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アメリカの給与制度の基礎知識

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もくじ

CPI と昇給率の関係

米国では、昇給率は、CPI(Consumer Price Index/消費者物価指数)と関係なく、主に人材マーケットの需給バランスを考慮して導き出されます。日系企業では昇給率を CPI と同程度にしたという声がよく聞かれますが、物価上昇分の賃上げは実質昇給がないに等しく、優秀な従業員を落胆させ、転職活動に向かわせる危険をはらんでいます。アメリカでは CPI ではなく、平均昇給率データを参考にしている企業が多いです。

給与制度の意義

現在の企業規模が小さい場合、給与制度がなくても特に不便は感じないかもしれません。しかし、従業員から出る昇給率への不満に対する質問に回答しやすくなる、組織全体に公平感を与えられる、ひいては訴訟りすくなどの軽減にも有効といったメリットがあります。また、日系企業に見られるように、勤続年数の長い従業員が毎年昇給し続けた結果、給与相場から乖離した高給を得るようなケースに対処するためにも、企業規模とは関係なく、適切な給与制度の構築は必要です。

給与金額の決定方法

一般的に、米国では各職務の会社への業績貢献度を基準に給与金額が決定されます。例えば、IT 企業におけるヘルプデスクとアカウンタント(会計士)のどちらがその企業の業務に貢献するか検討した場合、多くはヘルプデスクとなります。このように、業種によって変化する各職務の貢献度をもとに労働市場の平均賃金と比較しながら独自の給与体系を構築します。例えば、ヘルプデスクの自給相場が$35、アカウンタントが$30の場合、同じヘルプデスクでもIT企業では$40、会計事務所では$25に設定します。

また、各職務の給与には上限を設けることも非常に重要です。これは労働市場と比較する場合もありますが、会社独自とする方が必要な従業員を長く維持することができます。例えば、IT 企業におけるヘルプデスクは平均賃金が$35のところを$60を上限とし、経理スタッフはヘルプデスクより業績貢献度が低いため$35を上限とするなどです。

給与が上限に設定した金額に達した場合の従業員への処遇は、昇格する評価を得ていない以上、いたし方ないことであり、これによる退職もやむを得ずと考えるのが妥当です。売り手市場と言われる中、少々ドラスティックな方法と思われるかもしれませんが、まだ終身雇用ベースの考え方が残る日本と異なり、アメリカでは適正な離職率は必要な人材の維持や昇給予算の極端な上昇を防ぐ意味でも必要なのです。

給与と人事考課の関係

昇給方法や給与制度の構築方法はさまざまな人事の教科書に戦略とともに解説されていますが、いずれも人事考課が適切に実施されていることが前提となります。公明正大な評価が実施されていない場合、どのような昇給率であろうと、必ず不満が出ます。近年、Google のような超大企業では、人事考課制度を廃する傾向にありますが、これは完全に評価がなくなるのではなく、プロジェクトベース評価や随時評価などで適宜対応しているためで、一般企業で適切に運用するのは至難の業です。実感としては、一般的な1年に1回から多くても四半期に1回が妥当な回数と思われます。

給与制度の活用方法

大規模事業所ではセオリー通りに給与制度を構築し、自社にとって最適化された制度を運用することで、法的リスクを回避できますが、中小規模の事業所では給与制度自体に一定の柔軟性を持たせ、現在雇用している従業員にあわせて運用するのが最善策と考えます。下記は給与制度の一例です。

給与制度や昇給は優秀な人材を確保し定着させるひとつの要素に過ぎませんが、それでもやはり最も重要な要素だと言うことができます。日系企業のマネジメントは日本の賃金水準や賃金制度と比較する傾向があり、ともすれば「円換算すると」「日本本社のポジションなら」「この年齢だと」といった考えをしがちですが、日本よりも米国の方が総じて人件費が割高であり、かつ人材の流動性も高いことを理解する必要があります。そして、適正な人件費を維持するためには、優秀な従業員とそうでない従業員とでメリハリをつけることも重要になります。

総合人事商社クレオコンサルティング
経営・人事コンサルタント 永岡卓さん

2004年、オハイオ州シンシナティで創業。北米での人事に関わる情報をお伝えします。企業の人事コンサルティング、人材派遣、人材教育、通訳・翻訳、北米進出企業のサポートに関しては、直接ご相談ください。

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