企業の商業取引では、さまざまな種類の契約書を交わします。主なものとしては、業務委託契約や製造契約が挙げられますが、これらの契約書では問題が発生する頻度が多いのが実情です。
今回は、日本企業と米国企業の契約交渉や契約上の問題の処理に対する考え方の相違について簡単にご紹介いたします。
契約書を作成することの利点
まず、契約書はどちらの企業が作成するかという視点から検討します。通常、米国企業が作成し、日本企業がその内容を確認した上で回答と変更を求める形が圧倒的に多くなっています。
日本企業にとっては、米国企業の要求する条項に対して反論または改定を求める機会があるわけですが、最初の下書きを確認した時点で相手側の姿勢が判断できます。つまり、契約書の内容が一方的な要求か、それとも日本企業の権利を尊重したものか、またはその中間か、お互いの契約上の勢力を試すこともできます。
しかし、日本企業が契約書を作成すれば、最初の時点で、日本側の要求を全面に出すことができるため、交渉も有利に運べるという利点があります。
契約違反における日米の対応の違い
さて、契約の交渉と変更の末、取引を開始したとします。その後に起きた問題は、契約書に従って問題を解決します。もし、一方が契約違反をしたと判断した場合は、双方の交渉と問題解決の手段が決定されますが、この過程については、日本側と米国側企業の進行方法に大きな相違があります。
米国企業が契約違反をした場合、日本企業がとる一般的な対策は、自社の評判と長期にわたる関係と信用性を重視するというものです。反対に、米国企業は一般的に、仮に自社が契約違反をしていても、自社に有益に交渉を進めれば成功と考える傾向があり、あくまでも自社の利益と損益のバランスにおいて対策を決定します。
とは言え、日本企業が利益を考えていないのではなく、ビジネスの判断として契約上の規定に必ずしも準拠できるわけではないという理解を相手に示すことにより、長期的に見て容赦することが最終的な利益になるのだという判断が日本的な考えと言えます。
しかし、このような日本企業の考え方が裏目に出ることもよくあります。例えば、日本企業が米国企業に納品したにもかかわらず、米国企業からの支払いが期日になされなかった場合を考えてみましょう。米国企業は、銀行からの融資を求めている、または専売特許申請中である、企業組織の再構築中であるなど、さまざまな理由を提示し、支払いの延期を求めているとします。その際、日本企業はそれらの理由が真実であるかどうかを探ろうとしますが、裁判所を通さなければ、米国企業からこれといった情報を入手できないのが一般的です。
つまり、米国企業から真実の情報を得るには、告訴/申請書を裁判所に提出し、その後、ディスカバリーという宣誓の下で強制的に情報・証拠開示の裁判所手続きを経て、ようやく相手企業から未加工の情報が得られるわけです。
このように、米国企業側は、問題または契約違反が日本企業に発覚され問題として取り上げられた段階で、 裁判所を通さずに情報開示することを拒むのに対し、日本企業は、企業同士が自社の評判や長期にわたる関係を重視するため、米国でいう、告訴して証拠開示を求めるところまで行く前に、お互いの関係を修繕し、支払いの見通し等を立てた話し合いを正直にし、業務再開を目的に交渉を続けます。
米国企業と長期の関係が可能になることもありますが、日本企業が検討・交渉している間に、米国企業が倒産宣告を提出し、債権回収が不可能になるということもあります。従って、戦略とタイミングに関しては、専門家と相談しながら決定していく必要があります。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
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