契約書にはさまざまな種類があります。日本では1~2ページの支払い方法と仕事内容の概要を記載したのみの契約書が多いですが、米国の契約書は11~15ページぐらいのものが一般的で、中には50ページにわたる契約書もあります。
例えば、1)販売契約書、2)業務委託契約書、3)使用許諾契約書、4)株主権契約書、5)株式購入契約書、6)投資家契約書、7)秘密契約書、8)雇用契約書、9)別離契約書、10)競業禁止契約書、11)約束手形契約書、12)建築契約書、13)賃貸契約書、14)販売代理店契約書、15)共同経営契約書等が、よく使用される契約書です。
なぜ米国では契約書が複雑かつ大量なのかというと、米国では “信頼” よりも、”契約” に基づいて事業や生活が成り立っているからです。もちろん、米国でもある程度の信頼がなければ契約は交わしませんが、二者間の関係が揺らぎ始めた場合、一方が契約条項に記載されている内容を武器に自分に有利な方向に取引を進めるなどして、相手を不利な立場に追いやるような状況が頻繁にあります。従って、契約書の内容は、商取引上、二者間の力関係に大いに影響されると言えます。
一般的には契約書を効率よく読むためには経験と法律の知識を必要としますが、一般の方でも契約書の目的と趣旨さえ理解していれば、手際よく問題点・重要点を見極めることができます。特に商法に関する契約書の場合は、自分の企業と相手の企業の関係を知るとともに、契約終結によってどのようなリスクや影響が自社にもたらされるか等の将来に対する注意深い考察が要求されます。それを予測した上で弁護士などの専門家と相談すると、相談料を抑えることができるのはもちろん、専門家に自社の問題をより明確に理解してもらうことができ、その問題にもとづいて専門家も契約条項の作成と問題に関して容易に対応できます。専門家の重要な役割としては、契約書を作成する過程において、クライアントとの対話とニーズに従って訂正を入れたり、相手企業との交渉をしながら契約書内容を変更をしたり、その変更による事業への影響を判断したりすることがあげられます。
企業家が契約書を確認する際に重要なのは、企業間の力関係への影響はもちろん、契約によって発生する企業経営への経済的影響です。リスク・マネジメントとも言いますが、 1)相手企業から発送された商品に不備があった場合どうするか、2)企業秘密が他に漏れたらどうするか、 3)企業の知的財産をどのように守るか、4)相手企業の経営が危なくなったらどのように対応するか、5)商品発送が遅れ、顧客対応に問題が起きたらどうするか、6)契約書解約の際の手続き方法とその理由についてや相手への告知についての方法をどのようにするか、7)商品の支払いが滞納した場合どのように対応するか、8)第三者および顧客・販売代理店に問題が起きた場合はどのように対応するか、9)訴訟になった場合、それらの第三者や販売代理店に対しての賠償責任をどのように対応するか、10)裁判所での裁判で問題解決をするのか、または調停を通して問題解決をするのか、11)どこの法律を適用するのか、またどこで問題解決をするのか等、転ばぬ先の杖として多くの潜在的問題を考慮に入れなければなりません。また、いくつもある条項間で内容に矛盾がある契約は業務上の混乱を起こしかねませんから、契約書の確認は意外に時間のかかる作業です。いずれにしても、最終的には企業の予算に基づいて、契約によって見込める企業収入とリスクや出費とのバランスのある内容になっていることが重要です。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
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