇の方法は大概契約書に規定してあり、社員に前もって通知通告をするのが通常です。

ここで企業が気をつけなければいけない点は、解雇の理由があろうとなかろうと、不当解雇の疑いの可能性を避けるためにも、社員が企業にとって適切でないと判断した段階から、罰則や訓練などの通告をし、その書類を残しておく必要があります。また、社員にとっては、不当な扱いを受けていると判断した場合は、企業の人事部、または法務部に連絡をとり、職場改善の努力を自ら行う必要があります。これによって不当解雇を避けることができます。

8)社内紛争の解決方法(Grievance Procedure)
大企業になればなるほど紛争の解決方法が綿密に決められているのが現状ですが、これは紛争に関して社内で公平な判断と解決をすることによって訴訟にかかる費用を抑えるためです。よくある紛争解決の手順とは、社員が他の社員と問題があった場合、直属の上司にまず報告し、その上司がまたその上の上司との話し合いをした上で、人事あるいは法務部(HR:Human Resource)に問題を提示します。しかし、皮肉なことに、多くのケースでは社員が上司に不満や問題を抱えているため、社員が人事部(HR)に直接話をすることになります。HR では問題をすべて記録し、必要に応じて社員の上司(問題のある社員)と話し合い、ケースによっては他の社員にも質問をするなどの調査を要することもあります。その後、問題解決の方法を決定します。この手順を無視して、問題があったからといって勝手に退職しその後に訴訟を持ち出しても、社員に勝ち目は余りありません。

最近よくある例としては、社員が職場にペットを持ち込み、それがもとで他の社員からの苦情や嫌がらせを受けたというケースです。ペットの職場への持ち込みそのものは違法でなくても、そのペットが他の社員に被害を与えていた場合、仮に社員手引きでペット持込が許可されていたとしても、ペットの持ち主はその被害に対しての責任(損害賠償)を負わなければなりません。一方、ペットを持ち込んだことによって被害が発生していないのに周囲から嫌がらせを受けた場合は、HR または上司を通してその問題を解決します。ただし、ペットの持ち込みに関しては、大抵の企業は許可を与えていないので、持ち込む前に社員手引きを確認するか、人事課に申し出るかのどちらかをお勧めします。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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