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ワシントン州の「エステートプランで作成する基本書類」一覧

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前回は、エステートプランについて基本的なことをご説明しました。今回は、ワシントン州でエステートプランを作成する準備やその書類についてもう少し具体的にご説明します。

これはあくまでもワシントン州在住者のエステートプランですので、ご注意ください。

もくじ

資産リスト

まず、自分の資産のリストを作ってみましょう。不動産や家財道具、車も含めて、セービングズ、チェッキング、CD、マネーマッケットなどのいわゆる現金口座、投資口座、個人年金口座、自分が亡くなった際に支払われる生命保険のポリシーなども含みます。

米国外に資産がある場合は、それもリストに入れてください。というのは、亡くなった人がワシントン在住者の場合、ワシントン州法では資産の所在地を問わず、亡くなった日に所有しているすべての資産の合計額がエステート総資産(gross estate)とみなされるからです。そして、総資産額が遺産税(estate tax)の控除額と同額または上回る場合、ワシントン州の遺産税申告が必要になります。

第1回のコラムから:米国では、亡くなった人の所有している資産すべてをまとめて「エステート」(estate)と呼びます。遺産を相続した人が相続した資産に対して「相続税」(inheritance tax)を支払う日本のシステムとは逆に、米国では亡くなった人のエステートが「遺産税」(estate tax)を支払います。

ただし、ワシントン州遺産税額を計算する際、ワシントン州内にある資産額がエステート総資産に占める割り合いが算出され、その割り合いによって遺産税額が決まります。

つまり、最終的にワシントン州の外にある不動産や有形資産は、ワシントン州遺産税の課税対象にならないということです。これらのルールはとても複雑なので、必ず専門家にご相談ください。

ちなみに、ワシントン州の遺産税控除額は2018年から変わっておらず、2024年の控除額は一人につき$2,193,000です。ここ数年の不動産価格の上昇やインフレを考えると、思っているよりも簡単にこの控除額を超えてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。

また、州の遺産税とは別に、米国連邦遺産税というのもありますが、2024年の控除額は$13,061,000ですので対象になる方はかなり限られています。

税金対策はエステートプランの目的の一つでもあるため、エステートがワシントン州または米国連邦遺産税の対象になるかならないかによって、エステートプランも変わってきます。

遺言書(Will)とリビングトラスト(Living Trust)

遺言書は、亡くなった日に所有している遺産を誰にどう分配・譲渡するのかを指示・説明する、主要な文書です。

遺言書の中で、亡くなった後に責任を持って遺産を管理し、遺言書通りに分配してくれる「執行人(personal representative)」を指名しますが、万が一、指名された人が執行人になれない、またはなりたくないという場合に備え、第二・第三の執行人候補を指名しておくことをおすすめします。執行人に指名する人は普通は一人で、場合によっては二人以上の人を「共同執行人」として指名することもできますが、複数の執行人がいる場合は基本的にお互いの合意のもとで動くことになるので、その分、フットワークが多少重くなるかもしれません。

さらに、米国以外、例えば日本にも資産がある場合、米国の遺言書は米国にある資産だけをカバーするのか(つまり日本にある資産については、日本の弁護士が別に日本で遺言書を作成するのか)、それとも米国の遺言書で全世界の資産をカバーするのか、またそれが実際に可能なのかを考えておくことも必要です。

また、前回もご説明しましたが、ワシントン州では18歳未満が未成年とされています。未成年の子どもがいる場合に子供の後見人を指名するのも遺言書の重要な役割です。

エステートプランによっては、遺言書だけでなく、リビングトラストを設定する場合もあります。その場合は遺言書とトラストをセットで作成しますが、この場合の遺言書は亡くなった日に個人名義で所有している財産のすべてをトラストに移動させるのが目的です。そのため、最終的な遺産の分配について指示・説明をする主要な文書は遺言書ではなく、トラストになります。

遺言書と同じように、トラストの中ではトラスト財産を管理・分配するトラスティー(Trustee)を指名しますが、これについても第二・第三のトラスティー候補を指名しておくのが無難でしょう。トラストを設定すべきかどうかについては、それぞれの個人の状況や税金対策によって異なるので、一概には言えません。

経済面と医療面に関する委任状

経済面に関する持続的委任状(Durable Power of Attorney for Financial Matters)とは、万が一、自分が事故に遭って意識がなくなったり、判断能力を失ったり意思疎通ができなくなった時に、自分の代理となって財産の管理をしてくれる人を指名する書類です。

本人の能力がなくなった時にもそのまま継続して法的効力を持つことから、持続的(durable)委任状と呼ばれます。信頼できる人を代理人として指名することができますが、やはり指名を受けた代理人が何らかの理由でその役割を務められない場合に備えて、第二・第三の後継代理人を指名しておくことをおすすめします。

基本的に、代理人にはワシントン州の統一委任状法(Uniform Power of Attorney Act)に沿った一般的な権限が与えられます。その範囲は広く、資産や負債について本人が行えるほぼすべてのことを本人に代わって行うことができますが、その一方で、代理人は本人の利益を最優先して行動する法的責任があります。代理人が与えられた権限の範囲を超えた行動を取ったり権限を濫用しないよう、代理権の範囲を制限する条項も明記されています。

また、未成年の子どもの後見人を指名することが必要になった場合、または本人が一時的に不在で子どもの医療について決定する人が必要な場合にもこの書類で後見人を指名することができますが、これについては遺言書で指名した後見人と一致していることが大切です。

医療面に関する委任状(Power of Attorney for Health Care Decisions)も、信頼できる代理人を指名する書類ですが、代理の範囲は本人への医療処置に関する判断や、入院やホスピスケア、在宅ケア等を手配するなど医療面に関してのみに限られています。

医療面に関する委任状は署名後すぐに有効となり、本人の不能や障害に係わらず法的効力を持ちますが、本人に決定する能力や意思疎通する能力がある限り、あくまでも本人の意思が尊重されます。

また、個人の医療記録や情報というのはHIPPA(Health Insurance Portability and Accountability Act of 1996)という連邦法で守られていますが、代理人はこの委任状により本人の医療情報を受け取ることができ、また、適切と思われる場合はそれを第三者に開示することもできます。加えて、本人のご遺体の処理方法(埋葬か火葬かなど)や葬儀についても、委任状の中で代理人が責任を持って手配をしてくれるよう指示することができますし、もし本人に献体や臓器提供についての意向があれば、この書類に明記しておくのがよいでしょう。

経済面と医療面、どちらの委任状も本人に能力がある限り、いつでも変更・取り消しができるので、数年に一度は見直しておくことがとても重要です。

医療に関する事前指示書(Health Care Directive)

これは、ケガや病気によって死がほぼ確実で、延命治療は死ぬまでの過程を延長するだけ、または永続的な意識不明状態でこの先の回復が見込まれないと診断された場合に、どこまでの治療を希望するかを明記する書類です。リビングウィル(Living Will)とも呼ばれます。

例えば、人工的な栄養補給や水分補給、薬や電気ショック、人工呼吸などによる心肺蘇生法といった治療を差し控えて自然に死にたいという方の権利はワシントン州法で認められていますし、逆に利用可能なすべての方法で自分の命が可能な限り延長できるように手を尽くして欲しいと思う方の権利も認められています。

つまり、死に直面した本人の希望を、家族や友人、医療関係者の意見に関係なく明記する書類ですが、法的効力を持つには、その旨を指示書に明記することが重要です。指示書が法的効力を持たない場合、書類はあくまでも本人の希望を明記したもので、最終的な判断は医療面に関する委任状で指名した代理人に委ねることになります。

次回は、名義の設定についてご説明します。

Ako Miyaki-Murphey, J.D.
パーキンズ・クーイ法律事務所(Perkins Coie LLP)
シカゴでパラリーガルとして働きながら2002年にJohn Marshall Law School(現在はUniversity of Illinois Chicago School of Law)でJ.D.を取得。2002年から2006年までハワイ州の弁護士事務所で勤務した後、2006年にワシントン州弁護士資格を取得。シアトルのFoster Garvey弁護士事務所でトラスト・エステート法の経験を積んだ後、2020年から現在のPerkins Coie LLPに勤務。エステートプランの作成だけでなく、ワシントン州のプロベート手続きやトラストの管理、日本在住の遺産受取人代理や、相続税・贈与税申告書の作成も行う。
【公式サイト】www.perkinscoie.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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