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第4回「シアトルで着物を着る機会は無限大」 まゆみ・トリップさん

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シアトルで着物を着る機会は無限大

母が30年前にあつらえてくれた着物を着て、母と。

まゆみ・トリップさん
東京都出身。米国公認会計士。大手監査法人で監査・税務・会計などの仕事に従事し、ロサンゼルス・大阪・オランダ/アムステルダム事務所に勤務。アムステルダム事務所では、ヨーロッパ統合で続々と進出してきた日本企業の設立・会計コンサルティングも手がけた。夫の転勤を機に家族で移住したシアトルで、大手企業の会計・内部監査部門で勤務し、2016年末に引退退職。現在はコミュニティ・カレッジのCulinary Artsのプログラムで、密かに憧れていたシェフになるための勉強中。

結婚した時に母が誂えてくれた着物、無地の色紋付と小紋、しつけ糸をつけたまま30年、箪笥の中で眠ったままだった。

アメリカに留学し、アメリカ人と結婚し、そのあともしばらく学生を続けるというパターンだったため、当時は着物を着る機会もなく、「結婚するとはいえ、なんで着物をわざわざあつらえるのか」と疑問のみで、母には申し訳ないが、もらっても全然嬉しくなかった。その後も、正式なパーティーなどに行く機会があっても、着物で出かけるなんて考えたこともなかった。

自分で着物の着付けができなかったせいもあるが、シミがついたりしたら日本と違ってクリーニングも簡単にできないし、その上、着物の手入れの仕方もよくわからなかったからだ。

それから続く何度かの引越しで、着物を荷物として梱包する度に申し訳ないような、ちょっと持てあましてしまうような気持ちだった。

シアトルで着物を着る機会は無限大

しかし、茶道を始めたのをきっかけに着物を着ることになった。なにしろお茶の先生が熱心な方なので、お稽古する生徒が一人だけでもキチンと着物を着て教えてくださる。それにつられてほとんどの生徒達がお稽古の際、着物を着るようになった。着物でお茶のお稽古をして初めてわかったのは、お茶のお点前中の動作は、着物を着ていることが前提で成り立っているということ。だから、お茶のお稽古の際は、できるだけ着物を着るようになった。

いよいよ、箪笥に長年眠っていた着物の出番だ。数年に一回くらい陰干しした以外は、まったく手入れもせずに入れたままだったから、よく見るとシミも出ているかなとおもいきや、なんとシミひとつなく色褪せもせずまっさらのままだった。着物ってすごいと思った瞬間だった。幾度かの引っ越し先が比較的乾燥していた気候だったせいもあるかもしれないが、着物は見てくれよりなかなかしっかりしている。

それから着物に関する本など読み始めて、着物を支えている日本の豊かな伝統を学ぶ機会を得た。まず、色。なにしろ日本の伝統色の種類は豊富で、西洋で使われている色の優に2倍はある。そして、柄。よく知られているサメ小紋や市松模様は伝統柄だが、今見てもなんてモダンなのだろう。着物を通じて、世界がドーンと広がった感じがする。

シアトルは西海岸の国際都市で、アジアの文化に慣れている人が多いせいか、お茶のお稽古の帰りに着物で宇和島屋はもちろんのこと、他のお店に買い物に行っても得に奇異の目で見られたことはない。たいていは見知らぬ人から「すごく素敵」と褒められたり、「自分は日本に行ったことがある」などと話しかけられたりする。私の知り合いで着物好きの日本人はワインテイスティングにも着物で参加し、まわりの人たちに褒めてもらっていた。

日本だと、ちょっと季節外れだったり、着物の着付けがあやしいと、あれこれ言う人たちがいるけれどシアトルだったらまったく何も言われない。また、値段でいい着物かどうか判断する人は少なくともわたしの周りにはいない。いい着物というのは着ている人の色映りがいいとか。柄が似合っているということのみで、値段の高低はまったく関係ない。だから「おっ、今日はなかなかいい着物じゃない」と褒めると、たいてい「ありがとう。これは京都アンティークで50ドルで買ったのよ」と、いかに安く購入したかは話題になるが、いかに高い着物だったかという話をする人にはまだ会ったことがない。

今どきは品質が良く、値段の手頃な中古の着物がたくさんあるので、汚れてしまったらお下がりにして他のものに転用するとか。日本に行った際にクリーニングに出すのもいいが、思い切ってアメリカのドライクリーニングに出した友人は、無事にきれいになったと教えてくれた。着物も箪笥に眠っているより、楽しんで着てもらえれば本望かもしれない。

着物を着る機会は探せばいくらでもある。パーティはもちろんのこと、コンサート、一般に公開されている初釜などのお茶会など。着物を着ている本人も心浮きたつけれど、色鮮やかな着物姿は周りの人たちも楽しんでくれること間違いなし。

シアトルの皆様、ぜひ楽しみながら着物着てみませんか?

掲載:2018年2月 文・写真:まゆみ・トリップ



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