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「新しいことに挑戦し続けたい」美術作家・陶芸家 松下沙織さん(まつした・さおり)

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陶芸家・松下沙織さんの制作風景

陶芸家・松下沙織さんの制作風景

結婚を機に、東京からシアトルに引っ越してきた美術作家・陶芸家の松下沙織さん。渡米から一年後の2021年に制作を再開し、個人販売に加え、卸販売も準備中。陶芸への思い、シアトルへの移住が作品に与える影響などについてお話を伺いました。

略歴:東京生まれ。2010~2019年にわたり武蔵野美術大学彫刻学科に在籍し、セラミックを専攻。陶芸はほぼ独学。2020年にアーティストである夫との結婚を機に渡米。シアトル近郊に移住。イギリス版『Vogue』の2021年7月~9月版にて紹介される。

【公式サイト】www.saorimstoneware.com
【インスタグラム】saorimsculpture | saorimstoneware
【Etsy】www.etsy.com/jp/shop/SaoriMStoneware

人とのつながりを作ってくれる陶芸

陶芸家・松下沙織さんの作品

2010年から2019年まで武蔵野美術大学に在籍し、彫刻を勉強していました。彫刻の中でも木や鉄などの素材を専攻するのですが、私が専攻したのはセラミックです。

最初は材料の性質をよく勉強しようと、大学にあった陶芸を教えてくれるコースを受けてみました。そこで陶芸の基本的なところだけ教わった後は、ほぼ独学でやってきました。
次々と作品を作っていたら、たくさんできてしまって。それで、自分一人で使いきれなくなった作品を同級生などにあげたところ、すごく喜んでもらえたんですね。それが私にとって、とても新鮮でした。器を作って、人に手渡しして、喜びを分かち合うというコミュニケーションは彫刻作品では出来なかったことなので、自分の世界の広がりに光がさすような感じがしたのです。それで、「もっとやりたい」と思い、どんどん続けるようになりました。

自分で創作することを楽しめるのが、一番です。誰かに注目されるためにやるとか、インスタで「いいね」ををもらうためにやるなどではなくて、自分がそれに熱中している時間が何よりも楽しいということ。そして、その成果物で人に喜んでもらえるというのがいいですね。

やりたいことがうまくできない時の悔しさをバネに

2~3歳の頃、母に折り紙を教えてもらっていた時のことを鮮明に覚えています。もともと土や粘土を触ることが好きだったものの、2~3歳ではなかなかうまく折ることができませんが、私はやりたいことをうまくできないのが悔しくて。

陶芸も、少しそういう面があったと思います。作りたいものが、思い通りに形にならなかったりすると満足いかず、できるまで時間を忘れてやる。それを続けていたら、上達していったという感じです。頑固なのかもしれませんね(笑)。

東京からシアトルに移住 不安よりもワクワク

陶芸家・松下沙織さんがインスピレーションを受ける自然

自然からインスピレーションを受けることも

日本で陶芸家と美術作家という二つのフィールドで活動してきましたが、結婚してから住む場所を日本とアメリカのどちらにするか、アメリカ人の夫と一年ほど話し合った結果、私がアメリカに来ることにしました。

夫もアーティストなのですが、外国人が日本に来て就職するのは大変で問題もありますし、アーティストとして活動しようと思った時にアメリカの方が圧倒的に自由だと思ったのが理由です。

新しいことを始めるのは好きなので、東京からシアトルに来ることについては、不安よりワクワクの方が勝っていました。

こちらに来てみると、水も自然もきれいで、気持ちが晴れます。そこで新しい作品のイメージをふと思いつくこともあったりします。

日本とアメリカの陶芸

陶芸家・松下沙織さんの製作途中の作品

制作途中の作品

渡米してから一年間は陶芸をすることができなかったので、ドローイングや、モノタイプという版画の一種、サイアノタイプという日光写真とも呼ばれる青写真などの技法で平面作品を制作していました。陶芸を再開することができたのは、2021年になって、窯を買ってからです。当時のアパートメントの許可を取りランドリールームにスタジオを作って、暖炉に窯を設置し、こじんまりですが作陶の環境を整えることができました。

一年間のブランクがあったので練習を兼ねて作り始めたら、自分で思っていた以上にたくさんできてしまって。自分のオンラインショップを立ち上げようと、ビジネスライセンスを取得して、ウェブサイトも作りましたが、やはり直接手に取っていただく機会がないとわからないものがあります。そこで、あちこちのマーケットでの販売に申し込んで、参加していきました。中にはインスタグラムから私のことを見つけて新進作家として出してくださるところがあり、日本から来たばかりなのに、注目される機会があることに驚きました。

マーケットではすぐ作品を手にとって、いいねと言ってくださる方がとても多かったので、新しいものを受け入れてもらえるアートシーンの柔らかさのようなものを感じました。私の経験では、日本における女性アーティストの立場は低く、女性だからという理由で排斥されたり、作品よりアーティスト自身に注目されがちだったりします。なので、こちらでは作品にもっと注目してくれることに、安心感を覚えました。

アメリカの陶芸の材料の流通は思っていたより行き届いていて、本当に種類が豊富です。日本の陶芸屋さんで扱っている釉薬(ゆうやく)は日本の陶芸らしい素朴な色合いが多いのですが、アメリカの陶芸屋さんでは色や質も本当に種類が豊富。日本だと陶芸家自身が調合していて「自分の秘蔵のレシピ」みたいなものが、普通に市場にあふれています。自分が調合法を知りたいと思ったレシピも、手軽に仕入れることができますし、あらゆるものがすでに市場にあります。技術をマーケットの中で共有しているところが素晴らしいですね。

陶芸家・松下沙織さんの製作途中の作品

制作途中の作品

釉薬をたくさん使おうとすればコストがかかるので、今まで通り自分で調合しようとしましたが、アメリカの釉薬の材料は日本のものと全然違っていました。日本の釉薬にも使う長石(ちょうせき)は似た性質のものはありますが、石灰や、植物を燃やした草木灰などをまだ見つけることができていません。なので、今まで作ってきた調合のレシピがまっさらになって、少し焦りを感じました。

やっぱり陶芸はその土地の由来のものを使うものなのだと実感しました。大陸も違えば、当然、採掘される原料の性質も違うので、一から勉強しなおして、新しい釉薬の調合法を工夫しています。

シアトルはガラスのアートが有名だと思いますが、陶芸をされている方も多いですね。特に、趣味で自分の窯を買って自宅で作っている年配の方もたくさんおられるようで、そういう方は日本の陶芸に影響を受けている方が多いという印象です。結構素朴な感じというのでしょうか。一方、若い方はデイリーユースではなくて、セラミックアートというような、現代陶芸寄りの人も多い気がしています。パンデミックで人と出会う機会が減ってしまいましたが、これからもっといろいろな機会を増やしていければ嬉しいです。

新しいことに挑戦し続けたい

陶芸家・松下沙織さんのお気に入りの場所の一つ、ウエスト・シアトルのアルカイ・ビーチ

お気に入りの場所の一つ、ウエスト・シアトルのアルカイ・ビーチ

これからは、ビジネスパートナーを見つけて、卸販売でも活動していきたいと思っているので、カタログなどを準備しているところです。

また、新しい技術や新しいスタイルを進化させていきたい。今の自分のスタイルとしてあるものを形骸化させたくない、という思いがあるんです。同じやり方で続けていけば楽ですし、人に知ってもらうきっかけにはなりやすいのですが、そこにずっとはまるのは避けたいですね。そうやって新しいことに挑戦し続けて、シニアになっても成長に妥協しないようにしたいと思っています。

掲載:2022年5月 聞き手:オオノタクミ

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