ワシントン州での離婚の法的手続きの基本について、「第74回 ワシントン州における離婚手続きについて」で紹介しました。離婚の法的手続きは、結婚した場所、結婚生活をした場所、結婚生活中に得た財産・不動産のある場所、子どもが住んでいる場所などによって異なります。今回は、離婚の法的手続きの管轄地について、主なパターンを簡単にご説明します。
日本人同士が日本で結婚し、子供が日本で生まれたが、その後、ワシントン州に移住して住んでいる場合
- ワシントン州の裁判所で離婚を申請し、成立させることができます。
- 日本の役場に離婚届を提出するだけでも、離婚が成立します。
- 日本では養育費(child support)、育児計画(parenting plan)、扶養家族手当、共同財産の分配が義務づけられていませんが、ワシントン州では離婚の際これらの義務が規定に従って決定されます。特に、ワシントン州に親子が在住している限り、ワシントン州裁判所が管轄権を得る可能性が高いため、仮に日本に共同財産があっても、日本で結婚をしていても、ワシントン州裁判所に離婚申請をするのが一般的です。
日本人同士が米国で結婚し、その後、子どもが米国で生まれ、ほとんどの結婚生活と育児をワシントン州で行っていた場合
仮に日本人同士が日本で婚姻届けを提出せず、米国の市民権を保持していなくても、ワシントン州の裁判所が離婚に関する管轄権を持ち、上記の養育費(child support)、育児計画(parenting plan)、扶養家族手当、共同財産の分配についての規定に従って、離婚が成立します。
日本人と米国人が米国で結婚し、日本に婚姻届を提出せず、子どもが米国で生まれ、ワシントン州で育児をし、婚姻中に得た財産がワシントン州にある場合
- 仮に後日、日本に婚姻届を提出したとしても、ワシントン州の裁判所が離婚申請を受け、離婚を成立させるための管轄権があります。
- ワシントン州での手続きが完了した後、日本人側が日本で離婚届けを提出することで、その日本人の戸籍に離婚した事実が記載されます。その際、日本には提出していなかった婚姻の事実も同時に提出する必要があります。
日本人と米国人が米国または日本で結婚し、子どもが生まれ、その後、米国人の配偶者をワシントン州に残し、日本人の配偶者が子どもと日本で住み続けた場合
- ワシントン州と日本どちらにも管轄権があるため、通常、最初に離婚申請を提出した裁判所がある国で、離婚手続きをします。
- 仮に、日本人の配偶者が日本で離婚届けを出したとしても、ワシントン州に婚姻中に得た財産があり、ワシントン州に住む米国人の配偶者との婚姻届けが日本に提出されていなければ、日本で離婚届けを出しただけでは、離婚が成立しません。
- しかし、子どもの監護権がおそらく日本にあるため、監護権については日本で決定される可能性が高いうえ、日本に子どもと住む日本人配偶者が日本で離婚裁判を起こせば、離婚に関する管轄権の優先権が日本になることもあります。その際、日本の裁判所の命令書をワシントン州に登録し、ワシントン州でも離婚の事実を記録することが可能です。
日本人と米国人が日本で結婚し、主に日本で生活し、日本または米国のどちらかで生まれた子どもを日本で育て、アメリカ人の配偶者がかつて結婚生活をしたことのあるワシントン州で離婚申請をした場合
- ワシントン州が管轄権を取得することが可能です。
- Long Arm Statuteといって、仮に離婚申請時に両親と子どもの誰もワシントン州で生活していなくても、ワシントン州でも結婚生活をしていたという事実があり、ワシントン州で(日本ではなく)離婚申請書が提出されれば、ワシントン州に管轄権に関する優先権が発生することもあります。
いずれにしても、市民権に関係なく、子どもの居住地、共同財産のある場所、夫婦の居住地によって、米国と日本のどちらが離婚を管轄する権利があるかが決定されます。
米国と日本のどちらにも管轄権があるとみなされた場合、通常、最初に離婚申請・手続きをした側、国、または州が、管轄権を持つことになります。
夫婦のどちらかがワシントン州に住んでいれば、ワシントン州裁判所が管轄権を得ることが可能です。
さらに、子どもの監護権の決定に際しては、通常は子どもが過去6カ月間に住んでいた場所によって、監護権を管轄する州が決定されます。なお、離婚の管轄権と子どもの監護権が別々に決定されることもあります。
共同財産の分配については、仮に財産が米国外にあっても、夫婦と子どもの居場所が管轄権を決める大きな要素となります。したがって、ワシントン州が日本の共同財産を分配することもあります。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
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