米国の贈与税(gift tax)と遺産税(estate tax)は、所得に対する税金ではなく、贈与や相続、つまり財産の移転(transfer)に伴って課される税金です。
贈与税と遺産税は統合されており、生涯の基礎控除額(applicable exclusion amount)という一つの枠があります。簡単に言えば、その人の一生の中で移転された財産の合計に対して課税される移転税(transfer tax)というシステムです。2024年の生涯基礎控除額は一人につき$13,610,000と、かなり高額です。
また、ここで言う「贈与」と「相続」の違いですが、「贈与」とは生きているうちに財産を誰かに贈ることで、「相続」とは亡くなった人の財産や義務を引き継ぐことです。
米国連邦贈与税(gift tax)
米国連邦贈与税とは、贈与する人に対する課税制度です。贈与税申告・納税の義務は贈与する人にあり、贈与を受ける人にはありません。
なお、ワシントン州には贈与税という制度そのものがないので、ワシントン州居住者がいくら贈与しても州に申告する必要はありません。
2024年度の年間非課税贈与額の枠(annual exclusion)は受け取り人一人につき$18,000となっています。例えば、Aさんから、Bさん、Cさん、Dさんの3人それぞれに$18,000を非課税で贈与できますし、また夫婦から子供に贈与する場合、夫から子どもへ$18,000、妻から子どもへ$18,000というふうに、夫婦で一人の子どもに対し年間合計$36,000まで非課税で贈与することが可能です。この非課税枠は、物価指数によって毎年増額されます。
この年間非課税枠を超える贈与をする場合は、連邦贈与税申告(Form 709)をする必要がありますが、必ずしも贈与税が発生するわけではありません。というのは、算出された贈与税額に生涯基礎控除額が適用されるからです。つまり、贈与する人が生涯に渡って生涯基礎控除額を超える贈与をした場合に初めて贈与税が発生するのです。
なお、米国市民はもちろんのこと、米国居住者が贈与する場合は、贈与財産の所在地や贈与を受ける人が誰であるかに関わらず課税対象になるので、注意が必要です。夫婦間の贈与の場合、贈与を受ける配偶者が米国市民であれば、非課税贈与額が無制限となるので、贈与税はまったくかかりません。贈与を受ける配偶者が米国市民でない場合や米国非居住者の場合は別のルールが適用され、一定の額まで非課税となります。
遺産税(estate tax)
以前のコラムで書きましたが、故人が死亡した日に所有していた資産のすべてをまとめたものを「エステート」と呼びます。
故人がワシントン州居住者の場合、資産の所在地を問わず、死亡した日に所有しているすべての資産の合計額が故人のエステート総資産(gross estate)となります。そして、ある程度の資産を超えるエステートに対して課税するのが「遺産税」という制度です。
州によって、遺産税のある州や、相続税(inheritance tax)のある州もあれば、遺産税も相続税もない州もあります。
ワシントン州は遺産税のある州なので、ワシントン州居住者のエステートは、米国連邦遺産税とワシントン州遺産税の両方の対象になります。
遺産税を支払う義務はエステートにあり、基本的に、相続人が支払う義務はありません。流れとしてはエステート総資産の中から、まず、故人の葬儀費用、故人の負債、遺産税やその他必要経費等が精算され、その残りを相続人が分けることになります。
一方、日本は相続税の制度を採用しているので、遺産の相続人が相続した資産に対して税金を支払います。
米国連邦遺産税(federal estate tax)
前述の通り、2024年度の連邦レベルでの生涯基礎控除額は一人につき$13,610,000で、故人が過去に申告した贈与を含めて、エステートがこの基礎控除額を超えた分について遺産税が課されます。ただし、控除額そのものが高額であるため、連邦レベルの遺産税を心配する人はかなり限られます。しかし、この高額の基礎控除額は2025年末を期限に終了することになっており、2026年からは 大きく減額される可能性があります。最終決定は、今年の米国大統領選挙の結果によって左右されるのではないかと思われます。
ワシントン州遺産税(Washington state estate tax)
ワシントン州遺産税の控除額は一人につき$2,193,000となっており、2018年から変わっていません。生命保険や401(k)といった個人年金口座などを考えると、この控除額にかなり近い方や控除額を超える可能性がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
米国連邦遺産税と同様、ワシントン州でも控除額を超えた部分が課税対象になりますが、税率は最低で10%、最高で20%となっています。また、故人が米国に住んでいない場合でも、ワシントン州内に動産・不動産を所有していた場合には、ワシントン州遺産税の対象となる可能性があるので要注意です。
米国連邦遺産税も、ワシントン州遺産税も、故人が亡くなった日から9ヶ月以内に申告を行い、必要であれば納税しなければなりません。申告と納税は基本的にエステートの執行人が行いますが、執行人がいない場合は、故人の財産を実際にまたは推定的に所有している人(多くの場合はトラスティーや配偶者)にその義務があります。
贈与税も遺産税も、課税対象となる人や受贈者や相続人の米国におけるステータス、つまり米国市民または米国居住者かどうかによって適用されるルールが大きく異なるので、必ず専門家に相談することをおすすめします。
Ako Miyaki-Murphey, J.D.
パーキンズ・クーイ法律事務所(Perkins Coie LLP)
シカゴでパラリーガルとして働きながら2002年にJohn Marshall Law School(現在はUniversity of Illinois Chicago School of Law)でJ.D.を取得。2002年から2006年までハワイ州の弁護士事務所で勤務した後、2006年にワシントン州弁護士資格を取得。シアトルのFoster Garvey弁護士事務所でトラスト・エステート法の経験を積んだ後、2020年から現在のPerkins Coie LLPに勤務。エステートプランの作成だけでなく、ワシントン州のプロベート手続きやトラストの管理、日本在住の遺産受取人代理や、相続税・贈与税申告書の作成も行う。
【公式サイト】www.perkinscoie.com
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