前回のコラムでは別離の心の痛みのメカニズムについてお話しました。では自分にとって大切な人を失うことによる心の痛みは、どのような過程を経て解消するのでしょうか。
大切な人を失う経験から立ち直るためには、次のような課題を段階的にこなしていく作業が必要になります。これらの段階は本人の努力を要します。がんばっているのに先に進まない、あるいはある段階で足踏みしている、と感じたら、心の専門家に相談することをお勧めします。
1)喪失の現実を受け入れる:
喪失からの心の立ち直りの第一歩は彼・彼女は自分の人生から去っていったのだということを受け入れることです。自分にとって大切な人を失う時、程度の差はあれ喪失の現実を受け入れることは誰にとっても難しいものです。多くの人は「相手を失うことが信じられない」という感じを経験しますし、中には実際に「信じない」ことに徹する人もいます。喪失を受け入れることが激しい心の痛みを生じるために、別れの事実を否定し現実を受け入れないことで、心のバランスをとっているのでしょう。しかし、別れの現実の否定はその後の心の健康の回復のプロセスを遅らせることにつながります。逆に、この段階を超えられたらひとつの大きな山を越えたと言えますし、その後の作業がスムーズに行きやすくなります。もし自分がこの段階で足踏みしていると感じたら、心の痛みの治療を専門とするプロに相談するのが良いでしょう。
2)喪失による悲しみと心の痛みと向き合い、対処する:
大切な人を失うことは悲しみと心の痛みを伴いますが、多くの人はこれらの感情を感じることを避けようと努めます。残念ながら、家族、友人、あるいは世間一般が別離による人の心の痛みを無視する傾向があるため、別れを経験する本人は悲しみを十分に経験するチャンスがないまま、先に進まなくては、というプレッシャーに苦しみます。その結果、感情を抑え、「気持ちを感じないようにしよう」と努めることになります。しかし、気持ちを感じなくすることによって、心の傷は癒えないばかりでなく、癒しの作業を遅らせてしまいます。直感に反しているかもしれませんが、この段階では十分に気持ちを経験することを自分に許しましょう。そしてそういう場を提供してくれる人や場所を大いに利用しましょう。
3)相手がいない現在の生活環境に適応する:
今まで一緒にいた相手がいなくなると、生活のいろいろな場で違和感を感じるでしょう。外的な変化ばかりでなく、自分の内面でも大きな変化が訪れるでしょう。これまでは誰かの妻・夫・ガールフレンド・ボーイフレンドであった自分の社会的アイデンティティが変わることにより、居心地が悪いと感じることがあるでしょう。相手がいなくなった今、その外的・内的な変化に適応していく必要があります。新たな場、人との出会いを大切にし、新しい繋がりを確保していきましょう。
4)いなくなった相手から精神的に自立し、新たな人生を歩み始める:
この段階にたどり着くまでに、別れた相手と自分との間には大きな関係の変化が起こったことでしょう。自分にとって一度大切だった人は、その人と別れたからといって大切でなくなる必要はありません。むしろ相手が自分にとってどのように重要な意味を持つのかを、あるいは持っていたのかを自覚している人ほど、きれいに関係が解消できているのだと言えます。大切だった人との思い出が自分の内面できれいに収まっていると感じたら、別れの心の痛みが解消されていると言えるでしょう。
戸村 みゆきさん PhD, Psychologist
臨床心理学者。1998年、シアトル大学心理学科卒業後、2002年に同大学の心理学科修士課程卒業。2010年、セイブルック大学の心理学博士課程卒業。専門は心理療法とペアレンティングエバリュエーション(Parenting Evaluation/離婚訴訟時の子育て能力審査)。日英両語で、個人、家族の諸問題に幅広く対応。豊かな人間関係を育みたい、自己の可能性を広げたい、健やかで充実した人生を送りたいと望むあなたの心の旅をサポートします。
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掲載:2013年2月
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