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第8回 自己肯定感の育み方

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モンテッソーリ教育

「自己肯定感」という言葉を、ここ数年でよく耳にするようになりました。

教育の現場だけでなく、子育ての本やセミナーなどでもよく使われる「自己肯定感」とは、いったいなんでしょうか。

それは、「自分はそのままで良い、ありのままで良いのだ」というありのままの自分を認める気持ちがあり、自信があることです。自分のことが好きで、自分という土台がしっかりあると、他者や自分の周りの世界を肯定的に受け入れることにつながっていきます。

日本でも2020年度から小学校で、2021年度から中学校で、2022年度から高校で、それぞれの学習指導要領が改訂され、受け身の教育からもっと主体的な「アクティブラーニング」を実施することが決定されました。

学習指導要領の改訂版では、これからの社会を生きていくための力として、「人間性」「考える力、判断力」「知識と技能」の3つの柱が掲げられています。これからますますテクノロジーが進歩し、多様化するグローバル社会を生きていくための人間力を子どもの時代から築いていきたいと願うのは、国でもコミュニティでも各家庭でも共通していることと思います。

そんな考える力や人間性を築いていくには、やはり、自分を信じる力、自己肯定感が土台になります。

もくじ

自己肯定感の育み方

モンテッソーリ教育

モンテッソーリ のお教室では、ワークサイクルという言葉がよく使用されます。

一つのお仕事(アクティビティ)を「選び(選択する)」、「取り組む(集中する)」、「完了する(お仕事を元の場所に戻す)」、という学びのプロセスのことです。

このワークサイクルを繰り返し、練習を重ねることで、子ども達は、集中力、自己肯定感、技能を培っていきます。

この最初のステップにあたる、お仕事を「選ぶ」という機会が、モンテッソーリ の園では子ども達にふんだんに与えられます。教室には何十ものお教具が棚に美しく並んでおり、子ども達は自分の敏感期のニーズに合った活動、つまり自分の興味や好奇心からお仕事を選ぶことができます。この「自分で決定する」という機会がふんだんに毎日あることで選択が習慣化していきます。もちろん自分で選択をしたのですから、他人が選んだ活動よりも興味を持って取り組むことができます。教室にはバックルをつけたり外したりする教具に夢中になって繰り返し取り組む子どもがいたり、毎日お水でお洗濯のお仕事を楽しむ子がいたり、りんごやチーズをスライスすることに夢中になる子どもがいます。周りが声をかけても気がつかないほど集中する「集中現象」が起こることもあります。

また、選ぶということには「責任」が伴うことも同時に学んでいきます。自分で選んで取り組んだ教具は、もともとあった場所に戻すということも練習していきます。登園したての頃は忘れてしまい、なかなかできなかったお片付けが、繰り返し練習することでできるようになっていきます。年中や年長になると、新しく入ったお友達に「ここに戻すんだよ」と優しくガイドしてあげるようになったりする姿を見ると、子ども達の成長を感じます。

でも、お仕事を終了し、棚に教具を戻せば、お仕事が完了するわけではありません。常に次の人が気持ちよく使用できるように、きれいに整えて戻すということを大切にしています。例えば、鏡を磨くお仕事に取り組んだ場合には、使用したコットンボールはゴミ箱に捨て、磨くために使用した小さな布はランドリーバスケットに入れて、新しいコットンボールと洗濯されたきれいな布を次のお友達のために用意して、お仕事が完了となります。椅子を使用した後は、椅子を戻す(他の人が周囲を歩きやすいようにするため)など、普段の小さな配慮は大切なコミュニティの一員としてのレッスンになります。

インターナルインセンティブ

さて、こうしたワークサイクルが繰り返されると、そこには満足そうな、なんとも言えない達成感に満ちた子ども達の顔があります。もちろん、繰り返し練習することでさまざまな能力も習得されていきます。モンテッソーリの環境では心の内面から込み上げる学ぶ喜び、何かに集中してできるようになった習得した喜びがインターナル・インセンティブ(internal incentive:内側から湧き上がるやる気)となって、次への挑戦の気持ちにつながっていきます。

先生からご褒美がもらえるからがんばる、といった外からのインセンティブではなく、もっともっとできるようになりたいという、子どもの内からふつふつと湧きがるやる気が、モンテッソーリの環境では重要とされています。

大人の役割

モンテッソーリ教育

自分で決めて、自分で取り組んで、自分でできるようになったという満足感は、自己肯定感を生みます。

では私たち大人の役割は何でしょうか?

モンテッソーリの環境において子どもが集中している瞬間は宝の現象と心得て、妨げない、できる限り邪魔をしないことをとても大切にしています。集中している時はつい大人も感動して「すごいね!」と声をかけてしまいたくなのですが、ここではそっとしておいてあげること、少し遠くから見ていてあげることが大切になります。

できなくて困っている場合には、「お手伝いしても良いかな?」と声をかけて、やり方を丁寧に見せてあげるということができるかと思います。

また、ワークサイクルを子ども達に体験してもらうためには、大人側が棚に教具をわかりやすく配置し(ご家庭ではおもちゃや文房具、絵本など)、子ども達の目線からも教具が戻しやすいように配慮し環境を作ってあげることが大切になります。ご家庭でもどうしたら「子どもが一人でできるようになるか?」という目線で環境作りを心がけると良いかと思います。

そして、子どもが一人でできた時は、褒めるというよりも、認めることや感謝の気持ちを伝えることを意識します。例えば、「ずっと見ていたよ。とてもよく集中して指先を動かしていたね」「パジャマが一人で着れたね!最後まで諦めずにがんばったね!」「お皿洗いをお手伝いしてくれてどうもありがとう。ママはとても助かったよ!」など、実際にお子さんががんばっていた様子を言葉で伝えてあげることで、子どもにとって周りに認めてもらい感謝してもらうという体験になります。

子ども達が自分自身で決断する機会やワークサイクルを繰り返し練習する機会を得て、周囲から心の栄養になる声がけを受けることで、自己肯定感が育ち、しっかりした人生の土台となることを願っています。

掲載:2021年8月

文・写真:斉藤カルコーヴァン智美
慶應義塾大学文学部、シャミナード大学院幼児教育学科卒。ワシントン州ベルビュー市にある日本語と英語のバイリンガル幼稚園、ピカケスクール園長。日本では株式会社オリエンタルランドが経営するチャイルドセンターの立ち上げに携わり、プログラム・マネージャーを務めた。渡米後はモンテッソーリの教員として、ハワイとシアトルで約14年間勤務。2017年夏にベルビュー市でピカケスクールを創立。
Pikake School: www.pikakeschool.com

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